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Vol35「カズキの挑戦」

  • 2024.09.05

    Vol35「カズキの挑戦」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

カズキ(ベガルタ仙台MF長澤和輝)がニュージーランドのウェリントン・フェニックスFC(オーストラリアAリーグ)に移籍した。多くの選手が「海外に行きたい」って言う中で、あの年でも夢のためにパワーを使って行動に移し、実現するのがすごい。オレもカズキぐらいの年のときに海外挑戦はアタマの片隅にあったけど、そこまでの情熱があったかと言われるとどうだろうな、きっと行動するまでにはたどり着かなかったと思う。カズキはJ1昇格プレーオフ圏内で戦うベガルタで主力として試合に出て結果も残し、それでも自分のキャリア、サッカー人生において大きな決断を下した。チームミーティングで、カズキがみんなの前に出て「海外に移籍することになりました」って話した。急なオファーだったそうだ。いいなあと思いながら聞いていたし、最初はベガルタは大丈夫かなと心配になった。翌日、ヨシキ(ベガルタ仙台MF松下佳貴)とアオイ(ベガルタ仙台MF工藤蒼)も交えて4人で食事に行き、その後にカズキと2人でじっくり話した。海外と日本をつなぎたいという思いがあったと言う。専修大学を出てすぐドイツ(ブンデスリーガ2部だったケルン)に渡ったカズキは、最初は言葉の壁によるストレスの大きさにぶち当たった。海外に行ったら最初は病むって知っていて、その選択をする勇気に改めて感心した。人生の選択としてはすごくいいと思う。その選択が人生において後々に生きてくるだろう。チャレンジを選択して良かったなと思えるようなサッカー人生にしてほしい。

カズキは試合の空気を読める。落ち着かせるところは落ち着かせられるし、プレーでも声でも試合をコントロールできる選手。だから安心して見ていられた。他の選手が持っていなくて大事なところ。それは経験やカズキのキャラクターだからこそ出せるもので、簡単に見習えるものではない。それでも、考えながら経験を積んでいけば、いずれ自然とできるようになるはずだ。いわきFC戦は勝ったけど、そういう経験はこれからプレーオフの大一番で必要になってくる。カズキの離脱はゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)的にかなり痛いと思う。計算できる選手がいなくなるのだから。いわきFC戦は勝てたけれど、試合までのゴリさんは心配だったと思うよ。ジェフ千葉戦のあとに、名指しで大夢(ベガルタ仙台MF鎌田大夢)に「大丈夫か」って声をかけてたと聞いた。負けたあとだったから、なおさらね。いわきFC戦に大夢が久々に出て勝利に貢献できたから、らしいプレーは少なくても勝つ試合に関わるのはすごく大事なこと。やれるじゃんっていうのを見せてくれたと思っている。カズキがいなくなったらいなくなったで、なんとかしなくちゃいけない。ボランチはみんないい選手だからここからの競争も楽しみだね。

カズキはオンもオフも一番空気を読める選手だった。本当は天然キャラなのに、年上には敬語を使うし優等生キャラを確立していた。鹿島時代、一緒に食事したことがある。天皇杯だったかな、浦和レッズに負けたあとのこと。慎三さん(元日本代表FW興梠慎三)とか航(日本代表MF遠藤航)とか槙野くん(元日本代表DF槙野智章)らのところに顔を出したときだった。第一印象は礼儀正しくてすごい好青年で、まじめ。そして去年、そのままのイメージで仙台にやって来た。全然変わっていなかった。フランクにくると思ったら敬語でくるし。もっとやわらかくていいのにと思ったね。昔のレッズと鹿島はライバルでいい試合をいつもしていた。だからカズキとは「あのときの関係性すごくよかったよね」と懐かしんだし、「今のベガルタには何かが足りないよね」「大丈夫かな」って話をよくしていた。カズキは自分をよく見せるための賢さが足りないんじゃないかって分析していた。頑張りがもたないときに、ごまかしができていない印象ってこと。その部分に関しては今年がらりと変わった。「ゴリさんのパワーだね、すごいね」って話していたし、いつも「勝たせたい監督だよね」となる。ゴリさんはサポーターに愛されたリバプールのクロップ前監督に似ていると思う。熱い感じとか選手からのリスペクトを集めるカリスマ性とか。それは戦術どうこうよりその人のキャラクターで、そう思わせてくれる人はそうそういない。若い選手はゴリさんの下でいきいきといい顔でサッカーしている。練習後は不平不満もなく、みんな「きつかったね」って笑い合ってる。ゴリさんは話が長くて、ついついツッコミを入れてしまうと本人も「長くなっちゃうんだよね」って苦笑している。まあ、ゴリさんだから言えるし、受け入れてもらえるっていうのもあるけどね。

カズキはすごくベガルタに感謝していた。「グランパスで試合に出られなくなっていたときに声をかけてくれて、さらに海外挑戦まで受け入れてくれた」って。その気持ちの表れが、移籍が決まってからのジェフ千葉戦だった。カズキは「俺は絶対に出ます」と断言した。普通だったらそういう試合には出ない。怪我してしまったら移籍の話もなくなってしまう。契約の世界はすごくシビアで、海外の選手はまず出ない。かつてカズキはレッズからの移籍前の試合で出場チャンスが来たときに、試合に出ない選択をした。その試合で慎三さんが怪我して、次の年のキャンプはリハビリスタートになってしまった。それでも慎三さんが後悔していない姿を目の当たりにし、負い目を感じたのもあったそうだ。出ないからといって誰も文句は言わない。なのに「自分を拾ってくれた仙台のために戦う。そこで怪我したらそれも運命だとして受け入れる。勝たせたい」って。熱いよね。勝てなかった中でカズキは2得点に絡み、いろいろなものを仙台に残してくれた。カズキがいなくなったからベガルタは駄目になったって言わせるわけにはいかない。カズキはカズキで夢を追う。オレたちは残りのシーズンしっかりと勝ちきって、お互いに胸を張っていい報告ができるようにしなきゃいけないよね。移籍が決まってすぐゴルフ場を探しちゃうぐらいゴルフ好きなカズキの、新天地での活躍を願ってやまない。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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