©VEGALTA SENDAI
いよいよJ1昇格を懸けたプレーオフが始まる。最終戦で大分に勝って、あの勢いのまま突入した方がよかったかもしれないと思う半面、オレ個人にとっては時間が空いたのはよかった。完全復活して順調にアピールしているし、練習試合にも出ている。体も動くようになってきたから、12月1日の試合に向かっていきたい。
チームも練習にいいテンションで臨めている。リーグ戦が終わった後というのは、どうしても気が抜けてしまうことが多い。マサト(ベガルタ仙台FW中山仁斗)の契約満了が発表されたし、すでに契約満了を伝えられている選手にとってはモチベーションの持っていき方が難しい。普通ならここで練習せず、次の契約を目指す。頑張ってケガをしてしまって、次のチームでキャンプに間に合わないって訳にはいかない。こいちゃん(ベガルタ仙台DF小出悠太)は甲府時代、契約満了が決まっていた外国籍選手がプレーオフで退場になったことが響き、敗退につながった経験があるそうだ。緊張の糸がプツンと切れてしまうっていうか、そういうこと自体は珍しくはない。ところが、そういう中でもマサトらは集中力高く戦っている。そういう空気感を保てている背景には、これまでリャンさん(ベガルタ仙台梁勇基クラブコーディネーター)らが築いてきたベガルタの礎があると思う。それはベガルタのチームカラーだ。生え抜きはそう多くなく、今年も外から獲得してきた選手が多い。にもかかわらず、一体感というか、練習から集中しているのは不思議だった。みんなメンバーから外れてもちゃんとやるし、自分のことを優先することはまずない。もちろんマサトの人柄もあるのだろうけど、そこがベガルタの持つ独特の献身性っていうカラーなのかなと思う。そういう大事なところをベガルタは持っている。この難しい時期に大切なことだ。とはいえ、それでももう一段ギアを上げないといけない。まだまだ物足りない、「勝つためにはどうしたらいいか」って声がもっともっと挙がらないといけない。
長崎とやるどうこう以前に、ベガルタはすべて勝たなきゃいけないという状況。引き分けも許されない。でも、チャレンジャー精神でいけるから楽っちゃ楽なんだよ。相手からしてみれば天皇杯で下位カテゴリーのチームと戦うのと同じ感覚になる。こっちはのびのび「勝つぞ」という気持ちを出し続けて戦っていれば、それが自然と圧力になる。相手がどうだこうだって受け身に回っている場合ではない。苦しい感じはない。これを苦しいと思うようじゃ駄目だよね。勝たなきゃいけないんだけど、リーグ戦6位だったベガルタは、J1昇格に値するチームだと胸を張って言える訳ではない。改善点もいっぱいあるけど、昇格するチャンスは手にした。だから、できない部分を今から補う時間はない、今までやってきたことにプラスアルファを求めるなら気持ちの部分を整理していくことが必要で、そっちの方が大事だと思う。気持ちを徐々に上げていくのでは遅い。練習のアップから集中していけるのかでも違ってくる。だからといって、イケイケで挑んで勝てるほど、プロは甘くない。気持ちは熱く、頭は冷静に戦いたい。
鹿島時代に出場した2016年のクラブW杯は下克上も下克上だった。めっちゃ楽しみだった。世界に注目される大会に出られるのは、自分がどこまでできるのかを示すチャンスだったし、勝たないといけなかった。準決勝のナシオナル戦は、それがうまくマッチして勝てたかなと思う。ヒールで流し込んだ1点は、いろいろと話題にしてもらっている。みんな「余裕だったね」って言うけど、ディフェンダーが左からも後ろからも来ていた、あれしかなかった、余裕があった訳じゃない。自分のプレーで印象に残れるかどうかで選手の価値も上がる大会。今回のJ1昇格プレーオフだって、上がったら間違いなく選手自身の価値が上がる。チームのためにも、自分のためにも勝ち取らないといけない。前も言ったけど、何かを勝ち取らないと名を残せない。そのチャンスが目の前に来ている。各々のためにもすごく大事な戦いだ。
先日、選手みんなで決起集会をやった。決起集会だからといってサッカーの話をしろっていうものじゃない。それはピッチ上でやるべきだ。なんで決起集会をやるかっていうと、みんなが顔を合わせて同じことをすることでチームの一体感が生まれるから。いつも通り、みんなで楽しくご飯を食べて笑って、最後に集中しようねって話せばいい。もっとみんなのために頑張ろうって気になる。だから重要だと思うんだよね。大事な試合の前に毎回やることでもないんだけど、選手は試合に出ないと評価されないし、だからといって自分のためだけにプレーしていたら勝てないし、みんながチームのために頑張るという雰囲気が出てこないといいチームとは言えない。全員が全員、ハッピーにサッカーできているわけじゃない。パフォーマンスを出せずに暗いやつもいる。でも、ご飯のときの笑顔一つで次のモチベーションも変わってくるかもしれない。
あのゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)だって気合が入りすぎて空回りするかもしれない。終盤に敗れた熊本戦はそうだった。「ゴリさん落ち着いて、選手を信じてやれば大丈夫だよ」って言えるのは、オレしかいないだろうね。監督を尊重しつつも、プレーするのは自分たちだという意識が必要。ピッチ上で感じたことをみんなに伝えて共有し、表現すればいい。そこに自分が立っていられたら最高だ。
遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。