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Vol.8 京都F.C.長岡京 代表/永尾健次

  • 2019.09.04

    Vol.8 京都F.C.長岡京 代表/永尾健次

指導者リレーコラム

出身地である京都の地で京都FC長岡京を立ち上げたのは永尾健次代表が20歳のとき。以来、自身は様々な仕事を経験しながらチームの運営を行ってきた。その中でも育まれたサッカー感、この年代で落とし込むべきだと感じていることは何なのか。今年で23年目を迎える同クラブの育成理念を聞いた。

一日ノ本学園高校の田邊友恵監督からご紹介いただきました。

永尾 ありがとうございます。田邊さんとは、僕がロアッソ熊本アカデミーダイレクターをしていた時に、ジュニアユースチームに所属していた女子選手2人を練習参加させてもらったことで知り合いました。しかも、結果的に日ノ本に選手を預けることになったので、その後もたまに選手たちの成長具合を見る為に日ノ本の試合や練習に足を運んでいたら田邊監督に「せっかく来られるなら、ぜひ一緒にサッカーしましょう」とお話をいただいて、2015年から同校で指導をさせていただいています。田邊監督は僕に限らずいろんな指導者の方の意見を取り入れてトレーニングをされていますが、自分のテリトリーを人に預けるのって簡単じゃないと思うんです。でも、田邊監督は懐深く、いろんなアイデアを指導に取り込み、選手の成長につなげようとしていらっしゃる。その価値観にも魅力を感じています。

ーそんな風にご自身が指導に携わった選手のその後についても、追いかけて見ていらっしゃることは多いですか。

永尾 そうですね。自分の携わった選手が何歳でどのくらいのことが出来るようになっているのか、どんな考え方を持った選手になっているのかは、ある意味、僕ら育成年代の指導者にとっての『結果』でもあるので、そこから学ぶことはたくさんあります。世の中ではよく『戦績』と『結果』という言葉が混同して使われますが、僕は今、自分が見ているジュニアユース年代の選手たちの試合結果を『戦績』と呼びます。なぜならここがゴールではないから。そう言うと、よく勝つことと、育てることのどっちが大事かみたいな論争が起きますが、それは両方です。もちろん試合をする限りは、どうすれば勝てるのかを考えなければいけないし、負けたのならその原因を分析しなければいけない。勝つために何をすべきかを考えなければ選手の成長はないし、勝つことによってより高いレベルの対戦相手と戦えることも選手の成長にはとても大切だからです。ただ、指導者はその戦績に対して一喜一憂しすぎてはいけないと思います。その瞬間、瞬間では思いきり顔にも態度にも出して表現しますけどね(笑)。それよりも、大切なのは目の前の選手が新たなサッカーの楽しさに気づいたり、これまでの知識をより深く掘り下げたり、サッカーだけでなく人生のいろんな楽しみ方を見つけることに寄り添い、さりげなく機会を提供できる存在でいることだと思っています。ちなみに、指導者、指導者と言ってますけど正直、僕は指導者も実はそんなに指導者ぶる必要はなくて、サッカーを一緒にやってくれる『兄ちゃん』がいてもいいんじゃないか、と思っていて…。

ーと言いますと?

永尾 昔は今の時代のように指導論、コーチ論がそこまで確立されていなかった分、一緒にボールを蹴ってくれる『サッカー兄ちゃん』がたくさんいました。でも時代の流れとともに、指導者はいい意味で整理され、同時に一緒にプレーをする指導法も減少した気がします。コーチング、メニュー、オーガナイズに立ち位置…これらも指導者として大事なことですが、選手の目の前で「こうやってプレーするんだ」と見せることも、低年齢であるほど大事だと思います。それは単に巧いプレーをみせるということではなく、失敗を恐れない姿勢や、闘志を持ってプレーすること、味方にポジティブに声をかけ続けることなども含めてです。特に中学生年代までは尚更、一緒になって選手とボールを蹴って「コーチみたいなプレーができたら楽しいな」「そんな風に体を使えばいいのか」ということを体感させてあげたい。今の時代はネットを見ればいろんな情報が得られて、YouTubeを見れば物の使い方まで全て教えてくれますが、実際に触って、匂いを感じなければ本物を知ることはできません。それと同じで、サッカーも直接体感しなければ感じられないことはたくさんある。海外遠征をするクラブが増えたり、国内での国際大会が増加しているのも直接経験の必要性を感じればこそ、だと思います。でも、今はネット社会がゆえに、直接経験したことがないのに経験した感覚になってしまうことが多いですよね。だから勝手に目標までの距離がすごく近いと勘違いしてしまう。例えば、ボールを蹴ること1つをとっても、いろんな選手の映像を見ているせいか、キックやパスなどの技術が身についた気になって「巧い選手のプレーも研究しているのにうまくならない」と結論を出してしまう。でも、だからこそ近くにいる大人が、そんなに簡単に技術も戦術も手に入らないんだよと追求することを教えてあげなければいけない。それを感じられて初めて、選手はそこに行き着くまでの道のりの長さや、努力の大きさを知るはずですしね。そう思えばこそ、うちのチームではできるだけ一緒になってボールを蹴ったり気軽に相談できる『サッカー兄ちゃん』を配置しています。

「一緒になってボールを蹴り、気軽に相談できる『サッカー兄ちゃん』でいたい」と話す永尾監督。

ー今日はいろんなチームと20分の練習試合をされていました。夏の暑さ対策もあってのことでしょうか。

永尾 年代と目的に合わせて時間を決めていて、その目的の1つとして、限られた時間で自分が持っているエネルギーを全て出すことへのチャレンジがあります。というのも、僕は決められた時間で100%の力を出し切れるのも能力の1つだと捉えていて、ピッチ上でもピッチ外でも非常に大切なことのひとつだと思っています。20分と言われれば、20分で決着をつける覚悟で挑む、20分で最大値を出す。日本という国は世界の中で見ても本当に平和で安全な国だし、サッカー選手になれなくても、将来、ほとんどの子どもが人並みの生活を送ることができます。そういう中での『サッカー』でしかないからこそ、目の前の試合に、1つのチャンスに、力を出し切る習慣をつけることが大事だと考えます。また、どの年代も終盤の20分間は特にゲームが展開します。実際、負けているチームが点を取りにいこうとすればゲームはより縦に速く動くわけで、そういった中でも状況を把握し、何をすべきかを選択し、実践できる選手が本当の良い選手…ということを想定した20分でもあります。

この日は20分ゲームを実施。限られた時間の中で「力を出し切る」ことを求めた。

ーこの年代に一番落とし込みたいことはなんですか?

永尾 まず、サッカーという競技やその仕組みです。具体的には「隙を突いて隙を突かれてはいけない」「相手がいて、相手にも戦術や戦略がある」「人とボールで相手が動く」「攻めるゴールと守るゴールがある」「時間に限りがある競技」など。それを理解した上で、その時々の条件に応じて考え、プレーを選ぶ習慣を身につけることが大事だと思っています。練習もそういった要素を取り入れているだけで、難しいことをしているわけではありません。そして、もう一つは、サッカーの楽しみ方を増やしてあげること。「攻撃は好きだけど守備は嫌い」という選手がいたとしても、それは守備の楽しさを知らないだけであることが殆どで、その楽しみ方が分かれば選手は自然と積極的になります。事実、サッカーの楽しみ方ってたくさんあると思うんです。サッカーは1-0で勝っているチームが時間を使う競技だし、場合によっては1−0で勝っていても2点目を取りに行く競技だし、負けていても時間帯によっては前線からボールを追いかけすぎずに機を伺う競技です。もっと言えば『こんなのはどうだ?!』と相手に見せてその反応や行動変化を楽しむ競技でもあります。そのことを試合で気づかせてあげたいし、そうした楽しさをより多く知り、繰り返しチャレンジした選手がプロに近づけるんだと思います。ちなみに、その楽しさを知るための手段は、座学でも良いしサッカー以外の方法でもいいと思っています。実際、僕ら指導者の話が全て正解とは限らないわけで、もしかしたら違うスタッフに話をしてもらったり、異業種の方を連れてきて話をしてもらう方が、子供たちのスイッチが入るかもしれない。そう思えばこそ、先日は『ユメトーク』と題して、「不動産×スポーツ」で日本の未来を健康にしようとしているOBに生い立ちから今の仕事に至るまでのいろんな話を面白おかしく話してもらいました。最初にもお伝えしたように、僕らの仕事って、選手が将来自分の目標に向かってスタートラインに立つ準備に『寄り添う(機会提供)』ことで、プレーを上達させるというより、選手にいろんな『気づき』を与えることだと思うからです。だからこそ、農業の人やITの企業の人など、いろんな業種の、いろんな人に出会わせたい。それによって、選手の『気づき』の分母を増やし、彼らが何を感じるのか、に寄り添いながら、携わる全ての選手の可能性を引き出したいと思っています。

ー今後もこの年代の指導を続けていきたいと考えていますか?

永尾 もちろん、この年代を含め、多くの子どもたちの育成と教育に関わっていきたいし、携わる子どもたちの未来を大人のエゴで歪めないよう、自分の未来を自分で導き出してもらえるようにヒト・モノ・コトの機会を提供し続けていきたいと思っています。そのためには若いコーチも必要ですし、サッカーという切り口だけにとらわれないで、多種多様な人材に出入りしてもらいたいとも思っています。子どもたちの未来は、親御さんが決めるわけでも、僕らが決めるわけでもなく、子どもたち自身が自分で決めて、自分の足で歩んでいかなければいけません。そこに寄り添う大人として、今後も『最高の脇役』になっていけたら、と思っています。

いろんな『気づき』を与え、『気づき』の分母を増やすことで選手の可能性を引き出している。

ー永尾さんがお勧めする次の指導者を紹介してください。

永尾 今年のインターハイで3位になられた京都橘高校の米沢一成監督をご紹介します。米沢監督が京都橘を強化していくとなった時に、うちのチームにも声をかけていただいて、選手が何人かお世話になるようになったのがきっかけで、今も親しくさせていただいています。言わずと知れた名将ですから、僕が紹介するまでもないので是非ご本人から面白い話を聞いていただければと思います。

<PROFILE>
永尾健次(ながお・けんじ)
1977年生まれ、京都府出身。

西乙訓高校卒業後、ブラジルにわたりE.C.バンデランチでプレー。帰国後、99年に京都F.C.長岡京を発足させ、指導者としてのキャリアをスタートする。その一方で、自身は07年に徳島ヴォルディスの通訳兼マネージャーを、08年から7年間、ロアッソ熊本のアカデミーダイレクターを務めた。18年からは再びFC長岡京に戻りチームの運営に力を注ぎつつ、ビーチサッカーチームアヴェルダージ熊本BS監督、スポーツ&テクノロジーアプリ『Sgrum』などの様々なスポーツビジネスに関わっている。

text by Misa Takamura

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