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Vol.135 西大伍くんの引退。

  • 2025.11.03

    Vol.135 西大伍くんの引退。

発源力

西大伍くん(いわてグルージャ盛岡)が今シーズン限りでの引退を発表されました。偉大な先輩がまた一人、ピッチを去ります。寂しいです。
ご本人から「今年で現役、やめるよー」とLINEをいただき、まさかLINEで返事をする内容じゃないし、直接「お疲れさまでした」と伝えたいと思って電話を掛け、少し話をさせてもらいました。鹿島アントラーズ時代にお世話になった偉大な先輩方の引退には、ほぼ泣いてきた僕なので今回も声を聞くと泣きそうな気がしましたが、案の定、大伍くんの「やめるわー」の第一声に、本当に引退しちゃうのかと実感が湧いて、泣きました(笑)。

大伍くんはとは5歳の年齢差があるとはいえ、同じ11年に鹿島に加入し、18年まで共にプレーした同期でした。加入したばかりの頃は全くのノーチャンスだった僕に対し、大伍くんは持ち前のサッカーセンスであっという間にポジションを勝ち取り、不動の右サイドバックとして輝いていました。同じピッチでプレーができるようになったのは、僕が試合に出られるようになった14年から。右サイドで躍動する大伍くんとヤスさん(遠藤康)のコンビは強烈で、ものすごく心強かったし、なんなら同じピッチに立ちながら、その二人のセッションを楽しんでいた感もありました。

実はピッチで一番喧嘩した先輩も、大伍くんです。試合中、あまりに大伍くんが守備をしないことにキレてカッとなり「お前、守備しろや!」「戻ってこいよ!」と怒鳴ったこともあります。それに対して「あー? なんだ、お前?!」と言い返され、怯む…どころか余計に火がついて「だから、ちゃんと戻ってこいや!」と追い打ちをかけたら、再び大伍くんにキレられました。
「別に戻らなくても、お前一人いれば、守備は十分だろ!」
怒っているのか、信頼されているのかわからず、だけど思わず僕も「お、お、おう…」と口ごもり「いいよ、攻撃に行ってこいよ。俺が頑張って守備をするよ!」となった日も懐かしいです(笑)。
もっとも、ひとたびピッチを離れれば、そんなことは忘れて、誰よりもケロっとしているのも大伍くんでした。僕に限らず、優磨(鈴木)ら若手をご飯に連れ出してくれたり、釣りに連れて行ってくれたり、後輩をすごく可愛がってくれる先輩でした。試合後に「大伍くん、試合中はすいませんでした」と謝ったこともありましたが、いつも「ぜんぜん、ぜんぜん! ピッチの上では当たり前でしょ」と爽やかに返され、その懐の深さというか、プロフェッショナルな姿に学んだことも多かったです。僕自身も、どちらかというとピッチ内のことをピッチの外に持ち込まないタイプですが、その自分も少なからず大伍くんの影響を受けているように思います。

思うに、本来は繊細な性格を持ち合わせていながら、一度ピッチに立てば、どんな窮地にも「大丈夫っしょ!」と楽観的に向き合う大伍くんの姿には何度も助けられました。その振る舞いが与えてくれる安心感はめちゃめちゃあったし、僕たち若手は特に、大伍くんのドシっとした姿を見て、大丈夫な気がしてくることもありました。サッカーに対しては当然、真剣だし、ものすごくストイックだし、なんなら変わったトレーニングを見つけてきては試していました。今でこそみんながよくやるようになった目のトレーニングや視界を広げるトレーニングをはじめ、脳トレとか、速読とか、とにかく『変わったトレーニングの先駆者』だった印象もあります。ですが、一方で、「サッカーは楽しんでナンボでしょ!」みたいなところもあり…。プロサッカー選手が本職ながらも、それを本職とは思わせないような、どことなく趣味の1つとしてサッカーをやっています、的な雰囲気を持ち合わせていたのも、大伍くんらしさでした。
 もう引退を決められたので明かしますが、一度、アウェイでの徳島ヴォルティス戦に釣竿を持ってきて「この人、最強やな!」と思ったこともあります。前後泊の試合で、釣りに行けるタイミングがあるとしたら試合日の朝か、試合翌日の移動前しか考えられない状況下、本当に大伍くんが釣りをしたのかは不明ですが、試合の遠征に釣竿を持参した人を見たのは、後にも先にも大伍くんだけです。そして試合は5-0で大勝しました…。

というように、一緒に過ごした鹿島での8年間、エピソードに事欠かない、『大伍ワールド』を爆発させていた大伍くんでしたが、それはおそらく、以降に在籍したチームでも同じだったんじゃないかと思います。実際、20年のヴィッセル神戸時代には、AFCチャンピンズリーグへの参戦にあたってのインタビューで「鹿島でのACL優勝経験を踏まえて、優勝するために大事なことは?」みたいなことを聞かれて「気持ちと運とロマン」と話していたことからもそう確信しています。大伍くんらしいなーと思いつつ、そして、気持ちと運は確かに大事! と賛同しつつ、ロマンは勝ち上がっていく過程で大事なことではなく、むしろ優勝した時に生まれるものじゃない?! と心の中で突っ込んでいました(笑)。
そんな発言も含めて、独特の世界観で現役を貫いた大伍くんでしたが、きっと引退後も、あのままの姿で生きていくんだと想像しています。そして、その姿をもってどんな新たなキャリアを切り拓くのか、楽しみです。大伍くん、お疲れさまでした!

  • 昌子 源Gen Shoji
  • Gen Shoji

    1992年12月11日生まれ。
    兵庫県出身。
    11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
    18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
    14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。

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