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J1リーグ第10節・浦和レッズ戦から始まった、リーグ戦3連敗。これはFC町田ゼルビアにとって、長らく味わっていない屈辱でした。僕が加入したのは昨年ですが、町田にとって初めてのJ1リーグを戦った、その24年はもちろん、J1昇格を決めた23年も連敗は一度もなかったと聞いています。つまり『黒田ゼルビア』としては初めて直面した状況でした。
特に、この3連敗は僕たち守備陣に重くのしかかりました。浦和戦で喫した2失点のうち、デザインされたコーナーキックから決められた1失点目は、僕がマークについていたマリウス・ホイブラーテン選手に決められました。また続くJ1リーグ第11節・ヴィッセル神戸戦の失点は、晃生(谷)とハチ(岡村大八)の連携ミスからオウンゴールを喫し、J1リーグ第12節・湘南ベルマーレ戦に決められた後半アディショナルタイムの失点は、イボ(ドレシェヴィッチ)の自陣でのイージーなロストからゴールを許しました。
つまり、3試合とも守備を預かる僕たちがミスを犯し、それが失点につながって敗れた事実がありました。もちろん、サッカーなので、点を取れれば勝てた、点を取られなければ負けなかった、といういずれの言い方もできるとは思います。ただ、攻撃陣なら、仮にシュートミスがあっても1点取れればミスを帳消しにできる世界ですが、僕たち守備陣は違います。「取られない」ことを繰り返すことでしか信用は得られません。だからこそ、この3連敗はしっかりと自分に目を向けて過ごした期間にもなりました。
その事実と向き合いながら『3連敗』をどう乗り越えるかを考えたときに、僕の中で明確になったことがありました。それはクラブの『幹』となる部分にあるマインドについて、です。過去、僕が在籍してきたクラブにもそれぞれ歴史によって育まれた幹があって、そこからいろんな枝葉を伸ばして成長を続ける姿を見てきました。またチームにとっては、苦境に直面した時ほど、その幹が『立ち返るべき原点』にもなっていた気がしています。
じゃあ、ゼルビアの幹にはどんなマインドがあるのか? 僕はそれを『チャレンジャー精神』だと受け止めています。僕自身は、このクラブに1年半しか在籍していませんが、加入を決めた時から僕なりにクラブの歴史を学んできた中で、その全ての瞬間に『チャレンジャー精神』を持って立ち向かうゼルビアの姿があったと感じました。だから、JFLから1つずつカテゴリーを上げながらクラブ力を膨らませ、現在のJ1リーグに辿り着いたんだとも思います。現在もそれは然りで、クラブはトップチームに限らず、今は決して強いとはいえないアカデミー組織も強化していこうという取り組みを続けています。裏を返せば、クラブの根底にしっかりとしたその幹があるから、チャレンジを続けられているという見方もできます。そして、それはこのチームがこの先20年、30年と歴史を積み上げていく中でも…仮にその中でたくさんのタイトルを獲得できるようなビッグクラブになったとしても、持ち続けるべきものだとも思います。
であればこそ、僕たちチームも、そのクラブと同様に、チャレンジを続けなければいけないと考えました。もちろん、明らかにチャレンジャーとして臨んだJ1リーグでの1年目とは違い、2年目に入った今年は、昨年の結果や周りからの見られ方も変わって、上位に居続けなければいけない、という意識がより強くなっているのはわかります。『連敗』に対して昨年以上の危機感が生まれるのも当たり前のことです。ただ、だからと言って、その現状に縮こまって、チャレンジしないのは、ゼルビアらしい姿とはいえません。…ということを僕自身も改めてこの3連敗の渦中にリマインドしたこともあり、その想いはチームに向けても発信していました。苦しい時こそ、チャレンジをしよう。恐れることなく思い切って、目の前の敵にぶつかっていこう、と。
それがJ1リーグ第13節・セレッソ大阪戦の勝利に繋がったとか、連敗を抜け出す理由になったとは微塵も思っていません。ただ少なからず、セレッソ戦はそれぞれが胸にある悔しさをしっかりとプレーで表現し、5試合ぶりの白星を掴むことができました。中でも、ここまでチームのために数字には表れない貢献をしてくれていたセフン(オ)にシーズン初得点が生まれたのもすごく嬉しかったし、湘南戦で悔しい思いをしていたイボが追加点を奪ってくれたのも嬉しかったです。先にも書いた通り、同じ守備陣として失点の重みを知る一人として、心から彼には「お前はすごいよ。ありがとう。おめでとう」とも伝えました。唯一、後半アディショナルタイムの失点は余計で、反省すべきですが、それぞれに苦しんだ3連敗があったからこそ、この試合だけは、まずは素直に勝てたことをみんなで共有して喜びたいと思ったし、そうすべきだとも思いました。
その『みんな』にはゼルビアサポーターの皆さんも含まれます。この日も大阪には僕たちと苦しみを共にしてくれていたサポーターが足を運んでくれました。彼らもまた3連敗は慣れていないはずで、「負けるかもしれない」という怖さもありながらの遠征だったと思いますが、この日も最後まで僕たちを信じて応援を続けてくれました。試合後、スタンドに向かって「ありがとう!」の言葉を届けたのは、その感謝からです。皆さんと共に喜びあった瞬間はチームにとって間違いなく、ここからまたチャレンジャー精神を持って前に進んでいく力になったとも思いました。
最後に、このセレッソ戦はゼルビアにとって昨年までのチームメイト、光輝(福井)との初対戦にもなりました。試合前の選手紹介で光輝がスタジアムビジョンに映し出された際、セレッソサポーターが歌う光輝へのコールに合わせて、ゼルビアサポーターが一緒に手拍子をしていたのには驚きと共に温かさを感じました。それくらい光輝がゼルビアに愛されていた選手だったと改めて知る機会にもなりました。
もちろん、僕たち選手にとっても光輝は思い入れのある選手で、初対戦を楽しみにしつつも「光輝は絶対にソワソワしてるだろうからバンバン、シュートを打ってやろうぜ」を合言葉に試合に臨みました。結果、僕たちが勝利を掴んだことで試合後、ロッカールームにやってきた光輝は、愛情たっぷりに「町田のクソッタレ!」と毒舌を吐き(笑)、「そっちのホームでは絶対に勝ってやるからな!」と捨て台詞を吐いて去っていきました。やはり、どこにいても、愛すべき選手でした!
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昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。