©VEGALTA SENDAI
モンテディオ山形とのダービーに勝ててよかった。結果だけ見たら4-3。失点が多くてベガルタ仙台らしくなかったけど、ダービーは勝てば官軍。個人的には聖真(山形MF土居聖真)が復帰して出てくれたのもうれしかった。点の取り合いだと山形ペースになるし、先制されるとしんどくなるなと思っていたけど、ベガルタが先制し、後半にひっくり返されても我慢強く戦い、最後に勝ちをたぐり寄せていてみんながすごく頼もしく見えたね。おととし一緒にやっていたときからの成長が目に見えて分かる。移籍でいい選手を取ってくるのもいいけど、生え抜きの選手の成長こそが一番の強化。今の順位とかも含めて、いい状態にいる。
試合自体はベガルタらしくない戦いだった。ゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)も納得している内容ではなかっただろう。内容だけにフォーカスしたら、そうでもない。ゴリさんは守備でみんなに求めるものがとても多い。ゴリさん自身がサイドバックの選手だったから、特にサイドバックには求めることが多い。仕方ない失点というのもあるけれど、終盤ディサロ(山形FWディサロ燦シルヴァーノ)にやられた場面は、絶対に怒るだろうなと思った。時間帯も時間帯だし。ゴール前で味方がボール奪ってカウンターにいくところを再び取られた。涼太(ベガルタ仙台DF高田涼太)がディサロを見ていないといけない。ちゃんと見ていたらディサロはああいう形でヘディングできていないと思う。涼太も途中出場で入ったばかりだったし、上がりたかったんだろうね。それでも5分後にきっちりお返しのゴールを決めるところが涼太のすごいところだ。真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)もあんなに優しいパスを出せるなんて驚き。普段からアシストの前の起点をつくるとか、真瀬がいると何かが起きる。もうベガルタにとって必要不可欠な存在になっている。以前は走れるし戦えるしいいものをもっているのに、ネガティブになるとずっと引きずっていた。今はそういうことがない。失敗があったとしてもすぐ取り返す。ミスが気にならなくなっている。真瀬という存在が確立されている。
そして、もつれにもつれた試合の最後はヒデ(ベガルタ仙台MF武田英寿)が直接FKを決めて勝ち越した。距離もあったし、よほどの自信がないとあの時間帯で狙うのは難しい。相当自信があって、自分の武器を分かっている証拠だ。ああいう姿勢はなくしてほしくない。オレでもあそこで打つかなって思った。2022年の山形戦でFKを決めたときぐらいの距離なら迷わず打ちにいくけど、あとはその時のフィーリングで決めるかなあ。遠いじゃん。でも、ヒデは「普通に入ると思って決めました。よくよく見たら遠いですね」って笑っていた。自信に満ちあふれているから距離を感じなかったんだろうね。なかのFC、すげえじゃんって思ったよ。FKといえば武田という存在になってほしいね。日本のみんなが連想するぐらいのクオリティーまで到達してほしいし、先発で出てああいうキックを決めてほしい。今回はスタメンを外されて途中出場だった。レンジ(ベガルタ仙台MF松井蓮之)が戻ってきて守備を優先されたんだろう。そういう悔しさも晴らした。みんなでいいポジション争いをしているよ。
忘れちゃいけないのは友太(ベガルタ仙台MF郷家友太)の貢献度。友太はこれまでダービーで得点したことがなくて、ゴールを決めたいという思いがすごくあったそうだ。難しいヘディングだった。友太のゴールは表現しづらい。うまくはがしてとか強引にいってとかがない。気がついたらいいところにいる。あれが友太。いるべきところにいる。必ず走ってきている。特にいいのは守備。ボランチの選手や縦に並ぶ真瀬なら分かる。カバーリングが絶妙ですごく助かるんだよ。抜かれる心配をしなくていいし、何事もなかったかのように空いたところを埋めてくれる。近くでプレーすると分かるすごさ。オレもそれを理解した上で、現役時代からずっと攻撃での貢献を求めていた。苦しいときに攻撃でどう引っ張るかという話をよくしていた。ビルドアップのヘルプとか、はがしてスルーパスとか。使われる側の選手として一流で終わらず、使う側になったときに良さをもっと出せと。友太はレアル・マドリードのMFジュード・ベリンガムに近いと思っていつも見ている。オフ・ザ・ボールでの守備のすごさがあり、体も大きくて強いしペナでの迫力もある。
いわきFC戦の2日前に友太と会っていろいろと話した。友太の良さが出てないなと思って声を掛けた。オレは今年のキャプテンに友太を推した責任がある。ベテランがキャプテンやっていれば、友太も自分のことを優先して考えられるから楽だったと思う。でも、友太には梁さん(元ベガルタ仙台MF梁勇基)や晋伍さん(元ベガルタ仙台MF富田晋伍)みたいになってほしいし、キャプテンとしてベガルタをJ1昇格させることが成長にも自信にもつながると考えた。あの時期の友太は、自分と求められているところのギャップで悩み、アタマがごちゃごちゃになっていたと思う。いろいろ聞いて、感じていることは全部正しいから「勝つための発言はしていいんだよ」と背中を押した。キャプテンになってしまったがゆえに、言いづらくなっていた部分もあるだろう。すっきりしたのかな。早速、いわき戦でゴールを決めていた。「結果出すんかい!」って思った。プレーを見ていてもどう整理がついたのかは正直分からない。けど、いわき戦で決めたあの1点は友太を救ったんじゃないかな。
いい形じゃなくても劇的に山形を下した。だからこそ次のヴァンフォーレ甲府には勝ってほしかったな。二度追いとかしている選手も少なく連動性も乏しかった。誰かがかわされても次の選手が奪う。コンパクトにまとまっているベガルタの守備があの試合は少なかった。久々のユアスタ開催だったから勝ってほしかったけど、そんなに甘くないよね。とはいえ、まだ折り返したばかり。ここから上げていくだろう。その中でもずっといる選手が成長しながら勝つことが、一番楽しくて強化になるし、何よりクラブの財産になる。長くいる選手が成長してチームを支えることが長い目で見て一番いいこと。これはお金にかえられない部分。10年続けていればだいぶ違ってくる。いつか引退したバンディエラたちが「僕たちのようにずっとベガルタで頑張ってほしいですね」と解説していたら最高だ。
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遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。