Vol64「応援モード」

最近、ベガルタ仙台を見ていて「ん？」と思うことが減っている。なんでだろう。以前はもちろん頑張れと応援していたけれど、それ以上に選手目線で「ああしないと」「こうしないと」と目に付くことが多かったし、サッカークラブやプロとしてのあり方が気になっていた。鹿島アントラーズから移籍してきた当初からいろいろな面でベガルタには足りない部分があるとは思っていた。そういう疑問符の「ん？」が減っている。ゴリさん（森山佳郎監督）、GMの庄子春男さん、選手も含めてJ1に上がれるチームだと思っているからこそなんだろうか。オレの肌感覚でいうと春男さんや強化部といった、基盤となる部分がしっかりしているから選手も安心してサッカーができているんだろうというのがある。そう考えるとオレがプレーしていたのは特異な３年間だったな。監督も毎年変わり、もちろんそれにはオレら選手の問題もあったんだろうけど、外から見ていて「ベガルタ、大丈夫？」って感じだったよね。暴走したサポーターも問題を起こした。基盤が不安定だと、選手も何がいいのか悪いのか、何を信じて戦えばいいのか分からなくなる。中にいても大丈夫かって不安もあった。だけど今季は、ゴリさんが２年目に入って戦っている。本来クラブはそうあるべきだと思う。

引退してからは鹿島アントラーズの試合や練習を見て、ベガルタの練習や試合を見て、さらに、アイリスFCや大学カテゴリーなど、いろいろな現場に携わっている。そうして接していて、プロサッカー選手ってすごく幸せだと改めて思う。自分１人の力だけじゃ高い給料をもらえなくて、練習も試合もやって結果を出す義務があり、使ってもらえない、干されているとか大変なことがあるかもしれない。でも、外から見れば憧れの存在だと思う。もちろん、おのおののレベルを考えたらもっとやらないといけないよ。でも、ベガルタの戦いぶりを第三者として見ていると「すごく頑張っているチームだな」と思う。オレ自身が走れる選手ではなかったから「みんなよく走ってるな」とも思う。

そして、ゴリさんに報われてほしいと思う。起用法とか納得いかない人もいるかもしれないけど、あれだけ仙台に自分をつぎ込んできているのを見ていると、応援してしまうよ。心境の変化の一番の理由は結局ゴリさんかもしれないな。会うと「勝ちたいんだよね」っていつもニコニコしながら言う。細かく見たら戦力が足りている訳でもないし、選手ももっとやらなきゃいけないことがある。でも、普段会う人たちからは「ベガルタって、勝ってるの？負けてるの？」なんだよね。引退して、しばらくそういうところに身を置いていると、サポーター目線の応援モードになっている時間が増えてくる。

分析モードで見ると、大分戦は残念だった。確かに相手が退場して11人対10人になると、案外やりづらいんだよ。11人対11人だとバチバチでやるから、やられる可能性も増える分、攻めるチャンスも増える。10人に減ったチームは体力的にきついけれどタスクがシンプルになる。思い切って守備にかじを切るから案外守り切れることが多い。まさにそういう試合だった。そこで「そんなきれいに崩さなくてよくね？」と思うプレーがベガルタは多かった。友太（MF郷家友太）や宮崎（FW宮崎鴻）がいるんだから、もっと雑にでもゴール前にボールを放り込めばよかった。中盤もまず、ミドルシュートを打っていないと、次に似た状況になった時にフェイントが生きない。ところがベガルタは爆弾ゲームみたいにボールを渡し合っていた。前の選手はもっとクロス上げようよ、１対１仕掛けようよ。取られてもいいからガンガンいこうよ。相手のスーパーな守備はあったかもしれないけれど、もっとゴリゴリ強引にでも押し込んでほしかった。クロス上げないの？シュート打たないの？と思わざるをえない場面がちょっと多過ぎた。「そこでバックパスかい！」って。ちょっと攻撃をきれいに組み立てようとし過ぎているように見えた。相手にとってうまい選手よりこわい選手が増えてほしい。真瀬（DF真瀬拓海）は１対１で仕掛けるよりも、無尽蔵の体力を生かして裏に抜ける動きをもっと増やせば、相手は対応するのが大変だし嫌になる。竜（MF相良竜之介）だってそう。ガンガン仕掛けて強引にでもシュートを打てばいいんだよ。ああいう場面で最も必要とされるのは竜なんだから、もっと自信を持ってチャレンジしてほしい。

これで勝ち点差も開きJ1昇格プレーオフ圏外となった。戦い方を構築できていないシーズン序盤だったらアウェイで引き分けもいいけれど、勝負どころで勝てないと強いチームじゃない。勝たないといけない試合で勝てるのが強いチーム。これはベガルタに限らず、優勝したチーム以外はみんな当てはまる。でも、悪いことばかりでもない。大分戦はマテ（DFマテウス・モラエス）がいい仕事をした。今年はメンバーが固定されていない。誰かの代わりに出た選手が活躍するといういい循環ができている。堀田（GK堀田大暉）にしてもそうだ。誰かに頼らないといけないチームはもろい。それはそれでゴリさんの悩みの種にはなるだろうけど、誰が出てもベガルタらしい戦い方ができるのが理想だ。安野君（FW安野匠）にしても、「１点取らないと」っていう時に使われるっていうことは何かを持っているんだろうね。高卒１年目だよ、希望を持てるよね。だからなおさら勝ってほしかったなと思う。
10月26日はユアスタでサガン鳥栖戦が待っている。その日はベガルタOBの梁勇基さんと富田晋伍さんと３人でのトークショーがある。２人が「大人の事情」でなかなか言えないであろうことも代弁しようと思っている。お楽しみに。