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平河悠のブリストル・シティFC(イングランド2部)への期限付き移籍が発表されました。毎年のことですが、Jリーグとのシーズンの違いもあって、夏のウインドウでの海外移籍はどことなく慌ただしい感じがします。悠(平河)も例に漏れず、あっという間に新しいユニフォームを着てプレーしている姿がネットニュースで流れてきました。つい先日まで同じユニフォームを着て戦ってきたことを思えば少し寂しさもありますが、彼にとっては以前から目標にしてきた海外移籍だからこそ、その挑戦を素直に応援したいです。実際に、現地に飛び込んだからこそ得られるたくさんの刺激を力にして、FC町田ゼルビアから海外に飛び出した第一号選手として、彼らしく戦って欲しいとも思っています。
僕が悠を知ったのは町田に加入してからでした。昨シーズンの町田はJ2リーグに属していたこともあり、1試合を通して試合を観る機会がなかったのも理由です。ただ、町田への加入が決まり、始動前にいろんな既存の選手とコミュニケーションをとっていた中で「勢いのある若手選手はいる?」と投げかけると、決まって悠の名前が出てきました。僕の記憶が正しければ、シーズンが始まったばかりの頃のレプリカユニフォームの売り上げランキングも、悠が1位だったはずです。それは、昨シーズンのJ2リーグの戦いをつぶさに観てきた町田のファン・サポーターの皆さんの悠に対する期待値の高さを示すものでもあったと思います。
という経緯もあって「そんなにもみんなから期待される選手ってどんなプレーをする選手なんだろう」と思いながらキャンプに入りましたが、実際にプレーを目の当たりにして、みんなが推していた理由はすぐにわかりました。特に公式戦で同じピッチに立つようになってより彼の凄さを実感することが増えた気がします。見た目としてはそんなに体は大きくないですが、上半身はすごくガッチリとしていて体幹が強く、スピードはもちろん低い重心で仕掛けるドリブルは迫力とセンスを兼ね備えています。中でも驚いたのは守備の強度です。知っての通り、黒田剛監督のサッカーではサイドハーフの選手にも妥協なき守備への貢献が求められますが、悠はそのタスクを90分間、献身的にやり続けられる選手です。自陣の深いところで守備をしてから、ドリブルで敵陣のコーナーくらいまで持っていけるほどの馬力もあります。そのタフさはすごく心強かったし、毎試合、後ろから驚きを持って見ていました。彼が新たな活躍の場所として選んだブリストル・シティFCが、彼のどういうプレーを評価して白羽の矢を立てたのかはわかりませんが、そうした持ち味が評価されたのは間違いないと思います。
正直、ブリストルが戦う今のイングランド2部リーグについてはあまり詳しくないですが、少なからず僕がリーグアンのトゥールーズFCに在籍していた当時は、2部といえどもめちゃめちゃ強かった記憶があります。実際、プレシーズンマッチで、プレミアリーグへの昇格を決めたばかりのノーリッジ・シティFCと対戦した時も、確か0-4で大敗しました。その結果を受けて、間接的に、当時プレミアリーグで活躍していた麻也くん(吉田/ロサンゼルス・ギャラクシー)の凄さを実感しました。さらに付け加えるなら、そのノーリッジが同シーズンのプレミアリーグの開幕戦でマンチェスター・シティと対戦し、0-5で大敗している姿に、改めてマンCの強さと『世界』の凄さを思い知りました。
そんなイングランドの舞台で悠がどういうパフォーマンスを見せるのか。僕に限らずチームメイトもすごく楽しみにしているはずだし、それはファン・サポーターの皆さんも同じだと思います。これまで、町田は常に世界で戦えるクラブになることを目指してクラブの歴史を積み上げてきました。そこにはクラブとしてその姿を示していこうという決意や、その第一歩としてAFCチャンピオンズリーグへの出場を目指そうという思いが含まれています。と同時に、選手それぞれに世界に名前を轟かせるような活躍をして欲しいという期待も込められているはずです。もちろん、町田にとっては今シーズンも唯一無二の存在感で攻撃を牽引してくれた悠だけに、その穴は大きいですが、彼のチャレンジに負けないように僕たちもしっかりと町田のエンブレムを背負う責任をプレーに変えて残りのシーズンを戦い続けようと思います。
悠に限らず夏のウインドウで海外移籍を求めた日本人選手も何人かいる中で、僕が関わらせてもらった選手ということでは、米子北高校の後輩でもあり、鹿島アントラーズ時代のチームメイトだった佐野海舟の1.FSVマインツ05へのニュースも嬉しく受け止めました。彼のボランチとしての能力の高さは以前、この発源力でも話した通りですが、海舟にもぜひ自分の武器に自信を持って勝負して欲しいです。特にJリーグでは頭ひとつ抜けていた彼の守備力がブンデスリーガでどれだけ通用するのかもすごく楽しみです。すでに世界に飛び出している弟の航大(NECナイメヘン)とともに『佐野兄弟』の名前を世界に轟かせて欲しいと思っています。
…と、当たり前のように日本人選手の海外移籍を語る時代になりましたが、これは日本サッカー界の進化でもあり、今現在、世界のビッグクラブで活躍している、遠藤航(リヴァプールFC)、冨安健洋(アーセナルFC)、伊藤洋輝(FCバイエルン・ミュンヘン)、三笘薫(ブライトン)ら、日本代表選手のおかげだと感じています。ビッグクラブでの彼らの活躍によって海外スカウトの目が日本に向けられることが増えたはずだし、日本人選手への興味や獲得にも繋がっているんだと思います。さらにいえば、彼らが世界で活躍する以前から…今のように日本人の海外移籍が決して当たり前ではなかった時代から、先陣を切って世界に飛び出してくれた選手たちがいたから今の日本サッカー界の姿があるんだとも思います。
カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)と対峙する三笘くん(ブライトン)や、ものすごい顔ぶれの中で中心選手として当たり前のようにプレーする航(遠藤)も、ミケル・アルテタ監督から必要とされるトミ(冨安)やバイエルンから求められる伊藤くんの姿も、積み上げられてきた長い歴史の上にある今だということを忘れず、悠や海舟にはそのことへの感謝と、評価されて世界に飛び出すことへの自信を持って、それぞれの武器で世界を驚かせて欲しいです。僕も彼らに負けないように頑張ります!
昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。