11日の鹿島アントラーズ対川崎フロンターレを観戦した。去年までフロンターレの指揮を執っていた鬼木さん(鹿島・鬼木達監督)の古巣対戦を国立でやるのなら、絶対に観に行こうと思っていた。鹿島にとって分岐点になりそうな予感もしたしね。優勝とかタイトルを獲るときはビッグマッチに勝てないといけない。昔からフロンターレにはなかなか勝てていないイメージがあったから、前半戦のヤマ場はこの試合だと想像していて、勝手に「ここがビッグマッチ」と決めた。
ほぼ満員で選手として最高のシチュエーション。ホーム戦ということもあって、ほとんどが鹿島サポーターだった。観客動員数は59,574人で新国立過去最多でコロナ禍後最多だったそうだ。試合はめちゃくちゃ面白かった。個々の能力の高さもあって、前線の選手は誰がボールを持っても何かするんだろうなというワクワク感があった。印象的だったのは優磨(鹿島FW鈴木優磨)かな。先日得点後に相手ゴール前でやった、片肘をついて寝そべるパフォーマンスが物議を醸したあの優磨。スポーツはエンタメだと思っているオレからすれば「優磨らしいな」で終わりなんだけど、ああ見えてめちゃくちゃ優しいやつだから、絶対にたたかれていることを気にしていると思う。あいつは海外から帰ってきて、鹿島にタイトルを獲らせようという気持ちが人一倍強い。満男さん(元日本代表MF小笠原満男)から40番を受け継いだしね。当時はタイトル獲ったりACLに行っていたから、なおのことタイトルへの気持ちが強いと思う。そういう血を受け継がれているところに鹿島の強さがあると思う。
フロンターレが先制した前半は、もう1点ぐらい入ってもおかしくなかった。それでもGKを中心に耐えて苦しい時間帯を乗り越えた。セオリー通りじゃないけど、そうなるとチャンスはくる。そして、前半終了間際に佑(鹿島アントラーズMF船橋佑)のゴールで追い付いた。以前も書いたけど、高校生から知っていて、去年一昨年の思いも知っている。気持ちが強く折れずに頑張ってきたから今がある。普通だったら声かかってきたところに移籍しちゃうところを、あえて残る決断をした。いたくてもいられないクラブ。ああやって残って結果を出せるのはいいこと。プラス、鹿島は若いやつを育てるクラブ。だから強いと思う。次は佑がチームを引っ張っていく流れが引き継がれれば良いと思う。
フロンターレは決め切れず、鹿島は追い付いた。そしてハーフタイム。ホームでこの雰囲気だったから勝つ流れを確信した。選手たちはもっと強く感じていたと思う。終盤はみんな足をつりながら戦っていた。前線に頑張る姿を見せられたら後ろの選手は体を張って守るでしょ。どれだけ勝ちたいと思っているか。そういう気持ちの表れが見ている人の心を震わせるんだろうな。戦術やシステムを越えた個の能力がある人たちのぶつかり合いは、見ている人をワクワクさせてくれる。
ベガルタも上位対決の真っ最中だ。敗れはしたものの大宮アルディージャ戦は観ていて気持ちよかった。ビビって何もしなかった訳でもないし、持てる力を出して負けた印象で、ここからまた強くなるなと思った。ここまで勝ってきた実績もあるし、勝っている中でも物足りなく思っていた選手もいる。オレもそうだったから、先日のヴァンフォーレ甲府戦を解説していて厳しいことを言った。勝っていたのにうまくいっていなかったところが大宮戦で出たと思う。シュートまでいけない、いいところで崩せていない。そしてカウンターを食らって負けた。丁寧にやり過ぎた。持たされていた。持たせても怖くないと思われていたんじゃないかな。「きたっ」っていう場面がなかった。
その中で、いちサッカーファンとしてベガルタの2ボランチ、ヒデ(武田英寿)と大夢(鎌田大夢)の組み合わせにはワクワクした。現状2ボランチなら蒼生(ベガルタ仙台MF工藤蒼生)のような守りを得意とする選手1枚が主流。攻撃的な2人をボランチで組ませるのはなかなかない。だからこそ夢がある。2人が守備できないとかじゃないよ。守備も大事だけど、2人が前に出て空いたスペースをカウンターで狙われるならチームとしてカバーすればいい。それ以上にヒデの左足や大夢のスルーパスには魅力があるから、前めの選手だったら楽しいだろうなと思う。オレがFWやトップ下だったらもっと動く。動いていればそれに合わせてボールが出てくるからね。そういう意味ではもらう側の動きの少なさがちょっと気になった。練習から準備ができていれば、自分が苦しい状態でも、受け手が厳しいマークに遭っていよるように見えようがパスを出す。オレはそうする。もらう側が1回の動きでボールが来なかったら動きを止めてしまうことが多かった。裏抜けしてパスが来なければいったん下りるとか、何度もチャレンジしないとボールは来ないからね。しつこく動き回っていいパスを引き出してほしい。
今回大宮に負けた事は仕方がない。でも、なんとかしようという姿を見せ続けてくれていたから、ここからまた強くなるという可能性を感じた試合だった。なんとなく勝ってしまってシーズン終盤にひずみが出るより、「あの時に負けて良かった」と思える試合になればいい。まだ順位も首位を狙えるところにいるから、次のジェフ千葉戦が大きな意味を持ってくる。大宮戦でやれなかったこと、勝っていてもやれなかったことは分かっているだろう。この短期間で調整できるかは分からないけども、こういう試合は戦術より気持ちが大きく作用する。勝たせないといけない、絶対勝ちたいと思って戦える選手がどれだけ出てくるか。首位との直接対決となる千葉戦は、仙台にとってのビッグマッチだ。
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遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。