タイに行ってきた。タイリーグ3部(T3)に所属するカスタムズ・ユナイテッドFCのアドバイザーなるものをやっている。カスタムズ・ユナイテッドは日本企業の資本参入によりタイで初めて外国資本で運営されるクラブになった。オーナーはもちろん、運営や代理人にも日本人がいる。ちょうど先週がホーム最終戦だった。引退して世界一周旅行のユーチューバ-をやっている大伍くん(元日本代表DF西大伍)が「この時期にタイへ行くかも」と話していたので、2泊3日の強行スケジュールで向かい、現地で落ち合った。
歴史のあるクラブではあるんだけど、日本国内だと6部ぐらいに相当する東北2部リーグのアイリスFCと規模感は同じぐらい。元日本代表の田中達也くんが監督を務めている。コーチ未経験でも1年目から指揮を執っていることとか、なんとなく梁さん(元ベガルタ仙台MF梁勇基)が監督のアイリスFCと似ていて、親近感を持っている。そして、試合の準備段階からも勉強になったというか、驚いたことがある。日本人スタッフが中心となって日本のJ3に当たる公式戦をわずか4~5人で運営していた。これはすごい。責任者のマッチコミュッショナーにはじまり、試合前から慌ただしくスポンサーの相手をしたり、時間の確認をしたり。ラインを引いてグラウンドも整備していた。これくらいの人数で試合を成立させるためには、1人2~3役をみんなが協力してやらないといけない。大変だ。スタジアムMC係も忙しい。入場時の選手紹介が終われば別の仕事に就く。ゴールが入るとマイクを握る。選手交代時もダッシュでマイクに向かう。みんな常に動き回っていて、さらにテレビ放送用の映像もこしらえていた。ただ、仕事としてやっていない感じなんだよね、一番近くのサポーターみたいな感じでいきいきとしていた。大変そうだったけどね。
数人でこの規模感の試合を運営できるんだと感心した。アイリスFCだってそう人がいるわけじゃない。この先JFLに上がる時が来たとして、そこら辺を分かっておかないといけない。非常に勉強になった。カスタムズ・ユナイテッドのホームスタジアムは2000人ほど収容できる。ガラス張りになった簡素なVIPルームも一応ある。大きなビジョンはないので演出は力が入っていない。まあ、運営人数的に気合の入った演出は難しいかな。選手入場後に国歌斉唱があるのには驚いた。日本だと代表戦ぐらいだよね。そして、チームは中位で昇格も降格も関係なかった。ただ、対戦相手が負けると降格してチーム消滅という崖っぷちな状態で乗り込んできていた。そういうのを含めて見ると、非常に興味深い一戦だった。そして、カスタムズ・ユナイテッドが勝った。こちらの強化部長は相手チームのガーナ人FWに対してその場で入団交渉を始めていた。それぐらい周りの目を気にせずずうずうしくやらないといけない世界らしい。いろいろと新鮮だったな。
プロクラブの運営は大変だ。鹿島アントラーズだって去年久しぶりに優勝という結果は出たけれど、なかなか勝てなくて低迷していた時は批判もあった。うまくいかない時期にクラブへの風当たりが冷たいこともある。それでも、いろいろな人の気持ちをくみ取って戦い続け、優勝させたのはやっぱりすごいなと思った。そもそも、クラブとして戦い続けること自体がすごいことだろう。それはいずれのクラブに対しても抱いておくべきリスペクトだ。タイのクラブもしかり。規模感や歴史は全く違っていても、サッカー人として知っておかないといけないし、持つべき感覚だ。
今回はもうひとつ目的があって、ある孤児院を訪問した。1年後、なかのFCのジュニアユース1期生が中学校を卒業するのを前に、タイへ連れてこようと考えている。高校から先は、進路を決めるに当たってサッカーを辞める判断を迫られる子もいるだろう。だから、サッカーとの向き合い方に関して、少しでも幅広くなるために、海外にふれてほしい。その訪問先の一つがこの孤児院だ。日本の児童養護施設に詳しい訳ではないのに話すのもはばかられるかもしれないけど、この孤児院には、両親のアルコールや薬物の依存症だったり、貧困や育児放棄に遭ったりした子どもたちが約500人集まっている。そして、学校に住み込んで学んでいる。それだけだと大変な状況だと思うだろう。それでも、ここだったら食事があって友達もいる。ただただみんなと一緒にいるのが楽しいと言う。サッカーができるだけで楽しいと言う。その子たちが行き場を失うかもしれないとなれば、いろいろ考えるかもしれない。だからといってできることもそうそうない。うまく言えなくて素直に、日本からサッカー少年を連れてきて交流させるというのは、こちらのエゴで迷惑ではないかを確認した。そうしたら「来てくれることがうれしい」と。「折り紙に挑戦したり、日本の文化に触れたりすることができるだけで楽しい。それだけでも十分。こういう存在があることも発信してかまわない」と言われた。寄付行為が偽善であろうとなかろうと、された方にとってメリットがあればいい。押しつけにならないよう気を付けないといけないけれど、そういう価値観の違いも知ってほしいとは思う。オレは去年もいろいろな刺激を受けた。現地に行かないと分からないことはたくさんある。今後の人生において、考える事に対しての何か一つフックになればいいな。
スラム街でもある孤児院周辺で、サッカーを教えている人がいる。ボール一つあればサッカーはできる。世界中でサッカーが愛される理由の一つに触れたような気がするよ。裸足でも、何か丸い物があればできる。タイはサッカーが一番人気だ。海外に行くと言ったら息子にちょうど開催中だったWBCのグッズをせがまれた。でも、タイのスポーツショップはサッカーとバスケのグッズだらけで買えなかった。
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遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。






