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Vol47「解説者デビュー」

  • 2025.02.20

    Vol47「解説者デビュー」

絶康調

ベガルタ仙台の開幕戦で、梁さん(ベガルタ仙台クラブコーディネーター梁勇基)と一緒に初めてのテレビ中継の解説に臨んだ。オレには務まらないと思っていたものの、なんとか最後まで話すことができた。鹿島への引っ越し準備が忙しくてバタバタしているタイミングで、まさかの解説者デビュー。ベガルタの情報を入れる時間もなくて、前日にも家族から「大丈夫?」と心配される始末だった。キャンプ取材に行っていたタムさん(元ベガルタ仙台MF田村直也)から最低限の情報を仕入れてはいた。梁さんもいるからオレは素直に思ったことを言って、フラットな状況で新鮮なリアクションを楽しんでもらいたいと思っていた。見ている人たちと情報量が一緒という新しいスタイル。包み隠さずじゃないけど、忖度せずにいこうと考えていた。鳥栖と仙台の両方の解説をすると思ったら、仙台を応援する立ち位置だったから助かった。

言いたいことを言うといってもなかなか難しいもので、ベガルタへの愛情も伝えたかったので、ただ辛口なことを言うだけにならないよう微妙なバランス感覚を意識した。自分と関係性の薄い選手のことを上手にテレビで話せるタイプじゃない。解説の仕事も仙台と鹿島の試合しかできないと言っていたので、今回は快く引き受けた。解説なんてモトさん(元日本代表本山雅志)の引退試合でちょろっとやったぐらい。思い入れの強い真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)や友太(ベガルタ仙台MF郷家友太)に対してストレートな言葉が悪口に聞こえてしまうのではと気にしていた。途中で真瀬のことを「真瀬選手」って呼んでみたけど、やっぱりすぐ戻っちゃったね。感じたことを言えなかったら、オレが解説する意味がない。展開に合わせて話すのは慣れていないから難しいけれど、フットボールの本質的な部分は変わらないと思うから、「こうしたほうがいい」とか、「もっとうまく守れるんじゃないかな」とか、思ったことを口にした。梁さんもいたから、ミスしたら梁さんにフォローしてもらおう精神。ピッチで一緒にサッカーしていたときと同じだな。そういう信頼関係があるからありがたい。1人だったらと思うとゾッとするよ。あっという間の2時間も、終わってみて振り返るとめちゃくちゃ楽しかった。それでメシを食おうとは思わないけど、チャンスがあればまた解説をやってみたい。

4月から拠点を鹿島に移す。仙台と半々で過ごすことになるだろう。なかのFCも現場で詰めるところを詰めなきゃいけないなと思う。現場を託している人たちがいるので、あまり出過ぎないように気を付けないと。

さて、開幕戦そのものは1-0でベガルタが逃げ切った。内容はもちろん大事かもしれないけど、ゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)も2年目で結果を求めなきゃいけないし、いい勝利だったと思う。勝ってよかった。ベガルタの右サイド対鳥栖の左サイドという、ストロングポイント同士の攻防を制したのが勝因だろう。試合自体はぶっちゃけ面白くないと思いながら見ていた。意外性もなくて、出すだろうなというところにボールが出る。相手陣地でサイドチェンジがなくて鳥栖は守りやすそうだった。バーを直撃した荒木選手(ベガルタ仙台FW荒木駿太)のビッグチャンスもサイドチェンジから生まれた。ああいう攻撃を増やしていかないと。その中で面白い動きをしていたのが真瀬だった。分かりやすく動き出して攻撃参加する。端から見ていて行きすぎなんじゃないって思うかもしれないけど、心を動かされるのはそういう動きをしてくれる、戦術とかフォーメーションに取り込まれない選手だ。ピッチ上の22人の中で、もっとも真瀬の動きが印象に残った。今後は真瀬の裏が狙われるだろうね。あれだけ上がると分かっているなら、味方もフォローする準備をしといたほうがいいんじゃないかなと思った。

鳥栖が自分たちのサッカーにこだわっていたから助かった部分も大きい。J1から落ちたチームが無理やりつなぐサッカーをやろうとして失敗するパターン。ベガルタの守備に関しては、去年と違い全部ハイプレスにいこうとしないところがよかった。仕掛けるところと待つところをしっかりコントロールしていた。去年はガンガン行ってへばり、終盤オープンになって負けた試合が割とあった。そういう不安がなさそうで、うまく回っている印象だ。まとまりすぎて積極的に奪いにいくことを忘れてほしくないけれど、ピッチでしか分からない感覚もあるからね。宮崎(ベガルタ仙台FW宮崎鴻)にあれだけボールが収まったのには驚いた。すごかったよね。それが分かっているのなら、もっと違う攻め方もあったと思う。みんなが近くに行って、足もとで落としをもらうプレーを狙っていた。落として大きく展開するのもよかったんじゃないかな。最初から100%の試合なんてできない中で、友太がゴールを決めた。真瀬もあそこだけはちゃんとしたクロスを上げた。こういうときに決めるのは友太、持ってる男。サボらず走り続けたからこその決勝弾だ。みんなと話す姿とか、もっとピッチ内でキャプテンシーを発揮してくれるとなお良い。大夢(ベガルタ仙台MF鎌田大夢)は影のMVP。攻撃でもリズムを作ろうとしていたし、守備も効いていた。やっぱりクオリティーの高い選手だと思った。大夢は守備がいいというのを伝えたかったオレもうれしい。守備も賢くやれる選手だし、憎たらしいプレーをする。さらに全体に影響を与える規格外の選手になってほしい。

キャンプからそのまま開幕戦って、オレの中ではイメージがよくない。練習試合みたいな感じになっちゃう。なのに、今回はフワッと試合に入っている印象はなかったし、やることがちゃんと整理されていた。内容はまだまだとはいえ、チームが勝ったことに自信を持ってほしい。その上で反省すればより生きてくる。次の徳島戦は難関だと思う。結構、はがされるイメージがあるから、意思統一して、どのタイミングでハイプレスにいくのかが鍵になる。楽しみだね。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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