サッカースクール『ドリブル虎の穴』からスタートし、現在は、虎ジュニアU-12の監督を務める小山元敬。
細かなステップとタッチで独特のリズムを刻む『ドリブル』にこだわる理由とジュニア年代の育成に描くものとは?
■細かなステップとタッチのドリブルがウリ。
一西宮サッカースクールジュニアユースの谷元希監督からご紹介いただきました。同チームの1年生のコーチもされているそうですね。
小山 もともと同じフットサルチームに所属していた谷くんから「西宮SSにジュニアユースを立ち上げることになったので手伝ってくれませんか」と声を掛けてもらったのが最初の出会いでした。そこから一緒に同チームを立ち上げたのですが、しばらく経って僕は横浜のパルピターレサッカースクールでコーチをすることになったんです。結果的に、そこでは8年ほど指導しましたが、その間も谷くんが何度か「西宮SSに戻って来ませんか」と誘ってくれていたことから、12年に西宮SSに戻り1年生を預かることになりました。ちょうど、僕自身も地元に戻って自分のチームを立ち上げたいと思い始めていたのもあります。ただ、関西での指導歴は浅く、人脈もあまりなかったことから、まずは西宮SSを手伝いつつ、ドリブルに特化した『ドリブル虎の穴』というスクールを12年に立ち上げ、その4年後に虎ジュニアU-12を発足しました。
ーずっとジュニアユース年代を指導されてきたのに、ジュニア年代のチームを立ち上げたのはなぜですか?
小山 ジュニアユース年代に至る前の段階で「こういうことが身についていたらな」とか「こんな引き出しを備えていたら、もっとジュニアユース年代でよくなったのにな」という選手をたくさん見てきたからです。それもあって、虎ジュニアU-12ではジュニアユース年代から逆算して、小学生の間に備えるべきスキルを意識した練習を行っています。
ー虎ジュニアU-12でもドリブルは大事にされている部分だと思いますが、『ドリブル』にこだわる理由を聞かせてください。
小山 自分自身も子供の頃からパスサッカーで育ったため、そもそも『ボールを大事にする』という考えは備わっていたんです。ただ、横浜での8年間でいろんなクラブチームをまわって勉強させてもらった結果、ボールを失わずにたくさん動かせるようになるには、ドリブルが必要だという考えに行き着きました。
ードリブル練習では、左右両足を使った、かなり細かなステップ、タッチのドリブルが目を惹きました。
小山 そうなんです。うちのチームでは、両足でこねるようなドリブルではなく、利き足を軸に足を動かしながら細かなステップとタッチでドリブルをするように教えています。そうするとプレー中に足が止まらないから。ミスをする時って、殆どが足がズボッと埋まってしまって、体が動かない状態にあるんですよね。でも、常にステップを踏みながら力まずにドリブルが出来るようになれば、体が固まってしまうようなことはまずない。ちなみに、今日の練習だと殆どが5年生で、長く所属してくれている選手だと幼稚園の年長組から一緒にやっているので、どの選手もある程度、動けていましたが、体験入部とかで来る子たちはまずそういったドリブルはできません。
ーその前のアップでも割と長い時間を割いて、体のいろんな箇所を使ったリフティングをしていました。狙いを聞かせてください。
小山 時間にして20〜25分くらいはリフティングをしていたと思いますが、あれは毎回の練習で行うルーティンの1つです。最低限、これをやろうというメニューが決まっていて、それを終えた選手から次の練習に移るようにしています。ちなみに、今日であれば、インステップ100回、インステップ・頭・インステップ・頭と繰り返すのを100回、インステップ・胸を100回、あとは『8種』と呼んでいる、インステップ、インサイド、アウトサイド、つま先、かかと、太もも、肩、頭の8ヶ所で20回ずつリフティングをする、と。とにかくボールを触らせて、体のいろんなところに感覚を染み込ませるイメージです。そのあと、通常ならテニスボールを使った遠投をしますが、今日は雨で室内トレーニングだったので、それを省いて長い距離のボールを蹴ってからゲームに入りました。
ーゲームでは、プレーの選択肢を徐々に増やしていけるような働きかけが多かったように感じました。ゲームをする上で大事にしていることは?
小山 ゲームでは技術を磨くことより、流れに応じた状況判断をできるようになることを求めているので、しっかりと顔をあげて、点を取るために敵の位置や味方の位置を『見る』ことを大事にしています。そのためには当然、足元のボールを見るのではなく、顔を上げてプレーしなければいけないわけで、だからこそ、ドリブルやリフティング練習の時に徹底して、体にボールの感覚を染み込ませているところもあります。そうしておけば、技術の部分は自然とゲームの中で発揮できる状態にあるはずなので。また「見る」ことに紐づく『プレーの判断』もすごく大切に考えていることの1つです。
ー先ほどおっしゃった『遠投』をする狙いは?
小山 明確な根拠があるわけでないのですが、遠投をし始めてから長い距離のボールを蹴れる選手が一気に増えたんです。キックって本来、体全体を使うものですが、子供ってどうしても下半身だけで蹴ろうとするし、そうなると全然、飛ばないんです。それもあって、体全体を使えるようにさせたいよね、ということから始まって、テニスボールを投げさせてみるか、と試しにやってみたんです。投げることによって、空間察知能力も備わるかもな、と。また、飛んできたボールをキャッチすることは、ヘディングの際に空間や距離を測ることにも繋がるかも知れないな、という思いもありました。そしたら、本当に上半身が動くようになって、長い距離のボールも蹴れるようになったんです。また、これまでヘディングの時に被ってしまっていた選手も…キックほど明らかな変化が見られたわけではないですが、しっかりと合わせられる選手が増えた気がしています。
■フットボールを楽しむサッカー小僧がたくさん誕生したら嬉しい。
ー技術に特化したチームですが、そこに勝つことはどうリンクさせていこうと考えていますか。
小山 もちろん、勝ちたいとは思っています。ただ勝つことが楽しい、という風にはなって欲しくないというか。極論ですが、サッカーって本来、勝っても勝たなくても楽しいものだと思うんです。だからこそ、こちらが「サッカーの何が楽しい?」って聞いた時に、選手から例えば「相手と駆け引きするところ」というような答えが返ってきたら理想だし、その楽しいと感じることでチャレンジした結果、勝てたら尚いいなと思っています。
ー今日のトレーニングは1時間半で終わりました。毎回の練習時間はそのくらいですか?
小山 そうです。いつも、きっちり1時間半で終わります。しかも、子供たちをサッカー漬けにしたくないという思いから練習は週2回しか行いません。週末も土日の両日で試合をすることはほぼないし、夏休みも…2度ほど遠征には行きますが、それ以外は殆ど練習をしません。小学生の時期って家族との時間も大事だし、学校や友達と過ごす時間も必要で、それによって育まれるメンタルは必ずあるはずだから。そうしていい精神状態で練習に来てもらって集中してボールを蹴ってもらいたいと思っています。それに、この時期って本当に休養が大事だと思うんです。実際、この年代の子たちはケガをして1ヶ月くらい休んで戻ってくると、目に見えて体が大きくなっています。僕自身はどちらかというと、水を飲むな、休むな、という指導で育ちましたし、僕も指導者になりたての頃は選手をすごく走らせていたし、練習も長くやっていたんですけどね(苦笑)。でも、横浜で指導していた時代にいろんなチームの練習を見させてもらい、いろんな監督さんの話を聞かせてもらったことで、今の練習強度が選手を成長させるには一番理想的だと思うようになりました。それに…週に2回しか練習がなくても、サッカーを楽しいと感じてさえいれば…子供たちって、練習が休みの時間を使ってみんなで集まって、公園でボールを蹴っているんですよね。しかも、そこで知らない子たちに声を掛けられて、チームを組んで試合をしたり、時には外国籍の方とミニゲームをして「国際試合をやってきた!」って楽しそうに話している。実のところ僕はそういう時間が一番、サッカーが上手くなるんじゃないかと思っています。
ー今後の虎ジュニアU-12の野望を聞かせてください。
小山 そんな大層なものはないですが(笑)、フットボールを楽しむサッカー小僧が、ここからたくさん誕生したら嬉しいです。あと実は今、来年からU-15チームを発足する準備をしているんです。そうなればU-12で見ていた選手を…全員とは言わないまでも、継続して見れる選手も出てくるはずで、幼稚園から長く所属している選手では10年間にわたって選手の成長を楽しめることになる。それはすごく楽しみです。
ーインタビューの冒頭でジュニアユース世代の指導を通してジュニアチームを作ったというお話がありました。ここでまたジュニアユースチームを作るのはなぜですか?
小山 一番は先程も言ったように、うちで育った子供たちの成長を継続して見てみたいこと。また幼少の頃に僕が指導し、ある意味、僕の血が最も濃く注がれた子どもたちが来年、大学生になるので、僕の理想としては彼らが戻ってきてくれて子供たちを指導するという循環が生まれればいいなとも思っています。OBの子たちがここで子供の頃に学んだサッカー感をそのまま伝えてくれたら、それはイコール、僕が選手に伝えたいことでもあるはずだから。そうやって虎ジュニアのファミリーがどんどん膨らんでいけばいいなと思っています。
ーHPを拝見したところ体験会の募集要項には「そこには圧倒的に上手くなる理由がある」と書かれていました。
小山 ちょっと強気のコピーをつけました(笑)。でも今日の練習を見てもらったら分かる通り、低学年から教えている子たちが、高学年になればあれくらいの技術は備えられるようになるので…とにかく一度、来てもらえたら感じてもらえるのかな、とは思っています。体験会は9月から月1回の頻度で行う予定なので、ぜひたくさんの方に参加してもらいたいです。(https://www.doritora.jp/torajr-u15/)
ー最後に小山さんが面白いと感じている指導者の方を紹介してください。
小山 女子のユース年代、日ノ本学園サッカー部の田邊友恵監督にバトンを渡します。田邊監督とは、あるトレーナーの方の講習会で知り合い、「うちにも教えに来てください」と言ってもらって以来、週に1度だけ僕も日ノ本で教えているんです。日ノ本のような強豪校にはバリバリ教えてくれるコーチの方がたくさんいらっしゃるので、僕は少し足元の技術を教えつつ…いや、それよりも勝つことが当たり前のチームだからこそ、敢えてサッカーの原点である「サッカーって楽しいよ」ってことを伝えられるように、選手の気持ちをほぐしに行っています。とても格好いい女性監督で、面白い話が聞けると思いますよ!
<PROFILE>
小山元敬(こやま・もとひろ)
1976年生まれ、大阪府出身。
高校卒業後は7年ほど一般職に就いたものの、空いた時間を活用して自身が小学生の時に在籍した、寺内新田スカイサッカークラブで指導者を始める。その後、履正社医療専門学校を経て、西宮サッカースクールジュニアユースの立ち上げに尽力。12年にドリブルに特化した『ドリブル虎の穴』というスクールを始め、16年に現在の虎ジュニアU-12を発足し、監督に就任した。
text by Misa Takamura