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Vol49「マサトとみせて、鹿島の話」

  • 2025.03.20

    Vol49「マサトとみせて、鹿島の話」

絶康調

先日、JFLのクリアソン新宿とブリオベッカ浦安・市川の試合を観戦して、帰りにクリアソンのマサト(元ベガルタ仙台FW中山仁斗)に会った。雨の中でしばらく待ったころ、マサトは弁当片手に現れた。「食べます?」って。天然マイペースのマサトらしいなって思った。で、今回は鹿島アントラーズの話ね。

開幕からここまで4勝1分け1敗で首位。開幕戦から雰囲気が出てるし、鬼木さんが監督でかみ合っている。勝ちながら徐々にやっていってる感じはある。戦術は中の人ではないからあまり話したくない。偉そうに話せるほど知らないというのが正解かも。勝っている中で、アカデミーから育った船橋(鹿島アントラーズMF船橋佑)がボランチにいることがすごくいい。船橋は昨季最後の方に試合に絡み出した。ゲームを変えられる存在が若手から出てきたのはうれしいよね。出場機会を求めてカテゴリーを落としていくルートが多くなっている中で、ずっと鹿島で戦っている。かつてのオレもそうだったから親近感が湧いているのかも。パフォーマンスがいいというのも、もちろんあるだろう。そして、そういう選手がくさらずにやれる環境にあるってことが大きいよね。練習でよくて機会をつかみ、試合で結果を出せている。

ホームでは26戦無敗だという。ただ、シーズンを通していいってことはなかなかない。負けなしが途切れたときにどういうアクションを起こすのかは気になるところ。とにかく最後に一番上にいなきゃ意味がないから、もともと序盤の順位は気にしていなかった。優磨(鹿島FW鈴木優磨)、安西(鹿島DF安西幸輝)、ナオ(鹿島DF植田直通)、ガク(鹿島MF柴崎岳)も含めて、昔からいる選手は分かっているだろう。それでも、いま上にいるということは、自分たちが今季取り組んできたサッカーに自信を持てるはず。鹿島にとっては、ずっと2位も2桁順位と同義だった。優勝したものにしか分からない圧力。オレは満男さん(元日本代表小笠原満男)たちの年代を見て育った。あの頃は勝った試合の直後でも「ああいうときはこうしないと」という話が出てきていた。どん欲だったな。鹿島にいたときの勝利とは、ホッとするものであって、喜ぶものじゃなかった。勝つためにお金もかけていて、歴史もある。偉大な先輩たちが優勝してきている。そしてそういう人たちが見ている。極論を言えばジーコが見ている中で勝たないと、「何してんの」って空気になる。そう言われる訳じゃないけど、現場はそういうふうに思えてくる。

オレはベガルタ仙台に移籍して、初めてその違いを知った。みんなが勝って大喜びしているのを見て「こういう勝ちの味わい方もあるんだな」ってしみじみ思った。それまでは帰宅して家族に「勝てたよ」と報告してホッとしてる感じだったからね。1試合の結果に一喜一憂しない鹿島。本気で優勝を狙わないといけないチームだった。満足しちゃいけないし、負けたら競争が始まるし。それが鹿島の伝統というものなのだろう。鹿島で育って移籍したみんなが集まると「鹿島っていいチームだよね。幸せだったよね」という話になる。鹿島の普通が普通じゃないというのは、いったん鹿島から出ないと分からない感覚かもしれない。

勝つためにやっているのはどこだって同じ。そして、選手の勝ちたい気持ちだけじゃ勝てないのもサッカーだ。監督、フロント、スタッフ、サポーター、そしてスポンサー。みんなが勝ちたいと思っていないと結果は得られない。勝つためにスポンサーを集めようという本気度が高く、みんなで勝ち獲ったよねって気持ちになるクラブだった。それは鹿島ならではだと思う。住金時代から積み上げ続け、国内三大タイトルを19度獲得した歴史。そういう意識の下でやれている。鹿島にいたら偉大なOBがいっぱいいて、オレはそれに乗っかっただけ。その人たちが積み上げてきた歴史の上にタイトルを獲ることができた。その歴史がなければそういうチームにはなっていなかったと思うし、ガクを中心に継いでいってほしい。新たな歴史をつくる上でいいスタートを切ったよね。監督にも鹿島の血が入っているし、練習を見たときからいいチームだなと思っていた。

その中で、ホーム無敗記録をJ1新記録の26試合に伸ばしたことにスポットが当たっていることが気になっている。こういうのって一番危ないんだよね。負けなしとは言っても、十何戦負けなしでも勝ててる試合が少ないとあまり意味がない。3分けで1勝分にしかならない。だから選手はあまり気にしなくていいと思う。中身をちゃんと見れていないといけないよね。こういうときにポロッと負けると続いちゃうイメージがある。優勝争いをしているときは負けちゃいけないから自然とそうなる。連敗はしちゃいけないし、負けて勝ち点差が3ずつ縮まるのは避けたい。だからホームでは引き分けが増える。もちろん、いいことではあるから応援しているみんなは盛り上がるし、メディアでも記事にもなる。でも、(オズワルド)オリヴェイラ(元鹿島監督)とかが「それを鵜呑みにしちゃいけない」ってよく言っていた。かつて、優勝争いしているときに「鹿島優勝か」と話題になったことがある。勘違いとは違うけど、そういう記事を目にした選手たちは「優勝できちゃうじゃん」って思っちゃう。

剛さん(元鹿島監督大岩剛)のとき、最終節のジュビロ磐田戦で引き分けて川崎フロンターレにひっくり返された。残り2試合のいずれか一つでも勝てば優勝という状況。メディアには「ほぼ決まりだ」って出てた。オレたちだって気を抜いていたわけでもないし、「勝ってから喜ぼうぜ」って引き締めていた。でも、文字で出ちゃうと、ほんの数人だったとしてもそういう空気感になってしまう。いつもだったらゴールに入るものが入らなくなるなど、悪い方向にいってしまう。今回の浦和レッズ戦もそう。ギリギリで追い付いて引き分けた。選手たちにとってはいい試合じゃなかった。鹿島の試合じゃなかった。負けなかったのもすごいことだとは思うんだけど、「負けなし」がクローズアップされると、選手たちもそっちに気がいっちゃう。悪い試合は悪い試合としてフォーカスしていかないといけない。もちろん、選手は分かっていると思うから心配とまではいかない。ただ、メディアの皆さんには「勝ってる試合だけ数えて」って言いたいね。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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