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Vol.64 浦和レッズ ジュニアユースGKコーチ /杉尾一憲

  • 2024.08.07

    Vol.64 浦和レッズ ジュニアユースGKコーチ /杉尾一憲

指導者リレーコラム

©URAWA REDS

急激に成長していく過程で揺れ動く子どもたちの心を、ピッチ内だけでなくピッチ外でも丁寧に受け止め、個々に合わせたアプローチを重ねることでサッカー選手としての心の成長も促す杉尾一憲さん。その指導は、自身の苦い挫折経験とそれを乗り越えるために積み重ねた努力、そして常に学ぶ姿勢を持つことで出会った人から得られた大切な学びに満ちています。時代とともに深みを増すGKというポジション。そのあるべき姿と変わらないもの、そしてこれからのGKに必要なものについて聞きました。

―現在の活動内容について教えてください。

杉尾 浦和レッズでアカデミーのGKコーチとして活動しています。担当は中学生対象のジュニアユースがメインですが、小学生対象のジュニアでの指導にも携わっています。基本的には午前中からクラブハウスにいます。相手チームの分析、GKのトレーニング指導の分析、「どのように良くしていくのか」という今後に向けた指導計画を立てたりしています。そういったチームマネジメントに関わる事務作業をメインに、ピッチに出るのは学校が終わって選手たちが来る夕方からですね。

―浦和レッズと関わるようになった経緯について教えてください。

杉尾 もともと中学高校時代に浦和レッズのアカデミーで選手としてプレーしていました。高校卒業後は大学に進学したのですが、選手としては引退。恩師のご厚意があって、大学在学中からアシスタントコーチとして浦和レッズアカデミーに携わらせていただいて、指導者の勉強をさせていただきました。大学卒業後は三菱養和SCで5年ほど指導者としてお世話になり、2014年に浦和レッズへ戻ってきて今に至ります。

―指導する上でどのようなことを大切にしていますか。

杉尾 僕自身が浦和レッズアカデミーでいろいろなことを教わってきたなか、サッカーのことはもちろん、心を成長させることを大事にしています。僕が関わっている中学生は、心が揺れ動くことが多い年代に感じます。今日はすごくやる気に満ち溢れていたのに、次の日はすごく心配そうな顔をしているとか、家や学校生活で何かあると、それをそのままピッチ上で表情に表れることがあります。心をコントロールするというか、常に前向きなマインドに持っていけるように話をするなど、トレーニングでアプローチしています。自分自身をセルフコントロールできるようになれば、もっとサッカーに集中できると考えているので、まずそこからアプローチすることが多いですね。

―ピッチ外の話を選手に聞くことも多いのですか?

杉尾 よくありますね。学校でこうだったと話してくれる子もいますし、お父さんと喧嘩したと話してくれる子もいます。「お父さんはこういう思いだったのかもしれないよ」など、頭のなかを整理できるようにいろいろな角度から考えられるような話をするようにしています。「もう一度、お父さんと話をしてみたら?」と促したりすることもありますね。

―家以外の環境で話を聞いてもらえるのは、中学年代の子どもにとって大事なことですね。杉尾さん自身、選手としての転機はありましたか?

杉尾 高校2年生のときです。GKをやっていく上で、身長が伸び悩んでプロになれないだろうと夢を諦め始めた時期がありました。でも、浦和レッズにはお世話になっていて辞められない。何か恩を返さないといけない。そのときのスタッフに相談したら「自分の知識を後輩に伝える役割だってある。それを残りの1年でやってみるのはどうか」という話をされて、それも大事なことだなと。選手として自分のトレーニングをしながら、今までの経験や辛かったことを頑張って乗り越えたらこういう成功があったみたいな話を後輩に伝え続けました。おかげで高校最後の1年間は非常に濃いものになりました。この1年間が指導者への最初のきっかけになっているのではないかと思っています。

―選手時代に指導者への道を見出していたのですね。指導者としての転機はありましたか?

杉尾 大学卒業のタイミングですね。当時の自分は甘かった。大学在学中に浦和レッズでアシスタントコーチをやらせていただいていたのですが、卒業したらそのまま浦和レッズで仕事ができると勝手に思い込んでいたんです。でも実際は何も知らないただのアシスタントの身分で、能力もない人間を浦和レッズが雇うことはないわけです。当然、大学卒業が決まると、浦和レッズはきちんと「ありがとうな!」と見送ってくださいました。そのときに挫折というのか……。勝手な思い込みでそうなったので「あ、そういうことなんだ」と、自分の甘さをを悲観しました。指導者としてやっていくのであれば、もっと成長しなければいけないと強く思いました。

―その後、三菱養和SCでコーチとして指導者人生をスタートしました。

杉尾 社会人としてもそうですし、いろいろなことを教わりましたね。当時の僕は若さゆえの尖ったところもあったと思います。それでも、三菱養和SCの先輩方は僕のすべてを受け入れてくれました。ダメなものはダメとしっかり言ってくれました。今、それなりに大人として堂々とやっていられるのは、三菱養和SCにいた5年間でいろいろな経験をさせていただき、人としていろいろなことを教えてもらったからです。感謝しています。

―選手として印象に残るシーンはありますか?

杉尾 選手としては中学生のとき、日本クラブユースサッカー(U-15)選手権大会で優勝できたことです。仲間と苦しい思いをたくさんしたけれど、「成し遂げた!」と思えたいい思い出です。今でも当時の仲間と会えば、その話をします。一生懸命に努力して結果を勝ち取れたという経験が、人生のなかで一度でもあったことは大きいなと思います。

―指導者として、印象に残るシーンはありますか?

杉尾 毎日が心に残ることばかりで、選手から学ぶことが毎日たくさんあります。彼らの努力するエネルギーの強さ、そんな彼らが努力できないときはどういう状況なのかなど、いろいろな指導の発想をもらっています。今一緒にやっている選手もそうですが、これまで担当させてもらった選手たちも含めて、彼らから学ばせてもらうことで本当にいい経験をさせてもらっているなと思います。

―長く指導されていると子どもたちを取り巻く環境の変化を感じることもあるのでは?

杉尾 全然、違ってきていると思います。子どもたちのタイプが変わってきているというか、負けず嫌いな子が多い時代もありましたし、最近はとにかくまず頭で考えたい子が多くなってきていると感じます。

―いろいろな情報を取り入れやすい時代ですからね。親御さんも含めて勉強熱心な方が多いと聞きます。

杉尾 情報が多いことはいいことなので、それを選手自身がうまくコントロールできるかどうかが大事だと思います。

―GKの素養についてどのようなことが大事だと考えますか?

杉尾 GKは今も昔も本質は変わらないと思います。仲間やチームのためにという気持ちと、カッコいい言い方をすると「チームを勝たせる」こと。最後は俺がなんとかしてやるとか、そういう存在感が出せるGKはすごく貴重だし魅力があると思います。それは今も昔も変わりません。

―変わってきた部分はどのようなところでしょう。

杉尾 GKの役割はゴールを守ることがメインでしたが、ゴール以外のスペースも守らないといけないし、攻撃面でよりクオリティを上げていかないといけないし、GKに任されるタスクがすごく増えたと感じています。昔よりも、もっとGKの役割が深くなっていると感じます。

―それは世界のGKすべてに言えることでしょうか。

杉尾 そうですね、世界が変われば僕たちが指導する選手たちの目指すところも変わってきます。全体的にGKの目線が変わってきているのではないかと思います。

―これからの選手やGKとしてプレーする子どもたちに向けて、何か伝えておきたいことはありますか?

杉尾 GKは前向きでいてほしいです。日頃から選手たちに伝えているのは、たとえばミスがあったら「なぜ出来なかったんだろう」と思ってほしくない、ということです。それよりも「どうしたら出来るようになるんだろう」ということを考えてほしい。ちょっと言葉を変えて考えるだけで、ポジティブにもネガティブにもなるものです。選手たちには常にポジティブにクエスチョンを持って考えられるようになってほしいし、そうなればGKはもっと楽しくなると思っています。失点すれば冷ややかな目を向けられやすく、どうして防げなかったんだと言われることが多いポジジョンです。GKがチームを勝たせるために、日頃から努力して頑張っていることを知っているので、前向きに「今のはどうしたら防げたかな、次はこうやって防いでみようか」とポジティブに捉えながらGKを楽しんでほしいなと思います。

―楽しむことは大事ですね。

杉尾 本質としては、他のポジションと変わらず、サッカーを楽しむこと、一生懸命にやること、自分の立てた目標に向かって努力することが大事ですね。強いていえば、GKは存在感が必要だと思うのです。味方には安心感を、相手チームには「うおっ! このGK……!」と思わせるような絶対的な存在感を。それを立っているだけで感じられることがGKには必要かなと思います。喋っている表情とか言葉の力強さ、もちろん優しさも含めて。

―今後の展望はありますか?

杉尾 クラブとしては、アカデミーの選手がトップチームに昇格していける環境を増やして、指導としての質を高めていきたいと思っています。個人としては、もっと知識を広げていろいろな経験を積みたいです。過去に三菱養和SCや浦和レッズで、小学校から高校までのアカデミー年代のカテゴリーをひと通り経験させていただいたので、これまでに経験したことがないトップチームのレベルを体感したいという思いはあります。

―新しい知識というと?

杉尾 考え方を新しくしたいと思っています。今まで正解だと思っていたことをそのままにするのではなくて、GKに違う種目の専門分野の知識を取り入れられたら新しいものが見つかるのではないかと思っていて、新たに学んでみたいという欲があります。サッカーではない野球やバレーボール、陸上などたくさんある競技種目のそれぞれに専門的なアプローチがありますが、体を動かすというのは一緒です。例えば走り方については、シンプルに陸上の分野が長けていると思います。でも、サッカーは走るだけではなくて、止まる要素もあるし加減速もあるので、陸上から学んだことをサッカーでどう活かしていけるかを考えます。他競技の方と話をする機会があったときにいろいろとお聞きして、野球の外野手はこうやってスタートするぞとか教えてもらったりしています。

―勉強する切り口は無限大にありそうですね。GKのプロとして他のスポーツの方と高いレベルでお互いに刺激しあえるのは素晴らしいです。これからのご指導、チームの活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。次の指導者のご紹介をお願いします。

杉尾 松本山雅レディース監督の小林陽介さんです。

<プロフィール>
杉尾一憲(すぎおかずのり)
浦和レッズ ジュニアユースGKコーチ
1986年5月14日生まれ。埼玉県坂戸市出身。小学校からサッカーを始め、中学から浦和レッズアカデミーに所属。大学在学中に浦和レッズでアシスタントコーチとして指導者の道へ。卒業後は三菱養和SCで経験を積み2014年から浦和レッズへ加入。現在、ジュニアユースGKコーチとして選手の指導にあたる。

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