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中断明け、最初の試合となったJ1リーグ22節・北海道コンサドーレ札幌戦は3-0で完封勝利を挙げることができました。
約3週間の中断期間を挟んで迎えたこの試合は、チームにとってすごく重要な意味を持つと思っていました。鹿島にとっては中断前最後の21節・FC東京戦で4試合ぶりに白星を挙げていた中で、その流れを途切れさせたくなかったのもあるし、ここで白星を掴めるかは、今後、上位争いに生き残っていけるかの明暗を分けると考えていたからです。
試合は、キックオフからわずか12秒で雄太(樋口)が先制点を挙げるという、思わぬ展開でスタートしました。正直、あまりにも早すぎて、控え選手の数人はまだロッカールームでの準備中だったし、僕自身もベンチにはいたもののアップ後の栄養補給のためにバナナを食べている最中でした。つまりは、チームメイトすら欺くほどでしたが、間違いなく、チームを勢いづける先制点になったと感じています。また、畳み掛けるように15分という早い時間帯で、雄太のコーナーキックからナオ(植田直通)が追加点を奪ったことも、さらに追い風になったと思っています。前半の早い時間帯での2-0というスコアはチームを落ち着かせただけではなく、加入して間もない須貝(英大)やプロ2年目の若い修平(溝口)といったJ1リーグでのキャリアの少ない選手の緊張をほぐす上でも大きかったんじゃないかと思います。そして、仕上げは3点目を挙げた優磨(鈴木)。相手に少し流れを持っていかれそうになっていた時間帯に決めた追加点は、完全に相手の息の根を止めるものになりました。
この試合で改めて感じたのは、17節・湘南ベルマーレ戦でスーパーな直接FKでゴールを決めて以降、明らかに雄太のキックの質が良くなっていることです。
鹿島の大きな得点源であるセットプレーでのプレースキッカーを任されている時点で、チーム内でも彼のキックの質が高いのは明らかですが、それにもまして、湘南戦における今シーズンのリーグ戦初ゴールが、しかもスーパーすぎる一撃が決まったことで、何か彼の中で覚醒したというか…本人に聞いたことはないですが、それまでとは違う感覚でプレーしている気もします。
その証拠に、現時点でのアシストランキングにおいて雄太は単独首位(11アシスト)に立っています。もちろん、プレースキックの場合、先に書いたナオや優磨を含めて中で合わせてくれる選手がいてこそですが、裏を返せば、彼らのゴールも、いいプレースキッカーがいてこそだと言えます。そういう意味では…これは以前から言っていることですが、Jリーグでも『得点王』に限らず、『アシスト王』がもっと注目されてもいいんじゃないかとも思います。以前、ブラジル代表のロマーリオが「有名になりたいなら、何も考えずに俺にパスを出せ。俺がアシスト王にしてやる」的なことを言っていたというのを記事で読んだことがありますが、いうまでもなく、点を獲るためには『アシスト』が不可欠です。また、そこへの注目を集めることで、より素晴らしいプレースキッカーが育つ可能性も広がるんじゃないかとも思います。
…と、雄太を褒めちぎったものの、これまで、野沢(拓也)さん、ヤットさん(遠藤保仁/ジュビロ磐田)という日本を代表するプレースキッカーと同じチームで仕事してきた僕にしてみれば、雄太にはまだまだ伸び代があると感じています。敵としてしか戦ったことはないものの、そのキックの精度に驚かされてきた俊さん(中村俊輔)を含め、この3人が魅せてきた球種の豊富さ、精度、キックの正確性、実際にそれをゴールに繋げてきた数など、今のJリーグにはまだ彼らの右に出る選手はいません。実際、野沢(拓也)さんと同じチームでプレーしているときは、直接FKを手にした時点で「ああ、もう入ったな」と何度思ったことか! 何度、その予感通りに決まったか! そのくらい絶対的なチームの得点源になっていましたし、ヤットさんに関しては練習ですら10本中9本は決めていたという精度の持ち主でした。しかも、球種も、曲げる、カーブの強弱、縦回転、速くて落ちるみたいなスピードカーブ、ブレ球までめちゃめちゃ豊富だったのも驚きでした。俊さんに至っては、ピッチが濡れているのか、乾いているのか。また、芝の長さによっても蹴り方や足に当てる面積を変えていた、というような異次元の話を聞いたこともあります。
そんな彼らに比べても雄太にはこの先、極められることがまだまだあるはずだし、その彼のキックをチームの武器にしていくためにも鹿島はもっと、ゴールから25メートル以内位での直接FKのチャンスを増やさなければいけないなとも感じています。セットプレー以上に、直接FKは試合の流れ、展開に全く関係なく、誰にも邪魔されずに自分の間合い、感覚でゴールを奪えるチャンスです。それによって得点数が増えれば、間違いなくチームのプラスになります。そこはこの先、より僅差の厳しい戦いが予想される試合の中で勝ちを掴んでいくためにも、意識的に増やすべき武器だと思います。
22節を終えて、J1リーグの残り試合は12試合になりました。首位との勝ち点差は現時点で8の開きがありますが、この12試合には自分たちより上位を走る4チームとの直接対決も残しています。ましてや12試合のうち7試合をホーム、カシマスタジアムで戦えるのも僕たちにとって大きなアドバンテージです。加えて言うなら、アウェイでの5試合も、26節・湘南ベルマーレ戦、34節・横浜FC戦は関東圏での対戦ですし、30節・ヴィッセル神戸戦も国立競技場で行われます。
つまり12試合のほとんどを、たくさんのサポーターが足を運んでくれる関東圏やホームで戦えます。このアドバンテージを追い風に優勝争いに食らいついていくという流れを作り出すためにも、まずは次節・名古屋グランパス戦で是が非でも白星を掴み、ホームに戻ってきたいと思います。
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昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。