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Vol.1 ガンバ大阪マネージャー/橋本篤

  • 2019.05.20

    Vol.1 ガンバ大阪マネージャー/橋本篤

サッカーのお仕事

ー2000年にガンバ大阪のマネージャーになられた経緯を教えてください。

橋本 僕は高校までサッカー部に所属していたこともあり、サッカーが大好きで、大学卒業にあたってどうしてもJクラブの仕事に就きたかったんです。でも正直、当時はそんな募集もなく、どうすればJクラブで働けるのかも分からなかった。
そこで、とりあえず大学卒業後、アルバイトでお金を貯めて上京したんです。関東ならチーム数も多いし、どこかで誰かと繋がれるんじゃないか、と思ったから。でも、そんなにうまくいくはずもなく…。
仕方なく、関東でもアルバイトをしながらJクラブの仕事がないかを探っていたら、知り合いのライターさんの伝手で、サッカーダイジェストの編集部でアルバイトができることになった。そしたら、偶然にも雑誌として売り出される前の、いわゆるゲラ刷りの記事に目を通していた時に、ガンバ大阪がマネージャーを募集しているのを知り「マジか?!」と。しかも、僕の地元・門真市からも近いガンバですからね。これは何かの縁だと思い、すぐさま応募して面接を受けたら、合格しました。
あとから聞いたところでは、それなりに倍率も高かったそうですが、なぜか未経験の僕を採用してくれて、つくづく運とタイミングに恵まれたと思います。

ーもともと『マネージャー』の仕事に興味があったのですか?

橋本 大学時代から将来はサッカー界で働きたいと思っていたものの「サッカーチームに入って、現場に関わる仕事がしたい」というくらいで、具体的に「これをしたい!」というものはなかったんです。ただ、そこからどんな仕事があるのかを勉強していくうちに、会社に入って運営に携わるよりは、チームで働きたいと考えるようになり、ホペイロや用具係をやりたいと思うようになった。なので、上京した時からその職種で仕事を探すつもりでした。そういう意味ではマネージャーは願ってもない仕事で、ガンバに加入してからも自分のやりたい仕事ができるのが楽しくて、幸せでした。
ただ、当時の僕にあるのは情熱だけでしたからね。経験もなければ、仕事としても何をやらなければいけのかも分かっていない状態で、毎日が必死でした。最初の2年くらいは毎日、ノートを作り、仕事内容やその日の練習で課題に感じたこと、自分に足りなかったことを書いて、事あるごとに見返していました。また、毎年恒例のキャンプなどは、何を準備しなければいけないか、どんな気配りがいるかを書き留めて、翌年のキャンプで前年度以上にスムーズに仕事ができることを心掛けたり…。この仕事は極めようと思えば、いくらでも細部にこだわれるので、自分なりにいろんな工夫をしていました。

左は17年に新たに仲間入りをした李聖仁副務。

ー体力的にきつい仕事で、中にはマネージャーからクラブの運営に関わる仕事に就いたり、メーカーに転職される方もいます。橋本さんはマネージャー一筋、20年ですが転職を考えることはなかったですか?

橋本 マネージャーをやめるという考えなかったけど、若い頃は社員になりたいと思っていました。その方が安定を求められるし、保険なども会社に面倒見てもらえるから(笑)。
でも仕事をするうちに考え方も変化して、スタッフや選手の皆さんも『個人事業主』としてプロ契約をしているんだから、僕も同じ立場で仕事をしたいと思うようになった。同じ立場にいるからこそ現場に言えることもあると感じたのもその理由です。
もっとも、体を使う仕事なので、歳をとるほど体力的に厳しくなるのは事実です。それもあって、クラブに気を遣っていただいて「社員として運営側の仕事をしないか」という話をいただいたこともあります。ですが、その時も「体が頑張れるうちは1マネージャーでいさせてください」とお断りしました。
もっとも最近は、この世界での『マネージャー』という仕事への認知も深まってきて、やりたい人も増えてきたと思えば、後輩に道を譲ることを考えたりもします。でも、クラブが許してくれるなら、僕自身はまだまだマネージャーの仕事を極めたい。というのも、この仕事は今や僕の生活の一部ですからね。20年も経てばやるべき仕事も自然と体に染み付いているし、クラブハウスにいる時間ももはや自分の『家』にいるような感覚なので(笑)。実際、試合が立て込んだ時は片付けと準備に追われて、必然的にクラブハウスにいる時間も長くなりますが全く苦にならない。そう考えると天職かも知れません。

試合や練習に必要な用具がぎっしり詰まった
備品室で1枚ずつユニフォームを畳む。

ーマネージャーをする上で一番必要な資質はなんだと思いますか?

橋本 やり方は、人それぞれでいいと思うんです。決められた時までにキチンと出来ていれば、自分がやりやすい方法を選べばいいし、実際、一緒に仕事をしている後輩マネージャーのやり方も僕とは微妙に違います。なので、あくまで僕自身の考えでお話しすると、一番大事にしているのは、何をするにしてもチームの足を引っ張らないよう、より現場の助けとなるようにスムーズに動くこと。
それだけに目配りや気配りといった、ちょっとしたことを「察する力」は必要かなとは思います。
例えば、宮本恒靖監督は普段のトレーニングからテンポやリズムを大事にされていて、練習前にはその日のトレーニング内容をスタッフ陣が共有メールで確認できるようになっているんです。それによってだいたいのトレーニングの流れがイメージできるので、僕たちもあらかじめ、どのタイミングでトレーニング用具を片付けて、用意するのか。給水場所をどこにするのかなどを決められるし、そうなれば、練習から練習への移動や準備がスムーズになって、より無駄な動きなくトレーニングを行うことができる。そう考えても「察する力」はすごく大事だし、ユニフォームをはじめとする物の管理や整理も重要な仕事だと考えれば、いい加減では務まらないので、几帳面さも必要なのかな、と。そういう意味では根本的な性格として向き不向きはある仕事かもしれません。

きれいに畳んだ後は1枚ずつに
「勝ちますように」と念を込めるそうだ。

ー他のクラブのマネージャーさんも含めて、橋本さんのようにこの仕事を長く続けていらっしゃる方は多いですか?

橋本 1クラブで15年以上という人は少ないかも。どちらかというとフロントに入ったり、他のクラブに移籍したり、転職してメーカーに入って選手をサポートもする方もいますしね。マネージャーをしていることでいろんな出会いも多いので、その繋がりを活かして、転職される方も結構いますよ。

ー新卒でマネージャーになれる可能性はあるのでしょうか。

橋本 正直、クラブ数が決まっているのでなかなか空きは出ないし、仮にどこかのクラブがマネージャーを募集することになっても、最近は横のつながりで決まってしまうことが多いので、新卒採用の可能性は高くはないかもしれません。

選手別に試合に必要なものを1つの袋に揃える。
特に選手に尋ねなくても大体のことは
頭に入っているそうだ。

ーどんな時にやりがいを感じますか?

橋本 今言った、限られない人数しかできない仕事であることも1つです。J1リーグは今、18チームで、1チーム2人で計算しても、36人しか就けない仕事ですから。そのことへの誇りは感じているし、それはやりがいにも繋がっています。あとは純粋に勝利という結果が出たときや、タイトルを獲れればなお嬉しい。僕たちはピッチでは戦えないけど、心はいつも彼らと一緒に戦っているし、見方を変えれば僕らの仕事も、結果を出すための仕事ですから。『結果』は自分たちの評価だとも受け止めています。また、それ以外にも日々、小さなやりがいはあります。遠征がスムーズに、アクシデントなく行われたときも僕なりの達成感はあるし、1つの練習に対しても「今日はいい練習ができたな」って思えることが仕事の活力にもなります。

ー最後に、マネージャーとしての今後の目標を教えてください。

橋本 クラブが許してくれるなら、この先もマネージャーを続けて、いずれは『ガンバのマネージャー=橋本』と言ってもらえるような、名物マネージャーになりたい。

僕がこの業界に入った頃にジュビロ磐田のマネージャーをされていた尾畑正人さんという方がいらっしゃって。前身のヤマハ発動機の時代から、ジュビロ磐田でも10年以上マネージャーをされて、今はアカデミーの統括部長をされていますが、尾畑さんの選手、スタッフとの信頼関係、キャリア、マネージャーとしての仕事ぶりは今でも僕の理想の姿として胸に刻んでいます。
また、どうせならマネージャーの『日本一』も目指したい。といっても、何をもって日本一なのかは証明しにくい仕事で、以前は、選手が日本代表を目指すように、日本代表のマネージャーになることがそれに通ずるものかなと思っていましたが、途中から考えが変わって。「クラブが日本一になれば、そこで働いている僕らスタッフも日本一の称号を得られる」と思うようになった。そこからは僕自身も、『タイトル』を意識して仕事をするようになったし、05年に初めてJ1リーグで優勝した時は「ガンバが日本一になった!僕も日本一のマネージャーだ!」とすごく嬉しかった記憶があります。以来「最低でも10個、ユニフォームに星の数を増やしたい」というのが目標になりましたが、気がつけば今は9個で、リーチなんです(笑)。でも、途中から『日本で一番たくさんの星をユニフォームに刻むこと』に目標を変えたので、今はそれを実現するために、ガンバのために自分にできることを精一杯、頑張っていきたいと思っています。

text by Misa Takamura

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