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Vol.4 情報と判断

  • 2020.05.28

    Vol.4 情報と判断

BRAIN〜ズミの思考〜

2回目のコラムで『サッカーは判断のスポーツで、良い判断がサッカーには必要だ』と書いた。今回は、その判断をするための『情報』について書いてみようと思う。

人は、どう動くか、何をするべきかを判断をするために『情報』を得る。例えば、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって日常生活に大きな影響が出ている今なら、ほとんどの人がテレビやインターネット、本などを「見て」得る情報や、ラジオや人づてに「聞いて」得る情報によって判断し、行動に移されていることだろう。
サッカーにおいてもそれは同じで、プレー中は「見て」情報を得ることがほとんどだ。
ボールを受ける前に、自分がフリーなのかマークされているのか。味方の選手はどこにいるのか。相手選手はどこにいてどんな体勢なのか。情報を得ることが良い判断に繋がり、ミスを減らすこともできる。事実、FCバルセロナで長くプレーした元スペイン代表のシャビ(シャビエル・エルナンデス/現アルサッド監督)は現役時代、1試合に約550回も首を振って周りの情報を得ていたそうだ。

これから紹介する2選手のエピソードも、僕が名古屋グランパス時代、そのことを実感したハイレベルなプレーだ。

ある試合で右サイドMFを預かった僕は、左センターバックのトゥーさん(田中マルクス闘莉王)がDFラインでボールをもらった瞬間、右サイドバックの隼磨さん(田中隼磨/松本山雅F)が走り込むスペースを空けるため、サイドから中に入り込んだ。僕の動きにつられて相手の左サイドバックが中にポジションをとることで左サイドにスペースが生まれ、そこにトゥーさんから隼磨さんへのロングボールが通るとイメージしたからだ。実際、僕が中に入り込む動きをみせた瞬間、相手の左サイドバックは僕についてきた。
ところが、トゥーさんの蹴ったボールは僕に向かって飛んできた。しかも、僕についてきていると思っていた相手左SBが元のポジションに戻っていたため、僕はフリーでボールをトラップし、前を向くことができた。試合後、その判断についてトゥーさんに尋ねると、ボールを蹴る瞬間、相手左SBが僕へのマークを捨ててサイドに戻ったため、瞬間的にコースを変えて僕の足元にボールをあわせたのだと言う。僕と相手の動きを「見て」判断したプレーだった。

もう1つは、今も現役で活躍するタマさん(玉田圭司/V・ファーレン長崎)が絡んだゴールシーンだ。
相手ペナルティアークに走り込んだタマさんに、左サイドから斜めにパスが通る。それを利き足である左足でトラップしたタマさんは、相手GKとの1:1の状況でシュート体勢に入った。ところが、その瞬間、シュートを打たせまいとシュートコースに足を伸ばしてきた相手左センターバックを感じたタマさんは、足首をクイッと切り返し、右斜め前へパス。相手GKと左センターバックが裏をかかれた格好となり、数メートル後ろから走りこんだ淳吾さん(藤本)がフリーでニアサイドにボールを流し込んだ。
実はこのシーン、タマさんはボールを受けたあとシュートモーションからパスに切り替えるまで、一度も周りを見ていない。だが、ボールを受ける2~3秒前に後方に淳吾がいることを把握していたため、相手左センターバックの動きを見て判断を変えたそうだ。試合の中で「見て」得た情報に加え、日頃のトレーニングで培った味方選手の特徴とその中で築いた信頼関係を「情報」として備えていたタマさんが、それを試合の重要な局面で活かしたことで生まれたゴールだった。

彼らも然り、トップクラスの選手になるためには、「見る」ことでたくさんの情報を得るだけではなく、それを元にギリギリで判断を変えられる能力が必要だと僕は考える。と同時に、それらは才能によって生み出されるものばかりではなく、練習によって備えられる能力でもあると思う。そうした経験に基づく様々なことを指導者として、あるいは『サッカー』の楽しさを伝えていく立場の人間として言葉に変えていくことも、僕の役目だと思っている。

  • 小川 佳純Yoshizumi Ogawa
  • Yoshizumi Ogawa

    1984年8月25日生まれ。
    東京都出身。
    07年に明治大学より名古屋グランパスに加入。
    08年に新監督に就任したドラガン・ストイコビッチにより中盤の右サイドのレギュラーに抜擢され、11得点11アシストを記録。Jリーグベストイレブンと新人王を獲得した。09年には、かつてストイコビッチも背負った背番号『10』を背負い、2010年のリーグ優勝に貢献。17年にはサガン鳥栖に、同年夏にアルビレックス新潟に移籍し、J1通算300試合出場を達成した。
    20年1月に現役引退とFC TIAMO枚方の監督就任を発表し、指導者としてのキャリアをスタートさせた。

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