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Vol.41 鹿児島ユナイテッドU-14 監督/デイビッドソン・純・マーカス

  • 2021.09.30

    Vol.41 鹿児島ユナイテッドU-14 監督/デイビッドソン・純・マーカス

指導者リレーコラム

©️KAGOSHIMA UNITED FC

鹿児島ユナイテッドFCのU-15クラスでコーチを務めるのが、アメリカと日本の二重国籍を持つデイビッドソン純マーカスさん。現役時代にJリーグでの出場を重ね、アメリカに渡ってからは、その多岐にわたる文化や、個性を一つにまとめあげる指導者の存在に魅力を感じるようになった。指導者への意欲が芽生え、再び日本に戻ってセカンドキャリアをスタートさせたマーカスさんに、指導の楽しさや貫き続ける信念をうかがった。

―松本山雅U-15監督の須藤右介さんより、ご紹介いただきました。お二人のご関係を教えてください。

マーカス 3年前のB級ライセンス講習会で同部屋になったことがきっかけです。毎日講習を一緒に受けて、部屋でもサッカーの話をするようになったことですぐに打ち解けて、仲良くなりました。共通の友人がいることもわかって、今でもやり取りをすることがあります。

―マーカスさんは2017年まで現役でプレーされていました。その後大宮アルディージャで指導者としてのスタートを切りましたが、もともと志望はあったのですか?

マーカス そうですね、現役の時からわりとありました。特にアメリカに行ってから、指導者になりたい気持ちがどんどん出てきて。引退を決めたのも、指導者になることへの“パッション”が選手としてプレーする気持ちより上回ったことが理由の一つです。指導者の道に進みたい思いは強かったので、決意をしました。

―アメリカに行ったことで指導者への熱が高まった理由を具体的に教えてください。

マーカス もし日本にずっといても、指導者の道に進みたい気持ちはいずれ持っただろうと思います。ですがたまたま海外に行って、アメリカは本当に「多様性」があると感じた。いろんな選手や、バッググラウンド、文化を持った選手がいるので、そういう選手たちを「一つにまとめて同じ目標、同じ目的地に向かわせる」ことへの興味がわいてきたんです。一人一人個性のある集団をマネジメントしてみたいなと。自分が最大限選手の力を引き出してみたい、という気持ちが芽生えてきました。

―誰もが個性は持っていますが、日本より強い個性をアメリカに感じたということでしょうか。

マーカス 選手20人いれば20人みんな違う文化ですし、背景も全然違う。宗教一つにしても、まったく宗教を信じていない選手もいれば、クリスチャンもいれば、イスラムを信仰している選手もいる。どのような言葉で選手に向き合ったらいいのか、信頼関係を築いていけばいいのかは全然違う。そういう中で指導に向き合っている指導者を見たときに、人間関係に興味を持って、その流れでどんどん指導の世界に引きこまれていきました。

―初めはスクールでの指導でしたが、実際に指導者になられてみてどうでしたか。

マーカス 慣れないことはたくさんありましたが、すごい刺激的というか。面白いし楽しかった。幼稚園の年少さんから小6までを指導したのですが、年少さんは年少さんでいいところがあって、小6には小6の特徴がある。いい経験ができたし、子どもなので、みんな個性豊か。スクールに通うにしても、同じ場所に来ていても違う理由やモチベーションを持つ集団だったので、アプローチの仕方や信頼関係の作り方は多く学ばせてもらいました。

―ある意味アメリカ時代に見た「個性を持った選手をまとめる」に近いものがあったとも言えるでしょうか。

マーカス 集中力や規律の面ではまだまだ子どもなので、大変さもありつつ逆に僕はそれを楽しませてもらった。子どもって純粋でいいなと。僕がどうやって子どもたちを夢中にさせて、話を聞いてもらって、そのために自分が何をできるのかは試行錯誤しました。子どもたちから学ばせてもらって、本当にいい勉強になりました。

―子どもたちに向き合うことをマーカスさん自身も楽しんでいることがわかります。逆に難しく感じた瞬間というのはありましたか。

マーカス いいチャレンジと捉えていたので、難しいって感覚はなかったですね。

―1年後には中国へ渡っています。その経緯を教えていただけますか。

マーカス 中国に行ったきっかけも、人のつながりです。知人を通じてお誘いをいただいて。話を聞いたときに魅力的だと思いましたし、それまでのスクールと違って、「一つのチーム」としてトレーニングから週末の試合までサイクルで指導する。そのサイクルにトライしてみたい気持ちも強かったので、いいタイミングだと思ってすぐに返事をして行かせてもらいました。ほとんど迷いはなかったです。

―中国で指導をしてみて、日本とは違った指導の発見はありましたか。

マーカス 向こうではたまたま幸運にも通訳の方がいたので、僕が英語を話して中国語に置き換えてもらう。僕と通訳の信頼関係も大事だと常々思っていました。普段の会話から共有しながら、「マーカスはこういうことを子どもに伝えたいんだ」ってわかってもらえれば、僕と子どもの間のフィルターも薄くなって、100%の気持ちが伝わると思いました。

―日本以外の指導経験はどう還元していきたいと考えていますか。

マーカス 日本には日本のルール、規律、文化、いろんな常識がある。でも僕の考えとしてはそれが正解不正解というよりは、その国の、地域の現実なので。中国に行けば向こうなりの規律がある。いい部分もあれば、違いが出てきたり違和感を覚えることもある。でもそれがごく自然だと思っています。意識しているのは、「郷に従う」こと。その地域の文化があるので、まずは「リスペクト」すること。でもそのままだとその国の指導者でいいじゃん、となってしまうので、郷に従う中でも今まで培った経験や知識を自分なりの色で指導できればと思います。そうすればより価値のあるものが子どもたちに伝えられると感じました。

―今年日本に帰ってきた理由は、やはりコロナが影響しているのでしょうか。

マーカス はい。一番の理由はコロナ禍で、去年1年間家族と会うことができなかったからです。個人的にはとてもつらく、プライベートにおいてはハッピーでない1年間でした。それ以外は仕事でも刺激的に本当にいい経験をさせてもらいました。ただ、なんとか今年は家族との時間をつくりたい思いが強かったので。そう考えていたときにご縁があって鹿児島ユナイテッドでGMをしている登尾顕徳さんからお誘いの言葉をいただきました。なので、ぜひよろしくお願いしますと。彼とは現役時代徳島でチームメートとして1年間一緒にプレーをしていました。

―本当に人とのつながりで新たな道が開かれていくんですね。鹿児島ユナイテッドFCはどんなクラブだと見ていますか。

マーカス まだ比較的新しいクラブですが、これからどんどんグローバルに羽ばたいていくクラブなんだな、という印象です。自分が入ることでなにか還元できないかという思いで今は指導に打ち込んでいます。

―大宮アルディージャから鹿児島ユナイテッドFCまで、指導者になって4年が経ちました。ご自身の進歩や成長は感じていますか。

マーカス 経験をすればするだけ、自分が大事にしていることを再確認できたり、自分の中でぶれないところも固まってきています。それと同時に、まだまだ足りないことはたくさんある。個人的にはもっと指導に磨きをかけたいです。自信を持たないといけないこともあれば、自信過剰になってはいけないところもある。「自信がなければ子どもたちに対しても説得力ある言葉は投げかけられない」し、でも「自分のことを疑う気持ちも時には大事」なので。そこはバランス良くやっていきたいと考えています。

―「ぶれない」ものや、「大事にしている」こととは。

マーカス 子どもたちによく言うのは、「チャレンジしていくこと」です。常日頃言っていて、子どもたちにも具体的に伝えています。“コンフォートゾーン”があり、そのゾーンにいるのは居心地がいいと思うけど、子どもたちがそこから抜け出して、いかに今の自分より進化できるか、ということの大切さは伝えるようにしています。今できないことでもチャレンジしないと、向上しないし、サッカーもうまくはならない。チャレンジする大切さ、失敗してもチャレンジする気持ちは忘れてほしくないというのは、自分の経験からも言葉に重みを感じます。「リスクを負ってチャレンジする姿勢」は伝え続けようとしています。

―現役時代のお話がありましたが、現役時代の経験で今に生きていることはどんなことですか。

マーカス 子どもたちに個人的に伝えようとするのは、結局自分がやってきたことや見てきたこと、肌で感じたこと。それが一番説得力を持つというか。自分ができないことを子どもたちに伝えても、本当に自分の言葉にはなっていないと意識しています。子どもに言いつつ、それは自分に向けて言ってることでもある。自分も常日頃チャレンジしようとか、「昨日より今日」頑張るとか、「今日より明日」頑張ろうってことは、常に考えています。

―選手一人一人に伝える言葉を大事にしているんですね。マーカスさんの中で、選手時代に影響を受けた指導者の方はいますか。

マーカス 特定のこの人、というのは上げられないですけど、すべての指導者の方です。小学生で出会った指導者、中学高校プロと、その年代の僕に必要なことを教えてくれました。すべてがあって、今の自分がいると思う。一つでも欠けていたら今の僕はいません。今では出会ったすべての指導者の方のいい部分を盗んで自分の言葉や色にして、プラスアルファ自分の経験を含めています。

―楽しい、面白い、その気持ちが原点にあるように感じます。指導の面白さはどこにあるとお考えですか。

マーカス それこそ、「正解がない」ことが面白いです。これは奥さんとも話をするのですが、普段育児をしている奥さんと共通しているなと。育児でも、1つの方法でうまくいくことがあっても、違う時にその方法を試したらうまくいかないことはよくあります。いくら計画をたてても人間なので、育児も選手もその時の気分やテンションで結果が変わることは当然あります。選手であれば、例えば学校生活でなにかうれしいことや嫌なことがあったかもしれないし、恋愛でなにか悩んでいるのかもしれないし、家庭や学校の先生とうまくいかないことがあるかもしれない。練習に来るときのコンディションや精神的な部分はいつも違います。指導者としてもその時々で対応を変えていく必要がある。正解がないことこそが、僕としては楽しくやりがいを感じるところです。

―ちなみにお子さんはおいくつですか。

マーカス 3歳と1歳半の子がいます。僕も奥さんと育児の話をよくします。家庭のことをシェアするだけでなく、奥さんも僕の仕事の話を聞いてくれるので、ありがたいです。

―家庭や学校生活がサッカーにも影響するとのことですが、保護者の方との連係も大事な側面ですよね。

マーカス 一緒に活動しているコーチ含め、問題を抱えてそうな時は、本人とも話をしますし、保護者の方ともお話して、家庭での様子を聞いたりします。サッカーのいろんな戦術や技術を教えるのは、当然大事なこと。ですがそれ以上に子どもたちの精神状態を把握して、コミュニケーションを取ることはもっと大事だと思っています。今教えているのは中学年代ですが、一人の人間として育てるためにサポートをしたい。困っていることがあれば手をさしのべて、よりその選手の良さを引き出してあげたいなって気持ちは強いです。

―それでは最後に、今後の目標やクラブで成し遂げたいことを教えてください。

マーカス 指導者として僕が置かれている今の状況は、一人でもジュニアユースの子をユースに上げることです。ユースの選手がトップに昇格して、一人でも多くトップチームに輩出することは大前提。そこを求めつつ、でもプロになれる選手は一握りなので、鹿児島ユナイテッドFCで学んだものを違う分野でも生かしてもらえるような指導をしたいと思います。それが「リスクを負いながらもチャレンジすること」、すなわち「コンフォートゾーンから抜け出して新たな自分を発見すること」です。自分の行動力や知識を少しでも上げられれば、今後サッカー界で生きていくにしろ、例えそうでなくても、社会で生きるうえで本当に大事な要素だと思います。僕自身は毎日、選手たちに指導することが本当に楽しみです。グラウンドに行って選手に会うのが楽しみでしょうがない。僕たち指導者が思いきりやってることを楽しまないと、選手たちも「本当の意味での夢中になれない」のかなと。僕らが常に楽しんでピッチに立つことが、何よりいい指導につながると信じています。

―貴重なお話をありがとうございました。ぜひ、次の指導者の方をご紹介ください。

マーカス ツエーゲン金沢でユース監督をされている辻田真輝さんです。大宮アルディージャ在籍時代のチームメートで、一緒に寮生活をしていた仲間です。起きてから寝るまで一緒で、サッカー以外でも多くの時間を過ごしました。

<プロフィール>
デイビッドソン・純・マーカス(デイビッドソン・ジュン・マーカス)

1983年6月7日、東京・江東区生まれ。東京ガス(現FC東京)下部組織、米国のサッカースクールなどを経て2002年から大宮アルディージャ加入。その後Jリーグではアルビレックス新潟、ヴィッセル神戸、コンサドーレ札幌、徳島ヴォルティスに在籍。17年、米国のシャーロット・インディペンデンスで現役引退。引退後は大宮アルディージャのスクールコーチとして1年活動。翌年中国に渡り、広州富力(現広州城)のU-9コーチ、石家荘永昌のトップチームでアシスタントコーチを1年ずつ務めた。今季から鹿児島ユナイテッドFC U-15コーチ。

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