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Vol43「引退試合」

  • 2024.12.26

    Vol43「引退試合」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

12月14日に梁さん(ベガルタ仙台クラブコーディネーター梁勇基)の引退試合があった。ベガルタ仙台が選手の引退試合をすること自体が初めてということもあり、梁さん本人をはじめ、スタッフも結構ドタバタしながらも「なんとかしなきゃ」という思いで準備したことが実ったイベントになったよね。1万人も入るなんて素晴らしい。スタッフの努力ももちろんあるだろうけど、それだけ梁さんが偉大だということの証明だよね。OBもたくさん来ていて、みんなが梁さんへのリスペクトをにじませていた。オレは梁さんと2年しか一緒にやれなかったから、参加してすみませんって感じだった。ヤナさん(元ベガルタ仙台FW柳沢敦)がビデオメッセージで「満男さん(元日本代表MF小笠原満男)に近いにおいがした」って話していて、自分が抱き続けていた思いと同じだと共感した。鹿島といえば小笠原満男で、満男さんがいれば勝てる感じになる。梁さんはベガルタにおける、そういう存在だった。プレーはもちろんリスペクトされるところだろうけど、やっぱり人間性だよ。オレは1年目、自分がもっとやらないといけないなって気負っていた。2年目に林くん(ベガルタ仙台GK林彰洋)が入ってきてベテランが3人になった。キャンプ中、梁さんに誘われて3人でメシにいった。そこで梁さんは「ベテランがしっかりしないとチームがまとまらない。不満があればここではき出せばいい」と話してくれた。チームのためには年長者の意見が一致していないといけないと。確かに、愚痴を言うところがないのよ、ベテランって。若くなくなっていくと、不満をはき出す場所がなくなっていくのよ。それをくみ取ってそういう場を設けてくれたんだと感じた。梁さんはチームを最優先に置いていた。去年、初めて手術して長期離脱したとき、梁さんに呼ばれた。てっきり「オレ引退するわ」と言われるのかと身構えちゃった。そうしたら「ヤスも苦しいだろうなと思って。ゆっくり話そう」って。梁さんはいつも、出番のない選手や苦しんでいる選手をメシに連れて行っていた。梁さんならではの気配りだったと思う。選手の苦悩を敏感に分かって、行動してくれる人だった。やり方は違うけれど、満男さんと目指しているところは同じだなと思った。ちなみに、満男さんは練習後にコソコソ話してくれていたな。もちろんメシに行くこともあったけど、2人っきりになったタイミングでボソッと話しかけてくれていた。「キツいだろうけど、頑張れよ」とかね。チームのためもあると同時に、その選手のためにというのがよく分かった。

梁さんが引退して臨んだ今季、梁さんから学んだことがあったからこそ、試合に出られなくても仙台の未来のためにとチームを最優先で考えられるようになったと思う。思ったことをストレートに言うのが基本で、優しく声をかけるか、厳しく𠮟るべきか、チームのためにはあえてみんなの前で言ったほうがいいかなとか、いろいろ考えた。キャプテンという立場だったしね。やり方は違っても、チームのため、選手のためって。梁さんと満男さんの2人は、気配りができて、常にみんなの表情や思っていること、雰囲気を察知するところが似ている。ピッチ外も視野が広い。一緒にプレーしたヤナさんも、そこに共通点を見い出したんじゃないかな。

引退試合そのものはとても楽しかったし、一番頑張らないといけないなと張り切っていた。主役の梁さんのために頑張ろうと思った。ああいう試合があると、若い選手も「ああやって引退試合したいな」って思うだろうし、そういう選手を目指すようになるよね。でもさ、みんな引退試合慣れしていないから全然点数が入らなくて焦ったよ。ヒヤヒヤしていた。守備を頑張っちゃうんだもん。オレの中では梁さんイコールフリーキックだったから、ファウルをもらって機会をつくろうとした。でもキーパーが止めちゃうから大変だったしおもしろかった。それもまた仙台らしいかなと思った。途中から試合を動かさなきゃという使命感にかられてシュートを打ったら、思いっ切りブロックされちゃった。次は寿人さん(元ベガルタ仙台FW佐藤寿人)に預けたら決めてくれた。本当はワンツーでオレが決めようとしていた。ボールくればいいかなって走り込んでいた。ただ、寿人さんも「絶対オレが決める」って言っていて、有言実行するところがストライカーらしいな。結果は4-4。もっと点が入ってもよかったんじゃないかな。鹿島の先輩だったタクさん(元ベガルタ仙台MF野沢拓也)とやれたのも個人的にうれしかったな。タクさんを見て育ったから、タクさんのためにもと走っていた。改めて、引退試合っていいなって思った。やっぱりチーム、サポーターに貢献して愛された、チームを象徴する人じゃないとできない特別な試合だよ。そして、早く満男さんに引退試合をやってほしいと強く思った。あの人がやらないと後々のみんなができないよって。今度から会うたびに「みんなのためにも引退試合やって」って言おうかな。オレは人の引退試合に参加するぐらいがちょうどいいや。あいさつとか誰を呼ぶかとか、いろいろあって大変そうだし。

これまでSNSとは距離を取っていて、発信することもなかったオレが、去年の春に始めたコラムも43回を数えた。変に誤解されるのも嫌だったし、直接関わってる人にだけ伝わってくれたらいいというスタンスなのに、よく続けてきたと思う。独り言で終わると思っていたし、ズバズバ言うから嫌がる人もいっぱいいるだろうと思っていたので、結構反響があって驚いた。こういう伝え方もあるんだね。自分自身も成長したし、自分の言葉で伝えることも大切だと感じた。チームへの苦言もあったけど、でも、それは自分自身にプレッシャーをかけていた部分もある。発言に対する責任感も増したような気がする。と言うと、なんか最終回みたいな言い回しになってしまったね。ごめん。今後も楽しみながら続けていきたいし、読んで楽しんでもらえたらと思っている。現役選手じゃなくなるからネタ探しは大変になるんだろうな。今後ともよろしく。良いお年を。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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