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Vol63「前向きな敗戦」

  • 2025.10.09

    Vol63「前向きな敗戦」

絶康調

ベガルタ仙台は10月4日のRB大宮アルディージャ戦に負けちゃったね。リーグ戦の最終盤のこういう試合に負けちゃうというのは、勝負強さという点ではまだ未熟とはいえ、そこまで求めるのは酷だな。内容はすごく良かった。大宮は前戦3人に爆発力があり、ダイヤモンドの中盤と2トップの攻撃がうまくはまった印象。ベガルタは狙いを持った守備で両サイドバックが食いつくのが非常に早かった。そして、その後ろに流れた大宮の外国人FWに起点を作られていた。後半はケアできるかなと思ったら、やれてできていなかった。パワーでごりごりとやられた。お互いの持ち味をぶつけ合った戦いぶりには、見ていた人も心を揺さぶられたんじゃないだろうか。ゴリさん(ベガルタ仙台森山佳郎監督)もインタビューで笑顔だった。逃げ腰にならずしっかり守っていたし、攻撃もぶつかり合いから逃げずに戦っていた。細かいことを言えばもっとやってほしいところはそりゃあったけれど、90分間アグレッシブに戦い続けていた。そういう試合を解説できたのはうれしかったな。忖度なしに話す中で、ネガティブなことは真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)のクロスに対してくらいで、それもお約束みたいなものだし。

ベガルタは大宮戦まで負け無しが続いていた一方で引き分けも多かった。ここぞという時になかなか勝てないのは仙台の課題ではあるよね。去年の岡山戦のように、自分たちの力を出し切れないとか。最近はそこが改善されているように見えた。選手たちもピッチ内で話し合ってアクションを起こしている。みんながしっかり戦うことで、ゴリさんも起用に悩んでいるだろう。レンジ(ベガルタ仙台MF松井蓮之)も大宮戦はハーフタイムで代えられたしね。オレは大宮戦までの6戦負け無しの立役者はレンジだと思っている。ボランチとして攻撃の芽を摘むし、攻撃の起点にもなっていた。特に守備で自分が奪ってそのまま起点になるプレーが多いのはすごく良かった。ベガルタに流れを持ってきているのはレンジだと思っている。完全移籍でいろいろな迷いも吹っ切れたようにも思う。試合になると人が変わったように戦うところがすごくいい。優しいやつはいいやつで終わってしまう。守備の人は相手に「こいつ嫌だな」とか「うざっ」と思われてなんぼだと思っている。パフォーマンスが上がってきて、迷い無く守備にいっているのが見ていてすがすがしいからもっとクローズアップしてほしいな。それだけの仕事をしているレンジでも、ちょっと悪いと下げられてしまう。ヒデ(ベガルタ仙台MF武田英寿)や大夢(ベガルタ仙台MF鎌田大夢)も含め、お互いの能力を引き上げ合っていて、そういう競争が今の仙台の強さにつながっている。

そして、右サイドハーフがかちっと決まったのも大きい。左は竜(ベガルタ仙台MF相良竜之介)がいる。ここにきて右に荒木(ベガルタ仙台FW荒木駿太)と山内(ベガルタ仙台MF山内日向汰)がはまった。ボールを受けて時間をつくれるから周りも動きやすくなったと思う。2人はパスも出せる。そこがかちっと決まったから勢いが出たのかな。山内は先日3-0で完勝した札幌戦で直接フリーキックもを決めたけれど、右サイドバックの真瀬が上がってくる時間をつくったり、間で受けて前向いてなんとかしようとしたりする姿勢も含めて、ボールが渡るとわくわくする感じがあった。
あとは全体的に守備の安定感を増してほしいね。もっと後ろがどっしり守ってほしい。その守備陣では、林くん(ベガルタ仙台GK林彰洋)のアクシデントから出番をつかんだ堀田(ベガルタ仙台GK堀田大暉)が頑張っている。狙ったところに蹴ることができる今どきのGKらしい特長を生かして攻撃の起点にもなっている。そして、代わって出た堀田の活躍を目の当たりにして、林くんもさらに必死になる。そういう競争激化は底上げにつながる。頑張ってきたことはウソつかないし、いつか報われる。そういう世界の中でGKはさらに特殊だ。1人しか出られない上に、そう簡単に変わることはない。いつもGKコーチとGK4人で練習に取り組む。林くんが試合に出ていれば、全力でサポートする。昇格のためにはみんなで頑張らないといけなくて、勝つためにそういう行動をとる。堀田もはベンチにも入れない時期が続いていた。「こんなはずじゃない」と思って過ごしていたと思う。地元に帰ってきている訳だしね。それでも、ずっと諦めずに準備していたことが今につながっている。

自動昇格圏内も視界に捉えて臨んだ大宮戦には、選手も、サポーターも、クラブもすごく思いを懸けていたと思う。そこで負けた。でもまだ6試合ある。みんな落ち着こう。大事な試合に勝てなかったなどいろいろな感情もあると思うけれど、これから先、残り試合が減ってくるともっと難しい試合になってくる。大宮戦の時点では大宮戦が大事な一戦ではあっただっただろうけど、これから先は一戦一戦が大事な試合だ。逆転優勝を許した2017年の鹿島アントラーズは最後の3試合、見返しても全く悪いところはなかった。あとは点が入るだけというような試合運びをしていたものの、全部勝てず引き分けて優勝を逃した。あの苦い経験がある。それは、ベガルタより上位のチームが失速する可能性だって十分にあるということだ。ここからはどれだけ自分たちの力を発揮できるかが重要になる。大宮戦はベガルタらしい戦い方を貫き通し、ぶつかり合って出せるものを出した末の敗戦だった。10人になってからもチャンスをつくり、最後までファイティングポーズをとっていた。自分たちの力を出せるかにフォーカスしていた。もちろん、勝つことが至上目的である以上、勝つに越したことはないけれど、あの戦いぶりを見ていたら悲観的になる必要もはない。120%の力を引き出してぶつかれば、結果はおのずとついてくるはずだ。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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