J1復帰を懸けたベガルタ仙台の今季が終わった。J1昇格プレーオフ準決勝のV・ファーレン長崎戦は、スタジアムもすごくよかったし、雰囲気から何から素晴らしく、それを味方にしていいサッカーができた。完勝だった。でも、決勝のファジアーノ岡山戦は勝てる気がしないまま、みんなが100%の力を出し切れないままに終わってしまった。いつもはこんなんじゃないのにと思った。ベガルタの良さを消されたのもある。ただ、その中でやり切る力がなかったのも事実。上がる力はなかったと受け止めるしかない。プレーオフにはチーム全員で乗り込んだ。チケットの問題があったのに岡山には本当に多くのサポーターが応援に来てくれた。すごいよね。一方で、そのチケットが転売されていたのは残念だった。そういうことで大切な戦いを汚される感じは嫌だよね。みんながその1試合に懸けていたのは伝わっていた。だからこそ期待に応えたかった。でもかなわなかった。力不足を感じながら、成長した1年間だったと思う。去年の順位から考えたら明るい未来が見えたよね。でも負けたら名を残せない。プレーオフ2位もシーズン16位も同じ。J1に昇格しないと意味がない。停滞感を変えたくて「オレを出してくれよ」という思いと、ケガばかりしていたからその場で戦えないのは仕方がないという思いを抱きながら、勝ってくれと願っていた。競争だから練習は100%でやっていたけれども、みんなが頑張ってきた1年の集大成だから、そこに練習試合に長くて30分しか出ていないオレが出ていいんだろうかという葛藤もあったな。
この悔しさを持って、来年はみんな頑張ってくれると思う。試合後、友太(ベガルタ仙台MF郷家友太)に「友太がいい仕事をしても、負けたのは友太のせい。それぐらいベガルタにとって重要な選手だよ」とあえてきつい言葉で話した。友太は黙ってうなずいていた。ここで悔し涙を流すぐらいなら練習からやっていかないといけない。そういう言葉を今後、友太が周りの選手に言えるのか。いや、言っていかなければならない。友太は地元出身。かつてオレは友太に「J1に行くのもいいんじゃないか」と話していたけど、いろいろ考えて変わった。友太はベガルタをJ1に上げてからビッグクラブに飛び立って行くのがいいのではないかと。この状況でJ1への個人昇格、まあ選手は普通そっちを選ぶけどね。友太にはあえて厳しいことを言ってきた。友太じゃないと受け止められない。ベガルタのレジェンド梁さん(ベガルタ仙台クラブコーディネーター梁勇基)を超えられるのは、友太しかいないと思っている。だから、昇格とか何かしらの形を残してほしい。もちろん友太のサッカー人生だし、本人の選択を尊重するのが大前提。オレの思いなんて選択肢の一つにすぎないんだけどね。負けて悔しいのは分かる、頑張って届かなかったのも分かる。なんで泣いちゃうんだろうって思うけど、泣いちゃうんだよね。でも、相手が喜んでいる姿は見ておいたほうがいい。天と地ほどの差がある。だからこそ、練習から突き詰めていかないといけない。本気で勝ちたいならもっと自分から要求することも増える。だから喜んでいる姿を目に焼き付けておいてほしい。そうしたら普段の行動から変わると思う。「悔しい」で終わらせるのは駄目。来年の昇格争いを約束されたチームではない。もっと走らないと、戦わないと、要求し合わないといけない。今季限りでチームを去る選手は、試合後のスタジアムでみんなにあいさつした。「よく頑張ったね」ってねぎらうのもいいけど、ウソをつくのも嫌だったので、オレは「つまんない試合になってしまった」と切り出した。そして、「けれど、ここにいる仲間は最高の仲間だった。みんなの頑張りも見てきたし成長もあった」と続けた。また泣きながら。泣くのは好きじゃないのにね。
岡山戦後、試合出場組は大阪に泊まり、オレたちは当日新幹線で帰った。そして、多くのサポーターから「ありがとうございました」って声をかけられた。「おつかれさまでした」が多いのに、めずらしいよね。負けたんだよ。期待に応えられなかったのに、「ありがとう」と言われたのは初めてかもしれない。何に対してのお礼なのかは分からない。ニコニコしながら言われたのが印象的だったな。戦いぶりに勇気づけられたのか、なんなのか。ゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)がいつも「試合を見に来てくれた人を後悔させない戦いを」って言っていた。それを体現できていたからこそ、「ありがとう」につながったのかな。そういう試合を見せられるのがプロだなと、改めて思った。ゴリさんが下を向かずに戦い続けてきたからこそ、チームも下を向かずにずっと頑張れた。全然下を向かないのよ、あの人。良くも悪くもサッカーバカ。熱い人なのは間違いなくて、周りには確実にパワーをくれる人なんだよ。サッカーのことしか考えていなくて、少しでも時間があればずっと映像を見て分析していた。本当にサッカーが好きで好きでたまらないのが分かるからこそ、選手みんなに言葉が刺さったと思う。来季もゴリさんがいる。だから支えてくれるみんなを後悔させない試合を、勇気づけるようなサッカーを披露できると安心している。J1に上がれるか上がれないか、とはまた違う。去年や一昨年みたいな状況なら引退に際して心配だらけになっただろうけど、ゴリさん、友太をはじめ、悔しい思いをした人がいっぱいいるから心配していない。やってきたことが間違っていなかった。そう思って引退していける。これからはオレなりのやり方で、いろいろな形で支えたいと思う。今はいつも通りのオフが始まった感じ。今月は自主トレの手伝いで沖縄に行くし、引退を実感するのはきっと、みんなが始動する1月に入ってからになるだろうね。
遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。