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Vol.25 チームを成熟させるには

  • 2021.09.23

    Vol.25 チームを成熟させるには

BRAIN〜ズミの思考〜

僕が考える『監督の仕事』とは、選手を成長させることと、チームを勝たせることだ。選手の成長を促し、チーム戦術を落とし込んでチームを成熟させることで、試合に勝つ確率を上げられると思っている。

チームが成熟する、とはどういうことか。それは監督がああしろ、こうしろと言わなくても、ピッチに立った選手が各々の役割を理解した上で、質の高い判断とプレーができること。そしてピッチ上で起きる問題に対し、自分たちで即座に解決できる力を備えることだと考える。
試合でプレーするのは選手であり、監督ではない。一つ一つのプレーの判断をその都度、監督が指示するのは不可能であり不必要でもあって、プレーの最終判断を選手がするのは当たり前のこと。それがやり甲斐や楽しさでもあると思う。
だから僕は常に「こうしなさい」ではなく「こうした方が上手くいくと思うよ」とか「こういう判断や、こんな選択もあるよね」というように、選手に選択肢を与える言い方を心掛けている。加えて、なぜそうしたら上手くいくと考えているのかを伝えることで、選手が納得してプレーに反映させてくれることが多いようにも思う。繰り返すが、ピッチ上で判断し、プレーするのは選手なのだ。

では、選手が質の高い判断のもとで、問題を解決する力を身につけるにはどうすればいいか。僕が考える方法は3つある。
① チームとしてのプレー原則(約束事)をはっきりさせる。
② それに伴ったトレーニングをする。
③ 選手同士でコミュニケーションを図るように促す。

① は、数学の問題を解くために必要な公式を与えてあげることに似ている。二次方程式を解くための『因数分解』のように。これを、サッカーに置き換えて考えてみる。僕は選手に常々、攻守のポジショニングの重要性を説いているが、それとあわせてポジションを取るための原則も伝えている。例えば、守備で言うならば、ボールの位置と味方選手との距離が公式にあたる。試合中、相手のサイド攻撃に手を焼いていたので、守備時に4バックから5バックに変えようと選手に伝えたとする。原則がなければ5人がどのポジションを取ればいいのかわからない選手も出てくる可能性もあるが、公式さえ頭に入っていれば4バックも5バックも、ボールの位置と味方選手との距離をもとに正しいポジションを導き出せる。これがプレー原則をはっきりさせることの利点だ。

その上で②。選手が頭で理解した上で、体に染み込ませるためのトレーニングを考え、オーガナイズを求める。先ほどのシステムの話で例えるなら、4バックで守るトレーニングと5バックで守るトレーニングをするのではなく、ボールのポジションと味方選手との距離を意識したポジションを取れるようになるトレーニングを行う。それによって原則が身につけば、目まぐるしく展開が変わる試合中も常に正確なポジションを取ることが可能になる。もっとも、正直これが何よりも難しい。僕自身も日々、指導者としての力不足を痛感している。

最後に③。ピッチ上で問題が起きた際に、どうすれば解決できるか、同じ問題が起きないようにするにはどうすべきか。僕は常々、選手同士で意見を伝え合うように促している。現在のFCティアモ枚方は、それができる選手が自然とピッチに立っている。実際、紅白戦をすれば、Aチームの選手の方が明らかに指示の声が多く出ているし、レスト時間でも意見交換が頻繁に行われている。当たり前のことのように思えてまだまだできていない選手も多いのが現実だが、選手全員がその意識を備えられるようになれば、よりチーム内が活性化し、ひいてはチーム力向上に繋がっていくのだと思う。

もっとも、僕自身はこれらを『与える』ばかりではなく、選手とのコミュニケーションを図ることで学んでいることも多い。先ほど、ピッチ上で判断し、プレーするのは選手だと書いたが、選手の判断から僕自身が新しい発見をすることもたくさんあるし、彼らの意見を聞いて考えさせられることもある。サッカーに正解、不正解がないように、自分の考えが全て正しいとも思っていない。
でも、だからサッカーは面白い。この先も、選手とともに成長を求め、サッカーを突き詰めながら、いつまでたってもたどり着けそうにない『答え』を求め続けることで、数多くの『勝利』につなげていきたいと思っている。

  • 小川 佳純Yoshizumi Ogawa
  • Yoshizumi Ogawa

    1984年8月25日生まれ。
    東京都出身。
    07年に明治大学より名古屋グランパスに加入。
    08年に新監督に就任したドラガン・ストイコビッチにより中盤の右サイドのレギュラーに抜擢され、11得点11アシストを記録。Jリーグベストイレブンと新人王を獲得した。09年には、かつてストイコビッチも背負った背番号『10』を背負い、2010年のリーグ優勝に貢献。17年にはサガン鳥栖に、同年夏にアルビレックス新潟に移籍し、J1通算300試合出場を達成した。
    20年1月に現役引退とFC TIAMO枚方の監督就任を発表し、指導者としてのキャリアをスタートさせた。

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