COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > 右膝の大ケガから約4カ月。
ガンバ大阪・三浦弦太が初めて明かした『あの時』。そして、今。

右膝の大ケガから約4カ月。  <br>ガンバ大阪・三浦弦太が初めて明かした『あの時』。そして、今。

  • 2024.08.29

    右膝の大ケガから約4カ月。
    ガンバ大阪・三浦弦太が初めて明かした『あの時』。そして、今。

J.LEAGUE PRESS

高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa
photo by @GAMBA OSAKA

 4月28日に戦ったJ1リーグ第10節・鹿島アントラーズ戦で右膝を負傷してから約4カ月。久しぶりに取材に応じてくれた三浦弦太は、独特の歩き方で取材ルームにやってきた。

「これもリハビリの1つ。つま先から踵をつけるように歩くのが一番体にいいと聞いてから続けています」 

 もともと体格の良さでは知られている三浦だが、いつもにまして体が大きくなった印象もある。

「今はチームでのリハビリだけではなく、パーソナルトレーナーさんにもお世話になっているので、チームでのトレーニングメニューに、その方のメニューを組み込んでもらって取り組んでいます。キャリアにおいてこんなにじっくり時間をかけて自分の体に向き合うのは初めてだし、毎日、やることだらけで時間が足りないです」

 5月20日の手術後、本格的にリハビリを始めて以降は、長期のリハビリに向き合う選手の中でも一番早くにクラブハウスに来て、最後にクラブハウスを後にする毎日だという。過去の症例からも、復帰は来シーズンの開幕戦に間に合えば理想だが、現時点でその日程的な目標は頭にない。

「今は復帰の時期を定めて、そこに向かって頑張るというより、あくまで右膝の状態次第で毎日、やるべきことを正しく確実にやっているという感覚。より強くなって戻れるように、復帰した時にケガをしてよかったなって思えるようなパフォーマンスを発揮できるように、自分の体としっかり向き合うことを第一に考えています」

鹿島戦での受傷。「ロッカールームを出た時には気持ちの整理はついていた」

 誤解を恐れずにいうならば、受傷した時から、大ケガを負ったとは思えないほど、三浦はいつもと変わらない空気を纏っていた。鹿島戦後、ロッカールームから出てきた彼に声をかけたときも、表情を曇らせるでもなく、いつも通りに返事が返ってきたことに驚いたほどだ。本人曰く、その時点で気持ちの整理はついていたという。

「ケガをした瞬間に、これまでとは違うケガだという自覚はあったので、ロッカーに戻り、試合が終わるまでの時間だけは『やっちゃったかも』『長くなりそうだな』と落ち込んだというか。その事実が重くのしかかってくるような感覚はありました。でも正直、落ち込んだのはそこまで。試合が終わって、みんなと言葉をかわし、ロッカールームを出た時には気持ちを切り替えていました。落ち込んで治るならそうするけど、そうじゃないから。もともと僕は、ピッチでもいい時、悪い時でそこまで変わらないというか。負けて凹むこともなければ、勝って必要以上に喜ぶことも少ない。いや、勝てば気持ちは上がるし、嬉しいんですけど、特別、テンションが上がるかといえばそうでもない。つまり、感情の波がめちゃめちゃ小さいんだと思います。そのせいか大ケガをしてもそれを引きずることはなく、すぐに気持ちは切り替わっていました」

 実際、その日の夜は以前から約束していた通り、中谷進之介とお互いの家族を連れて食事に出掛け、翌日には再び両家でカラオケを楽しんだという。中谷曰く、「自分ならカラオケに行くような心境にはなれないかもと思って『別の日にする?』とLINEした」そうだが、速攻で「行くよ」と返事が来たそうだ。

「もともと、センターバックでコンビを組んでいるときも、感情の起伏がほぼないというか。勝っても負けてもある意味、淡々としている弦太くんなので驚かない…いや、さすがにこの時は、マジで、メンタルモンスターだと思いました!(中谷)」

 そのまま伝えると「うん、歌ったな」と返ってきた。

「だから、本当に落ち込んだのは試合が終わるまでの間だけなんです。以降はこれまで通りだし、今もそうですよ。みんなが試合しているのを観ている時だけは『サッカーしたいな〜』って気持ちになるけど、それ以外は、自分のやるべきことがピッチでのトレーニングから筋トレルームでのリハビリに変わったくらいの感覚で、全ての力をリハビリに向けています。さっきも言ったように、本当に毎日やることや、やりたいこと、考えることがあり過ぎて、朝起きて最初に思うのはいつも『今日も時間が足りるかな』ってこと(笑)。なので、今の時点で手術から3カ月くらい経ちましたけど、リハビリを長く感じるどころか、もう3カ月経っちゃった! くらいの感覚でいます」

今年もディフェンスリーダーとして存在感を発揮。ホーム・サガン鳥栖戦ではアディショナルタイムに劇的な決勝点を決め、勝利に導いた。

 その言葉通り、鹿島戦後にロッカールームを後にしてから今日まで、ポジティブに現状に向き合ってきた。受傷後、手術までは1カ月ほどの経過観察期間を過ごしたが、自身にとって初めての大ケガということもあってだろう。その時間とも真摯に向き合いながら、自身でも書物やインターネットを駆使してケガについて調べたり、同じケガを経験した同級生の深井一希(北海道コンサドーレ札幌)らに連絡を取って経験談を聞いたり、術後に起こりうる体の変化等について専門知識を持つ方たちに意見をあおいだりと、あらゆる手段を講じて知識を蓄えて手術に臨んだと聞く。メディカルスタッフも驚くほどに、だ。彼のリハビリを担当する中村有希フィジオセラピスト(PT)が教えてくれた。

「僕は長い離脱を強いられてしまった選手を担当することが多いので、弦太(三浦)とこれだけ長く、時間を共にするのは初めてですが、正直、彼の良くなろうという意欲に驚かされました。例えば手術に関する説明をしているときも、メディカル陣しか使わないような専門用語とか手術の内容がポロっと出てくるようなこともあって『ああ、すごく勉強してるんだな』と思うことも結構ありました。それはリハビリが始まってからも同じで、ただ与えられたメニューをやるというよりは、1つ1つのメニューをやる意味や効果を確認されるシーンも多く、ある意味こちらの情熱を引き出されているような感覚もあります。今回、彼が信頼を寄せるパーソナルトレーナーさんのメニューを組み入れてやることにしたのも、そういう彼の本気度、復帰への意欲に触れたから。リハビリは本人が納得して取り組むこともすごく大事だからこそ、その方も入れて榎本(雄介)チームドクターや田中雄太PT、僕、弦太の5人でしっかり話をした上で、弦太の体の状態をその都度共有しながらリハビリを進めるという方法を取ることにしました(中村PT)」

 三浦によれば「どうせリハビリをするなら、ただそれをこなすだけではなくて、自分の体にとって本当に意味のあるものにしたい」のが理由だ。以前の自分なら考えられなかったと笑った。

「もともと僕はナチュラルにフィジカルに恵まれていたこともあって、チームから与えられたメニューにしっかりと向き合っていればそれでOKという感覚でサッカーをしてきたんです。去年、足の指を痛めて離脱していたときは、モチベーションを上げるために少し筋トレをやった時期もあったけど、正直、そこまで深く効果を考えて、というわけではなかった。でも、実際にこうして長期離脱になって、本格的に体のことを学んだ上でリハビリを始めてみると、何を意識するかで全然効果が変わってくると実感したというか。上半身のトレーニング1つとっても、何が目的で、どこを鍛えられて、それによってどんな動きが可能になるのか、サッカーに活きるのかを知って取り組むだけで、ぜんぜん効果が違う。それをリハビリの初期の段階で中村PTに教えてもらい、僕自身も実感したことで、今はより1つ1つのトレーニングの意味と効果を理解して、じっくりと丁寧に向き合うようになりました」

術後、リハビリを開始してから3ヶ月が経過。1つ1つのトレーニングとじっくり向き合いながら、復帰に向かっている。

1つ1つのメニューを真摯にじっくりと。すべては、自分のサッカーに還元するため。

 例えば、広背筋を鍛え直したのもその1つ。これまで三浦は先天的な体の強さにも助けられ、腕の力だけで容易に懸垂やベンチプレスができていたと聞く。だが、それでは本来、鍛えたいはずの広背筋の強化にはつながらないと知り、中村PTのアドバイスをもと、しばらくは懸垂を封印して丁寧に広背筋のトレーニングを続けてきたら、以前とは全く違う効果を実感するようになった。

「1つ1つのトレーニングの効果を意識して取り組んだら、マジで利き方が違ってくるというか。それが顕著に体の変化として表れるのもすごく面白い。広背筋1つとってもそうだったので、この先、すべてのトレーニングにこの熱量で真摯に向き合っていけば、一体どんな自分ができあがるんだ?! って楽しみもあります(笑)。去年は足の指を骨折してしまって1カ月強離脱しましたけど、1カ月強で求められる変化と、10カ月近い時間、体に真剣に向き合うことで見出せる変化は全然違うはずですしね。それもあって『このメニューはすごく体に合っているから、他にも似たようなメニューをしたいな!』ってことになり、時間が足りないってなるんですけど」

 ただし、その一方で体の状態を無視した過度なトレーニングは後退につながりかねないと理解しているからだろう。時には自身に我慢も求めながらリハビリに向き合っているそうだ。

「体の変化が楽しくて、あれもやりたい、これもやりたいって気持ちにはなっていますが、当たり前のことながらリハビリの目的は、体を鍛えることでも、トレーニングがうまくなることでもなく、自分の『サッカー』に還元するため。そこはいつも頭にあるからこそ、ちゃんとサポートしてくれるスタッフたちの話をしっかり聞いて、信頼して進もうと思っています。ただ、こうして深く自分の体のことを知るほど、今回のケガが起きるべくして起きたんじゃないかって思うところもあるのも事実なので。これを機にしっかり自分の体と向き合って、復帰した後のキャリアがずっと右肩上がりに進んでいけるように、ということも想像しながら強くなって戻りたいと思います」

 その言葉にもある「スタッフへの信頼」は、実は今回のリハビリにあたって三浦が大事にしているという「人とのつながり」にもリンクするものだ。

 先にも書いた通り、今回のケガを機に、自分の体への理解を深めながら多くのことを学んでいるとはいえ、いろんな知識が増えるほど「自分の知識の少なさ、考えの浅はかさを痛感することも多い」と本人。だからこそ、改めて自身とともに進んでくれるメディカルスタッフやサポートしてくれる仲間といった『人』を大事にしたいという思いが強くなっていると聞く。

「サッカーについては当然、自分なりの考えも信念もあるけど、ケガに関しては自分がどれだけ勉強したところで、メディカルスタッフには、遠く及ばない。だからこそ僕のために、いろんな人が話をして、時間を費やして、最適のプランを考えてくれたメニューを素直に受け入れて、ちゃんと信頼関係を持ってリハビリと向き合いたい。この数カ月間は、改めて『人』への信頼とか繋がりが一番大事だと思ったし、改めて自分はたくさんの人に支えてもらって今があると実感したからこそ、そこはこれからも大事にしていきたいと思っています」

たくさんの人たちに支えられ、勇気をもらって。「ガンバ大阪の選手で良かった」

 その『人』には受傷した直後から気持ちに寄り添ってくれたチームメイトやクラブスタッフ、パナソニックスタジアム吹田や練習場、SNS等を通してたくさんのエールを届けてくれた、たくさんのファン、サポーターも含まれる。

 全員が三浦の『5』のユニフォームを纏ってウォーミングアップを行い、試合に入場し、試合後もその仲間に囲まれて集合写真に収まった5月6日の『大阪ダービー』も、スタンドから届けられた大きなチャントも、心から嬉しかった出来事として刻まれているそうだ。

「まさか、あんなふうにチームメイトが行動してくれるなんて思ってもみなかったし、サポーターのコールも、本当に、めちゃくちゃ嬉しかった。手術に向かう前だったこともあって、すごく力になりました。直後にインスタグラムで『ガンバ大阪の選手で良かった』と書いたのも、本当に素直な気持ちで…。僕は今年在籍8年目で当然、これまでもクラブへの愛着や特別な想いを持っていたけど、それをより強く実感した瞬間だったし、だからこそ、リハビリを頑張って、またピッチで、ガンバの力になれるようにしたいという思いが強くなった」

 実際、彼の「ガンバのために」との思いはピッチを離れている今も、あちこちで確認している。その『大阪ダービー』での勝利直後、誕生日に決勝ゴールを挙げた宇佐美貴史のヒーローインタビューに乱入し、「貴史、ありがとう! おめでとう! 貴史、(誕生日)おめでとう!」と声を張り上げて本人に抱きつきスタジアムを盛り上げたのもその1つ。

「試合前も『今日は絶対に勝つから』と言ってくれていた貴史くん(宇佐美)がゴールを決めてくれた時は込み上げるものがあったし、本当に嬉しかった。一緒にお祝いできてよかった。これも、今の僕がチームのためにできることだから」

『大阪ダービー』後。キャプテン・宇佐美は32歳の豊富を聞かれ「33歳の誕生日までに弦太が復帰していたらいいな」と話した。

 また三浦にとっては手術前、最後の試合となった5月19日の川崎フロンターレ戦の前に、ポヤトス監督の「みんなに力をくれないか」という意向を受け、チームに向けた動画のメッセージを送ったのも心温まるエピソードだ。

「僕の言葉がほんまに力になるんかなと思いつつ、ダニ(ポヤトス監督)に言われて、チームのためになるなら全然やりますよ、って送ったんです。ただ、後日、選手に聞いたら音量が小さすぎて、ロッカーの座っている位置によって、何を言っていたか聞こえなかった選手もいたみたい。若干、撮り損(笑)!」

 さらにもう1つ。今シーズン、スタートからセンターバックでコンビを組んできた中谷とのLINEでのやり取りも長くガンバに在籍してきた三浦だからこその行動だろう。中谷が教えてくれた。

「ケガの内容が明らかになって、励ますつもりで弦太くんにLINEをしたら逆にチームのことを頼むなという言葉と、ガンバはこういう状況に陥った時に、こうならない方がいいからシンがしっかり目を配ってあげてというようなメッセージがぎっしり書かれていて。あれは胸熱でした(中谷)」

 三浦に尋ねると「え、恥ずかし!」と照れ笑いを浮かべた。

「もともと僕はそんなに言葉で何かを伝えるのがうまくないというか。プロサッカー選手としてやるべきことは、ピッチのプレーで魅せる、チームのために戦うのが第一だと思っているし、ピッチ外でも正直、あまり自分の感情を出すのは得意じゃない。それを出さずに淡々とやっている方が格好いいんじゃないか、みたいに思っている自分もいるかも(笑)。でもプレーできなくなってしまった今、ちゃんと言葉にして伝えないと伝わらないこともあるかな、と。シン(中谷)はガンバでは1年目だけど、一緒に数カ月コンビを組んできて、プレーでもそれ以外のところでもチームを引っ張っていける選手だと信頼しているし、単に伝えやすかったのもあります。もちろん、それが本当にチームの力になるかはわからないけどこれからも、日々、選手、スタッフ、サポーターがそれぞれの立場でガンバのために戦っているように僕も、僕なりの戦いをしたいなとは思っています」

気分転換の必要もないほどポジティブにリハビリと向き合う日々。『パナスタ』に改めて感じたこと。

 そんな三浦の現状はといえば、リハビリも13週目に入り、今は受傷した右膝周りを含めて下半身のトレーニングメニューを増やしながら、ジョギングを始めるための力を蓄えている最中だという。

「下半身メニューの強度もだんだんキツくなってきて、クラブハウスに来るに際に気持ちを準備してこないとしんどい感じになってきたので、今は毎日『よし! 今日も頑張るぞ!』って気合いを入れて家を出るようにしています」

 彼の言葉からも伝わる通り、リハビリを始めてから気持ちが重くなったことは一度もなく、目線はいつも、気分転換の必要もないほど前に向けられている。

「リハビリ組にもオフはあるんですけど、正直、個人的にはいらないな、くらいの感覚。もともとの性格的に、気分転換はあまり必要ないというか。違うこともやったらやったで面白いし、旅行も行くとなればめちゃめちゃ楽しむけど、今はその『違うこと』が自分にとってはリハビリだったりもするので。これもサッカーの一部とはいえ、未知の世界に足を踏み入れている感覚もあって、今はリハビリが仕事であり、気分転換でもあるような気もする」

プロ12年目のシーズンはそのほとんどをリハビリに向き合うことになったが、来シーズンはきっと最強の『5』が帰ってくる。

 パナスタのスタンドから試合を観る度に、定期的に自分の中に湧き起こってくる「ああ、ここでサッカーがしたいな」という気持ちにも背中を押されながら。

「スタンドから試合を見ることが増えて、改めて応援の力を感じているというか。ピッチに立っている時は、ある意味ゾーンに入っているので、彼らの声援の全てが耳に届いているわけじゃなかったけど、こうしてスタンドにいれば、全部、耳に届きますから。改めて、応援の力というか、彼らが作り出してくれる雰囲気、パナスタに漂う威圧感に改めて心強さを実感しています。だからこそ、サポーターの皆さんにはこの先も、いい時も、悪い時も一緒に戦ってほしいなと。選手それぞれが、勝つために自分の全てを尽くして目の前の試合に向かっているように、サポーターの皆さんにもその想いを、応援という熱量に変えて、その想いをまっすぐにピッチにいる選手たちにぶつけてほしい。僕もその熱量に負けないように、自分のやり方でガンバをサポートし続けようと思います」

 取材後、撮影に応じてくれたあとは、またしても一歩、一歩を噛み締めるように、つま先から踵をつけることを意識した歩き方で取材ルームを後にする。

「もはや癖になってきた。家族と買い物に行ってもこの歩き方をしているから『歩くのが遅い!』ってツッコまれちゃいます(笑)」

 着替えを済ませ、駐車場に向かう彼を見ていたら、わずか10メートルほどの距離も惜しむように、その歩き方で車に乗り込んだ。その地味で小さな積み重ねが、三浦をきっと強くする。一分一秒も無駄にしたくないという決意を漂わせた後ろ姿に、そう確信した。

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

ガンバ大阪・半田陸が戦列復帰へ。
「強化した肉体とプレーがどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみ」