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Vol33「聖真の山形帰還」

  • 2024.08.08

    Vol33「聖真の山形帰還」

絶康調

鹿島で一緒に戦った聖真(元日本代表MF土居聖真)がモンテディオ山形に移籍した。予兆があってなんとなく分かっていたから、率直な感想は「そっかー」って感じの淡々としたものだった。移籍が決まってすぐ仙台で会った。ケイ(FC東京MF小泉慶)も東京から来てくれた。2022年にオレがベガルタ仙台に移籍して以降、聖真には会うたびに「鹿島でやりたいという気持ちもあったけど、移籍をしたことで自分としても成長できているし、刺激を受けている。楽しいよ」と話していた。聖真が地元に戻ると聞いて、山形の子どもたちやモンテディオの選手にとってもすごくいい話だと思った。聖真もなかなか試合に出られなくなっていたから、体が動くうちに山形に還元するという意味でもいい移籍になったんじゃないかな。聖真がいるだけでチームにとってプラスだし、影響力は必ずある。山形県出身の選手が鹿島であれだけ活躍して、「鹿島の8番は土居聖真」という時代を築いた。子どもたちにとって身近な目標になり得る選手だ。練習見学すればそこにいるのは大きい。ベガルタにとってモンテディオはライバルだけど、やっぱり聖真は山形だよなって思ったし。ダービーの価値は上がると思う。仙台と山形のダービーの歴史に、オレと聖真、亮真(モンテディオ山形MF気田亮真)や千尋(モンテディオ山形MF加藤千尋)もいて、燃える要素としてプラスアルファされる。それがいずれJ1の舞台でかなうのが理想。聖真もそのために山形に行っている。ただ、鹿島のファミリーの一員としては、鹿島で最後までやってほしいという気持ちもあるからさみしいんだけどね。

オレがプロになったころ、聖真は鹿島ユースにいた。そのときからこいつはうまい、いずれトップに上がってくると思っていた。オレも3~4年目まで試合に絡めなくて、そういう姿を聖真に見せているし、聖真もトップ昇格後の最初の頃は試合に出られなかった。そういう苦しみを経てから一緒にタイトルを獲り、強い鹿島を一緒に支えたという自負がある。聖真が苦しいときに励ましていたし、食事にもよく連れていっていた。年は四つしか離れていないけど、でっかい息子みたいな感覚で接している。だから、聖真の子どものことは「孫」って呼んでいる。聖真は怖い、話しかけづらいというイメージがあるかもしれない。だけど、絡んだら絡んだだけ返ってくるし、ちゃんとボケる。「土居ワールド」っていうのがあって、イジったら面白い。「一発芸をやって」と言ったら絶対やる。急に振ってもやる。面白くなくてもずっとやり続けるメンタルの強さがある。持ちネタのパンチ力ではなく、諦めない心で笑いを取りにくる。山形の選手やサポーターもどんどん絡んで聖真の良さを見つけてほしい。イケメンだからといってイケメンっぽく扱っちゃったら駄目。聖真が早く溶け込めるようガンガンイジってほしい。

プレースタイルはみんな分かってるでしょ。ミスは少ないし点にも絡む。何よりもすごいのは本当に気を遣える選手。攻守両面でいてほしいところに必ずいる。華麗なプレーはもちろん、泥くさい仕事も顔色一つ変えずにできる。鹿島の昔の選手は個の力がすごかった。もちろん聖真も個が強いのに、それをかみ合わせてくれていたから、オレらが生きる場面も多かった。聖真がいないと成り立たないと思う時期はあったし、みんながそれを理解していた。トップ下でワントップの相方だったムー(金崎夢生)や優磨(鈴木優磨)、エヴェラウドとかクセの強いFWの良さを引き出していた。聖真と一緒にやるのは楽しいし楽なんだよ。やってほしいことを実行してくれる。よくサッカーを理解していて、勝ち方を知っている選手。どちらかというと生かす側より生かされる側だと思うので、パスを出せる選手がいるとさらに良さが出る。ペナ内でボールを持った聖真は怖い。ドリブルで仕掛けられる上にパスもシュートも両足で蹴れてスピードもある。足が速くて憧れる。なんでもできてズルいなあと思っていた。だからパスをすごく出しやすかった。裏抜けもできるし、バイタルでボールを扱えるし。1人で剥がすこともできる。あまりいないタイプ。

移籍初戦となった岡山戦のゴールを見て、あれこそ聖真だと思った。早いクロスに合わせた動きが、ザ・ストライカーだった。そういう得点感覚もすごいんだよね。ゼロトップもワントップもできる。トップ下になれば間で受けるし、ボランチもできてビルドアップにも参加できる。ゼロトップだと元イタリア代表のインザーギ、トップ下ならASモナコの南野拓実選手のようなイメージ。ザーゴ監督1年目のときのホームF東京戦(J1第7節、2-2のドロー)でオレがアシストして聖真が決めたゴールがとても印象に残っている。当時はオレら2人で完結できちゃうゴールが結構あって、それが凝縮された得点だった。裏にフワッと出したところに走り込んだ聖真がワンタッチボレーで決めた。ああいう感覚が合うから走るコースが雰囲気で伝わってくる。自然とパスを出させられている。最適解に合わせて動かして出すんじゃなくてね。誰かが同じ動きをしても聖真以外には出せないと思う。

ベガルタから山形に移籍した千尋とか亮真とかは、聖真からちゃんと盗んでうまくなってほしい。特に千尋は同じポジションになるだろうし、聖真に勝てば千尋自身の価値も上がるからね。聖真自身は周りのことを気にせず、自分中心にサッカーをしてほしいな。泥くさいことをできる、気が利くからこそ、やりたいことを押し殺してでもチームの勝利のために貢献してきた。だけど、山形では子どもたちが「これが土居聖真なんだ」って見入ってしまうようなプレーを披露してほしい。ピッチ内外で今までお世話になった山形県の人たち、両親や恩師、同級生ら関わりのある人たちへの恩返しも忘れずにね。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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