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Vol48「モトの活躍」

  • 2025.03.06

    Vol48「モトの活躍」

絶康調

昨季まで3年間、ベガルタ仙台で一緒に戦ったモト(セレッソ大阪FW中島元彦)の開幕戦と第4節新潟戦のゴールは、うれしいよね。セレッソに戻って勝負の年だというのは分かっているだろうから、セレッソの元彦として結果を残し、レジェンドになれるくらい活躍してほしい。開幕4戦で2得点。FWなんだって改めて思っちゃった。トップ下やボランチのイメージがしっくりくると思っていたけど、1トップでJ1でやれるなんて。まだ4戦とはいえ、たいしたものだと思う。

仙台に来て3年間、ずっと活躍していたモトは、少し浮き沈みのある選手だった。センスはあってサッカーIQがすごく高い。そして、いいか悪いかはさておき、サボり方が上手。それはすごく大事だと思っていて、サッカーを分かってないと上手にサボれない。そして、大事なところ、ここっていうところでボールに絡んだり、肝のところで相手を止める。ベガルタ加入後の最初の頃はスーパーなプレーでチームを引っ張ってくれていた。ただ、メンタルなのかな、子どもっぽさが残っていて、それがプレーや練習への姿勢に現れていた。「いけよ」って言えば「はいっ!」っていい後輩を演じる。終わってから「あれちょっとキツかったっすわー」って笑う。オレとサッカー観が近かったんだろうね。お互いに動き出すタイミングが合うし、オレが持てばモトが動き出すし、逆もまたしかり。よく目が合う選手だったな。

ボールを持ってチームを落ち着かせられる。苦しいときは背負ってボールを受けようとする。うまく前進できない状況だと、結構みんながボールから逃げようとする。でも、モトはなんとか打開しようとする。チームのリズムが良くないときに自分で受けて自分で時間をつくってリズムを取り戻そうとしていた。うまくサボるところも含め、多分感性が近かったからぶつかることもなかったな。去年1年、ゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)の下でやって、一段とたくましくなったと思う。そんなモトにもう何も言うことはないなと思ったというか、去年のオレは自分のことで精いっぱいだったのもあるしね。

今季、異例の3年レンタルが終わってモトはセレッソに帰った。そして、周囲の想像以上の活躍を見せている。セレッソは今季、監督が代わり、選手も顔ぶれががらりと変わった。新しい監督は新外国人を使うイメージがある。特にFW。だから最初はモトも苦しむだろうと思っていた。それでも、試合に出る出ないに関わらず、J1のセレッソで頑張れば財産になる。いずれは苦しくてもチームを引っ張っていく選手になってほしいと思っていた。愛されるキャラでかわいいし、ポテンシャルも高いし。1月にタイへ行ったとき、セレッソのキャンプにも顔を出した。そのときモトは別メニューで調整していた。「出遅れちゃったんすよ」って。疲れ切っていた。これは大変だぞと思っていたら、そこから挽回し、途中交代とはいえ開幕戦のピッチに立った。しっかり信頼を勝ち取ったんだなって思った。モトの性格上、きっとここで調子に乗っちゃうんだろうなとは思う。でも、真司(セレッソ大阪MF香川真司)とかがいるから大丈夫かな。

モトは3年間ずっと一緒にやっていて、「セレッソの13番を背負いたい」「もう1回勝負したいです」ってオレにセレッソ愛を話してくれていた。友太(ベガルタ仙台MF郷家友太)とはまた違うサッカー人生だよね。2人の今後がすごく楽しみだ。違う道を歩んでどういうストーリーになるのか。普通に考えたらベガルタからしてみれば痛いよね。モトは仙台にも愛着をすごく持っていた。でも、サッカー選手として夢を追いかけるのも大切だ。かつてセレッソの13番を背負っていた曜一朗(元日本代表MF柿谷曜一朗)に憧れていて、そうなりたいと思っていたんだから、「そこにはもう1回チャレンジしなよ」とは伝えていた。結果として「だめでしたー」で仙台に戻ってくるのもありだから、1年もがいて頑張れと。ところが、思いのほか早く活躍してしまったことが、純粋にうれしい。めちゃくちゃうれしい。

開幕戦のゴールシーンを見ていた。ドリブルで中央に上がっていくモト。解説の曜一朗が「パス出すな」って言っていた。オレも全く同じ気持ちだった。交代当初は試合に入れてなくて、そういうときって、普通だったらパスを選択することが多い。あの場面、そのままドリブルで勝負にいったところに、モトの覚悟と気持ちが現れていた。金曜日の開幕戦は1試合だけだったから、ほとんどJリーガーは見ていたと思う。鮮烈な復帰アピールだったよね。この先、勝ったり負けたりするなか、苦しいときに「モト頼むわ」って言われるような選手になれると思う。良くも悪くもモトのチームになってほしいね。思いっきり存在感を発揮してほしい。

モトに足りないのはJ1で戦う経験値だけ。そこに慣れるのは早いと思う。空気感を読むのは抜群にうまい。それもモトのサッカーIQの高さゆえんだろう。相手に求められていることをすぐ理解できる。あとは自信を持ってやるだけだと思う。過信と自信は紙一重、心配なのはそれだけ。もう若手じゃないし、結果でしか見られなくなる。もっとステージを上げるために、まずはセレッソの主軸になること。いずれJリーグの中島元彦になる。そして早くW杯に出てほしい。

モトには「どんなに苦しくても1年間頑張れよ。逃げ出すなよ。簡単に仙台に帰ってくるって言うなよ」と送りだした。飲んでいた時だったから、返事は軽かった。「了解っす」って。まだシーズンは始まったばかりだ。このままうまくいくのが理想だけど、そうもいかないだろう。苦境に陥ったときのモトを見るのも楽しみだ。頑張れよ、モト。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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