24日のモンテディオ山形とのダービーは、お互いの良さを消し合った試合だった。その前の長崎戦も前半に押し込まれて後半に盛り返している。後半の戦いを前半からやれていれば多分そんなに困らないとはいえ、何もかもがうまくいくことなんてまずない。鹿島のときもこういうときはあった。前半からアグレッシブにいこうって試合に入るけれど、相手の出方を見て戦うほうが案外勝てた。前半を耐えれば後半は相手も疲れてくるから、それもありっちゃありなんだけど、現状は後半の最後の最後で決め切れる場面、シュートを打ち切れる場面がなかなかない。押し込んではいて、あと少し。90分を通して圧倒するのは難しいから、この戦いぶりは悪くない。最近は前に蹴ってセカンドボールを拾う形が減って、ビルドアップでじっくり攻める時間が増えた。結局、チャンスを作れるのは、裏を取るところだから一発でそれができるなら一番強い。ただ、やり通すのは体力的に厳しいから自然と進化していった感じじゃないかな。
後半別チームみたいになる要因は、分析などスタッフの力が一番大きいと思う。そして、ゴリさん(ベガルタ仙台・森山佳郎監督)がハーフタイムにかける言葉が選手にストレートに伝わり、選手が信じ切れている。うまくいかないときって、指示を受けても選手間で「ピッチの中はこんな感じなんだけどなあ」とか「これ無理じゃね?」みたいなネガティブな会話になる。でも、今は練習中からもそういう言葉が全然出ないし、いい方向を向けている。情熱的なイメージが強いゴリさんも、すごくクレバーだなと思うことが多々ある。ゴリさん自身もスタッフ選手含めて、みんなでチームを創りあげていくものだと理解しているような気がする。監督って孤独だし、決断しなきゃいけないし、結果に対して責任を取らないといけない。だから、結局自分のやりたいようにやって監督の色にしていくんだけど、周囲の話をよく聞いてから方向性を決めているのがすごく伝わってくる。だから、言うことがみんなの頭にスッと入って実行できるんだと思う。強度が高くてきつい練習もやれているし、自然と試合に出ている。ゴリさんの力はすごいんだなと思いながら、選手も追い付け追い越せぐらいの気持ちでいかないとこの殻は破れないんだろうなと思う。いいサッカーから勝てるサッカーに変わるようにね。いつも言うように、個々の成長も必要になる。最低限のベースはゴリさんが築いているので、そこに選手が乗っかって、最後のクオリティーを高めていかないとね。
ゴリさんの「当たって砕けろでいい、ダメだったらもう1回やればいいじゃん」っていうスタンスは、オレの考え方と似ているなって思う。だから今の若手がうらやましいと思うよ、本当に。ゴリさんに出会えてさ、J1でもこういう監督ってなかなかいないと思う。練習試合で良かったらすぐ使うとか。オレだって離れていたけど、合流して結果を出せば試合に出られると信じられるしね。もうケガしたくないっていう怖さもあるし、チームに迷惑かけたっていうのがすごく大きいから、早くみんなとやりたいし、自分ならではの色を出していきたい。オレは「やれ」って頭ごなしに指示されるとやりたくなくなっちゃう“あまのじゃく”なところがある。「黙って外に張ってクロス上げ続けろ」って言われたらずっと中にいるかもしれない。そこで結果を出せばいいでしょって。そうやって結果を出して残ってきた。監督の求める戦術はいろいろあるのを理解した上で、自分が戦術になっちゃうのが一番手っ取り早いじゃん。自分のポテンシャルを最大限に出せるし、結果につながればチームの力になれる。そういう選手がたくさんいればめちゃくちゃ強い。それをうまくかみ合わせるのが監督の仕事で、ピッチ上でうまくすり合わせていくのもサッカーの醍醐味だし、化学反応でまたいい形が生まれる。「戦術三笘」の三笘選手(プレミアリーグブライトン・三笘薫)とかそうだよね。個の打開力に長ける三笘選手を最大限に生かそうとする周りもプレーの幅が広がる。前線の選手の目指す究極はそこ。現状ベガルタにはそこまで突出したものはない。チームはうまく回っているし、見ていてもアグレッシブでいい戦いをしているけど、最後のところで「惜しい」で終わっちゃっていることが多い。もっと狙っていきたいね。
大事なのは昨季みたいにならないこと。去年の今ごろもちょうど山形とのダービーで、惨敗した。そして、そのあたりからまったく勝てなくなった。J1昇格プレーオフどころかJ3降格の危機にさえ陥った。初めてああいう状況を目の当たりにして「ああ、こうやってチームは落ちていっちゃうんだ。こんなにうまくいかなくなっちゃうものなんだ」って思った。彰さん(ベガルタ仙台前監督・伊藤彰)の言うことがスッと入ってこなくて、みんな頭に「?」が浮かんだような状態で判断も遅くなっちゃっていた。ただ、それはうちら年上の選手が悪かったところもあるかもしれない。彰さんもいろいろなプレッシャーがあってしんどかったと思う。そのプレッシャーをみんなで共有して彰さん1人が抱え込まないように、もっと寄り添ってチームとの架け橋にならないといけなかった。今年はそうならないように引き締めていかないと。長崎戦も山形戦も、「いい試合ができた」で終わっていちゃダメだって、選手が思わないと勝てる集団にはなれない。いいサッカーはできている。でも3試合連続ドローだと1勝2敗と勝ち点は変わらない。それを分かっているかどうかも大切。勝てるチームになるんだったらここで絶対に満足しちゃいけないし、それを選手が感じて戦わないと変われない。練習にも完全復帰できたことだし、どんどん伝えていきたい。それがキャプテンとしての役目だし。オレの言うことが絶対に正しいなんて言えないけれど、鹿島での経験とか、自分が歩んできた道のりとか、後悔してきたこともたくさんあるからね。
遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。