柏レイソルU-18時代の自分自身の経験から、「アクションを起こす」と舵を切って人生を動かした。その後の海外経験を通じて感じた世界や知見をもって、指導者として選手たちと真摯に向き合う道を歩む御牧考介さん。
その源にあるものは、しっかりと物事に対して向き合って考える姿勢だ。その姿勢から得たもの、またそれをどのように子どもたちへ伝えていくのか。子どもたちを取り巻く環境の分析とともに、サッカーだけにとどまらない、「社会で生きることができる人間を育てる」ことを目指した指導について聞きました。
―現在の活動内容について教えてください。
御牧 柏レイソルアカデミーでU-15の監督を担当しています。1週間のスケジュールは、主に火水木が練習で、土日が試合という流れです。
―今のチームと関わるようになった経緯について教えてください。
御牧 地元である千葉県の小学校でサッカーを始めて、スカウトされて柏レイソルジュニアユースに中学から所属していました。大学卒業時に柏レイソルから「指導者として働かないか」と誘っていただいたのですが、当時はサッカー選手を目指していたのでお断りしたんです。でもそのときに、「またいつかレイソルに戻りたい」という話をさせてもらっていました。その3年後ですね、「選手としてやり切ったので、指導者としてやらせてください」と、こちらから連絡させてもらって、そこから指導者としてのキャリアをスタートすることになりました。大学卒業後の1年間は、サッカー選手浪人をして海外のいくつかのチームのトライアウトを受けて、主にニュージーランドで2年間プレーしました。
―指導する上で一番大切にしていることは何ですか?
御牧 個性を認めることが大事だと考えています。ピッチ内での個性もそうですし、ピッチ外での個性もそれぞれ違うので、そこを削ったり変に付け加えたりせずに、そのままの姿でより成長してほしい。個性を認めながらプレーしたり、人間性を高めていってほしいと思っています。ピッチ内外はつながっていて、例えばおしゃべりが得意な子もいれば苦手な子もいます。サッカーは人がやるスポーツなので、そもそも持っている個々のパーソナリティを尊重した上でその子に向き合って、僕だけの基準で彼らを測るのではなく、それぞれの違いを大事にしたいと考えています。苦手なことも認めてあげることで伸ばしていくことも大事。得意なことはさらに伸ばしてあげればいい。子どもたちよりも少し長く生きている分、おこがましいですがそれぞれの長所と短所を知ることで、それを踏まえて成長できるような指導をしていくことを大事にしています。
―10年の指導者としてのキャリアのなかで、子どもたちの変化を感じる部分はありますか?
御牧 子どもたち自身はほとんど変わらないといえば変わらないのですが、インターネットなど情報量が増えて、今やいろいろな情報が自分で手に入れられるようになっています。そんな環境のなか、自分の目の前のことに集中して向き合うのは、これまでになかった大変さがあると思っています。でもそれができて自分に向き合えた選手は、やはり伸びていくなと感じることが多いです。少し前までは、サッカー一筋で他のものに目もくれないことが集中しやすい環境でしたが、今はそうじゃない。目移りしやすい環境のなかで、一つの物事に集中して向き合える、そんな選手が伸びていきますね。
SNSは良いところだけが目に入る傾向があります。いい結果までの過程で必要となる、小さなことや大事なこと、壁にぶち当たることは過程として当たり前にあることですが、それが見えづらい世の中になっています。中学年代は、日常の積み重ねや自ら壁を乗り越えていくことを一番経験しないといけない年代です。壁や挫折があって当たり前なんだということを認識させることも大事かなと思っています。昔も今も変わらないですが、成長曲線はずっと右肩上がりだけではないと同時に、努力し続けないといけないことを伝えられればと思っています。
―選手また指導者として、これまでに転機はありましたか?
御牧 僕が高校3年で最後の公式戦に出たときのことです。緊張や怖さもあって、ボールを受けられないポジション取りをしたり、受けられるのに呼び込まなかった。自らアクションを起こせなかったことで交代となりました。その当時は何も考えられなかったですが、自分の人生においてピッチの中も外も自らアクションを起こすことがすごく大事なことだと後から気がつくことができました。今では自分の失敗談として、指導している選手たちにも大事なことの一つとして伝えています。それまでのプレーでも自分の性格からアクションをためらうことが何度かありましたが、本当の意味で気づかせてもらえたのが最後の公式戦で大きな機会だったなと思います。
―選手としてもコーチとしても大きな経験ですね。
御牧 そうですね。それまでの僕は海外に行くようなタイプではなかったんですが、大学卒業後に自分から動いてみようと思ったのはその経験があったからです。指導している選手たちには同じ失敗をしてほしくないので、一番伝えていることです。
―自らアクションを起こして過ごした海外経験は、その後にどのような形で活きていますか?
御牧 それまでのサッカー人生は比較的ストイックに、いろいろなものを犠牲にしながらサッカー選手を目指していたんです。でも、ニュージーランドのチームで少し違う世界を見せてもらいました。それぞれ仕事をしながらサッカー選手としてプレーする環境のチームだったんですが、加入当初は練習以外の時間もサッカーのことばかり考えていて、それが正しいと思っていたんです。でも、チームメイトたちはみんなでお酒を飲んだり、人として楽しむ時間を一番にしてゆったりと過ごしている。要はサッカーが第一ではなく、その次くらいにある。だからこそなのか、いざ試合となると余計に熱が入るんですよね。簡単に言ってしまうと「オンとオフの切り替え」ということですが、そこがすごく新鮮に映って「こういう生き方もあるんだなぁ」とすごく勉強になりました。自分の物差しだけで物事の善し悪しを測っていたところがあったんですが、たくさんの国籍の人がいたことで、「自分は違う」とか「それもありだね」と思えるようになった。これは自分のなかですごく大きい経験でした。
―担当されているU-15の年代で大切にしていることは何ですか?
御牧 どの年代でも大事なことですが、サッカーに向き合うことです。追求する楽しさを感じてもらうことを一番大事にしています。楽しいことや誘惑が多い時期ですし、進路のことや学校での人間関係だったり、いろいろなプレッシャーがある。そんななかでも、自分からサッカーと向き合う、没頭することで見つけられることがあります。僕自身、選手のときは試合よりも毎日のトレーニングの方が張り詰めた空気感がありました。楽しさもあったし、うまくできるかなというプレッシャーもあってすごく特別な時間でした。中学1年から高校3年まで、同じ指導者のもとで同じグループでやっていた6年間はずっとそんな感じで、今でもベタベタした仲の良さではなく一緒にサッカーをした仲間としての深い絆があります。人生においても指導者をやる上で、中高時代に培ったものが基準になっていて、すごく濃密な6年間でした。その基準をもって指導している選手たちと接していますし、もちろん同じようにはできませんが、サッカーに向き合うことはこういうことだよというのを伝えようと指導しています。当時の仲間は同じ職場で働いてる人もいますし、まだ選手でやってる人もいます。特に会って話したりしなくても刺激し合っている関係で、僕の人生においてはすごく大きな存在です。
―今後の展望やご自身の夢、チームとしての夢はありますか?
御牧 まだまだ先のことですが、僕が指導に携わった選手が誰かに必要とされる存在になっていることです。最近になって改めて考えていた夢ですが、一番最初に指導した子どもたちが当時10歳で、今年で高校3年になります。まだ社会に出ていないのですが、今後プロになったり社会に出ていくことを想像すると、指導した子どもたちがいろいろな人に必要とされる人間になっていてほしいなと思っています。
―ご自身の指導者としての今後の展望はありますか?
御牧 僕は柏レイソルが大好きなので、レイソルに必要とされ続けることがまず第一ですね。そのなかで僕自身も、プロでも育成でもカテゴリーを問わず、いろいろなところで必要とされる存在でありたいと思っています。
―今もしくはこれから発信していきたいことはありますか?
御牧 自分自身への奮起も込めて、少し壮大な感じもしますが「自分を表現し続けることが大事」だと改めて感じています。自分の持っているいいところも悪いところも表現して、そこを認めてくれる人と場所を求めていく。また、僕は今指導者として子どもたちが表現するものを受け止める側でもあるので、そういった場を作ることも考えています。自分らしさみたいなものを素直に出し続けることで、自分の居場所を見つけられたらいいなと思います。
―それはサッカーだけでなく、人としても大事なことですね。ありがとうございました。次の指導者のご紹介をお願いします。
御牧 浦和レッズU-15GKコーチの杉尾一憲さんです。
<プロフィール>
御牧考介(みまきこうすけ)
1990年4月3日生まれ。千葉県出身。小学校からサッカーを始め、柏レイソルのU-18から青山学院大へ進学。ニュージーランド、オーストラリアなど海外のチームを経て、帰国後に指導者の道へ。柏レイソルでコーチ、監督の経験を積む。JFA公認A級ライセンスを持つ。