COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > Vol.2「試合に出たい」

Vol.2「試合に出たい」

  • 2023.04.27

    Vol.2「試合に出たい」

絶康調

©︎VEGALTA SENDAI

ようやく今週、もも裏を痛めた怪我から復帰した。チームの苦境にみんな危機感を持っている。オレも早く勝利に貢献できるよう状態を上げていく。

振り返ると今までのキャリアでも怪我での離脱は結構あって、最長で2~3カ月。そのときは肉離れして復帰してまたやってって感じ。選手に怪我はつきものだけど、つらいよね。鹿島でJ1の年間優勝を果たした2016年は、チームの負けが込んでいたシーズンの終盤ほとんど試合に出られなかった。1stステージで優勝していたから優勝を決めるチャンピオンシップには出られる状態だったけど、そのときに自分が怪我して「何しているんだろう」って思っていた。石井監督が苦しんでいるのを見ていて、タラレバになっちゃうけど自分が怪我してなければと思った。出られない悔しさともどかしさがあった。まあ、その怪我があったから自分の体に気を遣うようになったんだけどね。それまではメンテナンスとか全くしていなかった。マッサージは試合前後で疲れているときに受けた程度。氷風呂とか大っ嫌いだったし。今も嫌いでできれば避けて通りたいけれど、必要だから仕方なく入っている。詳しい人たちから学んで自分に合うかどうか試しながらいろいろとケアしている。体を気遣うようになってからも怪我はしたけれど、この歳までサッカーできているのはそこで気付けたからじゃないかな。今回長期離脱する大怪我にまで至らなかったのも、日々気をつけていたからだと思いたい。

脚を痛めたのは4月1日の長崎戦。後半途中に出たのに10分ちょっとで急にもも裏が「やばい」ってなって、このままじゃチームに迷惑をかけてしまうと思って引っ込んだ。チームの流れが良くなっていって、さあここからというところだったからなおさら悔しかった。途中から出て途中で引っ込んでっていうのは、サッカー人生で一番ださい退場シーンかも。スタメンで出て前半で引っ込むことはある。ただ、あの試合のオレの退場は、監督も「え?うそでしょ?」ってなるじゃん。あの時は「ごめん彰さん(ベガルタ仙台、伊藤彰監督)」がまず最初にきて、試合後全力でみんなに謝った。あんなださい退場したくないじゃん。絶対嫌だもん。超ださい。もうあんなの嫌。しかもホームだったし。

あの週は試合に向けての練習からかすかな違和感があった。確認して大丈夫そうだったからやったんだけど、結果として駄目だった。オレは基本的に練習を休みたくない。明らかに状態が悪いときは仕方がないけれど、できれば休みたくない。試合に出られなくなる要因は怪我だけじゃなくて、元気でもメンバー入りできないこともめちゃくちゃある。ただ、たまに耳にする「干されている」っていう表現はよく分からない。ちゃんと練習をやっていれば干す人なんていないと思っている。干すという言葉そのものが好きじゃない。けれど、結果として干されているのならその選手自身の問題じゃないかと思っている。試合に出られないときはつらいけど、毎日練習で頑張るしかない。1日調子がよくてどうだじゃなくて、それをどれだけ続けられるかが大切。そして、出番を与えられたときに短い時間でも結果を出すのがプロ。試合に出てないときこそが自分やサッカーと向き合い、成長できる場だと思う。ちゃんと練習し続けて壁を乗り越えたられたときは、間違いなくどんな選手よりも良くなると信じている。

鹿島時代を思い起こせば、タイトルを取ってもうれしいのはそのときだけで、すぐ追われる立場になってもっとやらないと勝てなくなる怖さもあって、練習から必死だった。実戦形式の練習はサブにとって貴重なアピールの場で、調子が良ければ試合出場の機会が増える。Aチームを食えばサブ組が評価される。だからみんな練習からくってかかっていた。2019、2020年ぐらいに試合に全然出られない時期があった。それでも干されたとは全然思っていなくて、練習で見せるしかないと思っていて、ちゃんと戦えるところを見せて、久々に出た試合でゴール決めてまた試合に出られるようになった。そういうことの繰り返しだよね、前目の選手なんて特に。チームの攻撃が回っていなかったり、点を取れなかったりしたら前の責任だと思うから。

サッカー選手でずっといい思いをしている人はいない。失敗体験ばかりで成功体験は少なく、喜んでいられる時間は短い。ゴールを決めてそれが決勝ゴールで試合に勝ちました。じゃあ次の試合はもっと頑張るのがサイクルだけど、そう簡単にできなくて悔しくて練習する。ずっと前を向いて頑張っている。くさっている時間なんてもったいない。だから、素質があるのにくさっている選手を見るといらいらする。時間がもったいないだろって。選手に必要なのはどれだけチームのためにと思って戦えるかだと思う。くさっている選手が試合に出るのは一番よくなくて、士気がガクっと下がる。「こういうやつも出られちゃうんだ」って感じたら、くさらずに頑張ってきた選手のモチベーションが下がる。とんでもないプレーで毎試合5点取ってくれるなら目をつぶってやるかもしれないけどね。くさっている選手にオレから何か言うときもあるけれど、口酸っぱくは言わない。人は自分で気づかないと変われないから。うまく誘導する方法があったら教えてほしいぐらい。サッカー選手は本当に人間性が大事だと思っている。技術だけじゃない。「うまい選手」はいくらでもいるし、毎年のように出てくる。挨拶とか気遣いとか。そういうことを当たり前にできて人としてしっかりしている選手が長く残れるし活躍できている。自分の人間性がいいかどうかは分からないから置いといて、周りを見ていてそう思う。

オレの離脱中に大夢(ベガルタ仙台MF鎌田大夢)がチャンスをつかもうとしている。元々大夢は誰よりもセンスがあるし、見ていて面白いと思っている。攻撃センスに目がいきがちだけど、実は守備がすごくいいんだよね。分かりやすくガチンって取るんじゃなくて、すっと足が出てくる。「そこに足が出るんだ」って感じのところもいけている。意外でしょ。気の利いた守備をするなと思う。アンカータイプでガツンと取りにいくエヴェ(ベガルタ仙台MFエヴェルトン)とはタイプが違う。大夢は去年途中でポジションを失い、またはい上がってきた。そうやってライバル関係になることこそがチームを強くするんだよね。成長してきたやつに負けないようにとみんなが頑張っていけば、自ずと競争力の高いチームになる。それがプロのチームじゃん。出番を失ったら練習から頑張るしかない。それが一番の近道だし。確実に言えることは、試合に出られる方が楽しい。これは間違いない。試合でいい思いをするために苦しい練習も歯を食いしばってやっている。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

Vol.92 2024シーズン、始動。