ベガルタ仙台が好調だ。2位大宮アルディージャと勝ち点1差の3位につけ、6戦負けなしでJ1自動昇格をうかがう位置に付けている。4月29日の明治安田J2第12節もアウェイでヴァンフォーレ甲府を2-1で破った。とにかく真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)がよかったよね。今季のベガルタの得点シーンには、アシストの前のアシストも含めて真瀬がよく顔を出す。甲府戦も4度の決定機に絡んだ。特に前半33分のプレーが良かった。ペナ内で大夢(ベガルタ仙台MF鎌田大夢)のスルーパスを足もとに収めてシュート。はじかれたのは相手キーパーを褒めるべき。いい反応、対応だった。大夢のあのパスはすごかった。インサイドで蹴っていたら多分DFの足に引っかかっていたと思う。とっさにトーキックで出したあのパスにはすごくセンスを感じた。あの場所に走り込んで準備していた真瀬もすごかった。真瀬に必要なのは余裕。ちょっとした遊び心が出せれば浮かせるとかいろいろできただろう。余裕を身に付けるには、何回もああいう場面をつくること。試合はもちろん練習からも。ヘディングのところもセンターバックにとって一番嫌な場所に走っていた。とにかくシュートで終わるのがいいよね。
かつての真瀬は驚異的な運動量で上下動するザ・サイドバックという選手だった。そして、上がりすぎた真瀬サイドを狙われるのもお約束。前節もひとつ戻りきれなくて危ないのがあって、変わってないなと思った。でも、それを補えるくらい攻撃で存在感を発揮している。守備ばっかりの真瀬は見たくない。周りがスライドしてあげるとか、うまくカバーして真瀬を生かしてほしい。特に成長を感じるのがオフザボールでの動き。ボールを持って自分でビルドアップをあまりやろうとしなくなっている。オフザボールでどれだけ勝負しているのかがうかがい知れる。前はボールを受け取ってからアクションを考えていたフシがあった。どうしようかとか、持ち味を出そうとか意識し過ぎていたと思う。今は自分が動くことでボールを引き出している。ボールが出なくても走ったり、出してよとアピールしたり。そういう作業を練習からしっかりやっているんだろう。だから動いているところにボールが出てくるし、いい形で攻めていけている。
甲府戦はサイドハーフでの出場だった。椋汰(ベガルタ仙台DF高田椋汰)の状態がいいとか、2列目にケガ人が出ているとか、いろいろ理由はあるだろうけど、真瀬はサイドバックで輝く選手だと思う。この試合は両サイドとも、このタイミングでサイドバックが上がっていてほしいと思うことが多かった。左右に大きく展開するときにサイドバックが裏を狙うシーンが少なかった。ベガルタはサイドチェンジをもっと増やしていけば攻撃が厚みを増す。同じサイドで細かくつないでいる。距離が近いとパスミスは起きづらい。安心できることではあるかもしれないけど、J1での戦いはサイドチェンジがマスト。センターバックからでもボランチからでも展開する。そういった攻撃も取り入れて相手を困らせるべきだ。真瀬は常にそれを狙っているから大きい動きがあって、そこにパスが出ると一気に加速するし、ワクワクする。個人的にはベガルタにはもっと攻撃的にいってほしい。1試合1得点ペースは少ない。守備的な選手を多く置いて、失点は減っている。サッカーはエンターテインメントでもあるから、極論を言えば玄人好みの1-0より5-4の勝ちのほうが観客に楽しかったと思ってもらえるだろう。攻撃的な選手を使いながら失点ゼロで勝てたらいいけれど、そううまくいくものでもない。勝たないといけないのがプロサッカーの難しさ。それでも、守ってばかりのチームは見ていて面白みに欠ける。選手の配置を見ていると、最適なものがゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)の中で決まってないのではないかと感じる。この後、大宮やジェフ千葉と当たる。ここが前半の一番のヤマ場。なんとか勝ち点3をつかみ取ってほしい。
甲府戦はオレにとって解説2戦目だった。今回もめっちゃ楽しんだ。普通は中立で甲府と仙台の両方について話すけど、オレは自信が無いから、仙台での放送というのもあってベガルタのことばかり話していた。思ったことを素直に言葉にして、自分だったらどうするかという感覚を伝えたり、今のベガルタに何が足りないのかを話したりするほうが楽しんでもらえるかなと。いろいろな解説者がいる。普通にやるのならオレじゃなくてもいいしね。開幕戦のときの初めての解説に比べたら余裕はできていたかな。前回はカメラいっぱいあるし「どこ見るの?」となっていた。こうした方がいいかなと思えるようになったのは、視野が広がった証拠かもしれない。
注目選手にトウヤ(ベガルタ仙台MF名願斗哉)の名前を挙げたら試合に出なかった。実は先日、友太(ベガルタ仙台MF郷家友太)から連絡を受けて、練習に顔を出した。呼んだ友太はコンディション不良でいなかったけどね。そこでトウヤといろいろ話した。トウヤはペナルティーエリア付近で仕掛けられる貴重な存在。リュウ(ベガルタ仙台MF相良竜之介)がケガをしているからなおさらだ。高卒で強豪クラブに入って3年目。自分もその頃は苦しんでいたし、境遇が似ているのもあって期待している。トウヤのドリブルはヌルッといく。タックルを受けてもそれを推進力に変えて進む。絶妙に届きそうなところにボールを置いて、足を出したところを利用するからDFは次の一歩が遅れる。密集地帯でもプレーできるんだからもっと自由に動いてもいい。ゴリさんの前で「お前がやらないと」とハッパを掛けていたから、試合で活躍してほしかったな。あと、「真瀬決めろよ」は魂の叫び。みんなガックリきても、「なんで決めないんだよ」という非難にならないのは、真瀬のキャラもあるし、ああいうシーンにどんどん絡む成長ぶりを知っているからだと思う。今回も好き勝手しゃべったけど、また声がかかるようなら解説3戦目に出場してみたいね。
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遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。