COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > 日本営業大学学⻑ 中田仁之 × REIBOLA編集⻑ 石神直哉 前編

日本営業大学学⻑ 中田仁之 × REIBOLA編集⻑ 石神直哉 前編

  • 2020.06.19

    日本営業大学学⻑ 中田仁之 × REIBOLA編集⻑ 石神直哉 前編

The INTERVIEW

REIBOLA編集長の石神直哉が様々な人に話を聞くコーナー「The INTERVIEW」
今回は、アスリートのキャリア支援事業をされている日本営業大学の中田仁之さんにお話をお伺いしました。ほとんどのサッカー選手が不安を抱えるセカンドキャリア。プレーヤーを引退した後はどういう仕事を選べば良いのか、そもそも仕事とはどんなものがあるのかなど、今後のキャリアについて様々な不安や悩みを抱えている選手に向けて中田さんと熱く語らせていただきました。

石神 中田さん、本日はよろしくお願い致します!早速ですが、簡単に自己紹介をお願い致します!

中田 こちらこそよろしくお願い致します。簡単に僕の自己紹介をさせてもらいます。僕は小学生〜大学まで野球一筋の人生でした。大学卒業後は社会人野球の道へ進もうと思っていたのですが、声が掛かった企業が北海道ということもあり、遠方に行ってまで野球を続ける意思はなかったので、キッパリ野球を辞めて企業に就職しました。営業・マネージャーとして20年間在籍し、2012年に株式会社S.K.Y.を設立して独立。現在はアスリートを対象に営業力を強化する教育機関、一般社団法人S.E.A 日本営業大学を設立し、アスリートのキャリア支援事業に力を注いでいます。

石神 ありがとうございます。現在力を注いでいる日本営業大学とは一言で表すとどういう組織なのでしょうか?

中田 一言で言うとアスリートを支援するためのコミュニティです。以前は「元アスリートを支援する」という表現を使っていたのですが、アスリートは引退した後もマインド的にはアスリートだと僕は考えているんですね。「元プロ野球選手」「元プロサッカー選手」という表現は良いと思うんですが、「アスリートは競技を辞めてもアスリート」という考え方に変わりまして、今は「アスリートを支援する」という表現で活動しています。

石神 では、僕もアスリートという事ですね!ちなみにどのようなきっかけで日本営業大学を立ち上げようと思ったのですか?何かエピソードがあればお聞きしたいです。

中田 約4年半前の出来事になるんですが、ある一人の若者との出会いによってアスリートのキャリア支援事業に命をかけようと思いました。
その若者は高校時代に甲子園出場を果たし、大学へはスポーツ推薦で入学。甲子園出場校出身ということで、鳴り物入りで大学に入ったのですが同学年・同ポジションに地方の無名校から入学してすごく上手な選手がいたんです。その選手に絶対負けないという意思で死に物狂いに練習をしていたんですが、肩・肘を壊してしまい結局退部せざるを得なくなってしまったんですね。
スポーツ推薦で入ったため他にやりたいこともなく大学も中退して、アルバイトを転々としている時に僕と出会って彼は言いました。「20歳が人生のピークでした」と。
僕は「そんなことはない。野球は確かに20歳がピークだったかもしれないけど、人生はまだまだ長い。色々教えてあげるからうちへ来い」と声をかけたのがスタートで、社会の仕組み、ビジネスの基本、自己肯定感の重要性などたくさんのことを彼に教えました。
彼は野球ばかりやっていたので勉強は得意ではなかったんですが、教えたことをすぐに実践していくうちに社会のことにすごく興味を持っていき、とてつもない吸収力で成長して企業に就職し、今でも社会人としてバリバリ活躍しています。
そんな彼が「僕みたいな若い子が世の中にはたくさんいます。中田さん、僕以外のそういう子達を救ってあげてください。」と言ったんです。それがきっかけでアスリートのキャリア支援事業に力をかけていこうと思いました。

石神 凄くイメージできるエピソードです。確かに高校まではその地域や県のお山の大将のような感覚を持っていて、その感覚で大学に入学にする選手は多いと思います。ただ大学は日本各地から選手が集まるので、自分より上手い選手や凄い選手に出会って、そこで挫折をしたり、自分の実力の無さにショックを受けてしまうことがサッカーの世界でもあると思います。
中田さんが出会った選手のように怪我が原因でサッカーを辞めてしまう選手もいましたし、サッカー自体が面白くなくなってしまって部活を辞めてしまう選手も実際に見てきました。
そう考えるとサッカー界に限らず、スポーツ界全体で見ると、若くしてスポーツ界から退くことになって自信を失っている選手や引退後の人生について悩んでいる選手は多いのかもしれないですね。

中田 若いうちに自分の実力の限界を気づいてしまって、そこに怪我が重なって何事も嫌になってしまうアスリートは実際多いですよ。

石神 そうですよね。そういったアスリート達に向けて、スポーツ以外の道でもスポーツでやってきたことが活かせる道があるという事を知ってもらいたいという気持ちを中田さんは強く持っているという事ですね。また、日本営業大学の資料で「アスリートの非認知能力」について書かれていたんですが少し詳しく教えて頂きたいです。

中田 認知能力は一般的に「IQ」と呼ばれるものです。ペーパーテストで点数化できるものを主に指します。学校の教科が代表的で、英語を話せるとか計算問題が解けるとかそういった類ですね。
一方、非認知能力は「なかなか点数化しにくい能力」を指しています。例えば、諦めない力やリーダーシップ、やり続ける力、チームに貢献する力などで、アスリートはこの能力がとても高いと考えています。
一つ具体的な例をあげると、スポーツ選手が無意識に行っている「PDCAサイクル」です。アスリートは自分に足りない部分や成長させたい部分を自分又はコーチが考えてトレーニングメニューを決めます。それを実施してみて、良い部分はそのまま続けて、結果がそぐわない所は改善やアレンジをして再度実施してみる。そういったサイクルを日々自然に行っているんですね。練習に限らず試合中でも瞬時に行っています。これが社会でいう「PDCAサイクル」なんですね。本人は「PDCAサイクル」という言葉を知らない場合がほとんどなのですけど、普通の社会人よりも圧倒的なスピードで、比較できないくらいの回数でPDCAサイクルをずっと回しているのです。アスリートはこういったスキルが習慣化されている場合が多いので当たり前の感覚かもしれませんが、実は社会に出てからとても使える武器なのです。

石神 今言われてみて、確かにそうだなと感じました。非認知能力に自分で気づくっていう事はすごく難しいことかもしれませんね。

中田 そうですね。僕たちの大学で学ぶ事でスポーツを通じて身につけている「自分が気付いていない強みに自分で気付ける」というのはメリットだと思っています。できる限り自分で強みを見つける事で自己肯定感も上がって次のステップに繋がりやすくなるので、生徒の力をできるだけ引き出すように教える事は心掛けています。

石神 自分の強みを自分で知るという事がキーポイントですね。アスリート特有の強みがたくさんあるという事はわかってきたのですが、逆にアスリート特有の弱点や課題は何かありますか?

中田 大きく分けて2つあります。1つ目は好きな事以外は一切やらないという事。2つ目は見えている世界が狭い事です。
1つ目を簡単に説明すると、アスリートは大好きな事をとにかく突き詰めてきた人間です。なので、大好きな事を一生懸命やる能力は抜群にあるんですが、それ以外のどうでも良い事や興味がない事は一切やらないというアスリートが多いです。例えば学校の勉強や部屋の片付けなどですね。社会に出ると好きな事以外にもやらないといけない事は多々あるので、これは弱点の1つだと思っています。
2つ目については、競技に打ち込んで上を目指すアスリートが多いのですが、その競技以外の社会で起きている事を知らなかったり、そもそも新聞やニュースを見ないアスリートは多いのです。もちろん一つの競技で上を目指していくので狭い社会で戦っていく訳ですが、もう少し視野を広げてみることで打ち込んでいる競技に役立つことがあったり、引退後に役立つことに気付けたりするんですよね。

石神 おそらく現役の頃ってニュースや新聞を見るにしても興味のあるスポーツ欄しか見ないと思いますね。中田さんが言うように情報収集の視野を広げて経済のことやビジネスのことについて少しでも触れていれば現役の頃もその後生活でも変わってくる部分は大きいと思います。

中田 石神さんのおっしゃるとおりですね。ただ、とにかくニュースを眺めていれば良いという訳ではないので、日本営業大学ではニュースの見方、新聞の読み方というカリキュラムも用意しています。どんな事も必ず深く知るという必要はないのですが、ある程度見出しを見ただけで一言、二言話せるようになっておかないと社会人として浅い人間に思われてしまうという気づきからカリキュラムに組み込んでいます。

石神 なるほど。特にアスリートは一般的な社会人と比べると仕事(トレーニング)の時間が短い分、空いている時間が長いと思うのでその時間の使い方がすごく大事ですよね。もちろん身体を休めたり、別のトレーニングをする時間もあるとは思うんですけど、こういった練習以外での空いた時間の使い方で何かアドバイスを頂けることはありますか?

中田 前提として「現役の間は現役に集中しろ」ということはいつも言っています。自分を高めるために現役中は競技に集中して欲しいのですが、いずれ終わりが来る事は目に見えていることなんです。なので、そのために「頭は使っておけ」とも言っています。要は時間をかけて身体を使って、どこかに行って学べ、ということではなくてある程度時間を絞った中で頭を使ったトレーニングをして欲しいのです。
例えば新聞を読んでみる、お金に関しての本を読んでみるといったことでいいのです。それに伴って「今後の自分の人生を見つめる時間に時間を使え」という事も言っています。この先自分がどう生きていきたいのかといった面を見つめるような時間で、転職サイトを見ろという事ではないですからね(笑)

石神 アスリートの場合は「仕事をする=どこかに就職する」というイメージが強いのかもしれないですね。なので、中田さんがおっしゃったように本や新聞を読むというインプットを増やして自分を高めることで、「どこに就職するか?」ではなくて「自分がどう生きていきたいか」といった根本を見つめ直す機会にもなると思います。さらに意外とサッカーに繋がることや気づきを得ることもできると思うので、インプットの時間はとても重要ですね。

中田 3年前に女子中学野球の監督をしていた事がありました。そこで月・木・土・日曜日が練習だったんですが、月曜日の練習終わりに本を1冊渡して次の日曜日に渡した本についてのレポートを課題として書かせていたんです。同じ本を週単位で選手に回してそれぞれレポートを書いてもらいました。この目的としては若いうちから本を読む習慣をつけて欲しかったのと、インプットだけでなくてアウトプットの習慣もつけて欲しいと思っていました。結果的には同じ本を読んでも選手一人ひとりアウトプットする部分が違ったり、一人ひとり個性があるという認識をチームの共通意識として持てる事もできたので面白い発見ばかりでした。あと、本を読んだ方が良いのはわかっているけど、どんな本を読んでいいのかわからないというハードルが最初にあると思うので、まずは自分がおすすめの本を渡していましたね。

石神 監督やコーチから本を読むきっかけを与えてくれるというのはすごく良いと思いますね。僕の経験からすると、人からきっかけを与えてもらったというよりは、現役中は調子が悪い時や怪我をしたタイミングで興味のある分野の本を読んでいました。プロになったばかりで試合に出ることができず、将来が不安になった時期があったんですが、その時に初めてFXの本を読みました(笑) 始めることはなかったんですが当時流行っていたので(笑)
それから色々なジャンルの本を読む機会はかなり増えましたね。
自分の心が不安な時や何か自分に足りない事があると思った時に本を読むと、スッと内容が入ってきてとても自分の身になっているという経験をしたので本を読むことはアスリートにとっては重要なことだと思います。ただ、調子が良い時は自分の感覚も大事にして、自信を持って突っ走った方が良い時もあるので、大前提として競技を極めていく、没頭するという意識が大切ですよね。きちんとプレーに集中してスキマ時間でいろんな情報をインプット・アウトプットすることが成長に繋がると。

中田 「本を読むこと=セカンドキャリアへの準備」というよりも、時間をうまく使って自分のためになることに頭を使ってほしいと思います。本を読むことだけでなく「将来の自分はどんなことをしたいんだろう」「40歳の自分はどんな生き方をしているんだろう」みたいなことを考える時間もあって良いと思います。将来の職業ではなくて自分がどうなりたいか、どうありたいかということに頭を使うのも大事だと思います。

石神 少し日本営業大学の話に戻るのですが、2020年5月に開校して入学してきた1期生はどのような方がいらっしゃるんですか?

中田 1期生は全員で8名います。詳細を順に説明していくと、野球界では4名います。大谷翔平と同期でドラフト2位指名で入団したが3年で戦力外通告を受けた選手が1名、大卒で入団したが怪我等の理由で3年間で戦力外通告を受けた選手の2名、4年前に育成契約中に戦力外通告受けて3年間いろんな職を転々としてきてまだビジネス界では成功していない方が1名在籍しています。次にスピードスケート界では現役プロ選手が1名、その選手の後輩である東洋大学体育会スピードスケート部の3・4年生が1名ずつ。最後の1名が元女子プロテニスプレーヤーの藤原里華さんです。2020年3月に現役を引退したのですが、ATPファイナルズ(ツアーファイナル)という日本人女子が4名しか出たことがない世界大会に出た経験を持つアスリートです。ちなみにその大会に今まで出た選手は大阪なおみさん、伊達公子さん、杉山愛さんというビックネームばかりです。

石神 個性的な方が在籍していて将来が楽しみですね!ちなみにどういった方が日本営業大学へ入学できるのでしょうか?

中田 種目は問わず、これまでにスポーツに打ち込んだ経験があるという方が対象です。どの時期まで打ち込んでいたというのは関係なく、スポーツから学んだ事をビジネスの世界で活かしたいという志があることが入学条件です。これは面接の時に絶対に聞いていて、志を感じた方は入学を承諾しています。

石神 ありがとうございます。話が盛り上がってきたところですが一旦前半終了ということで(笑)
後半は日本営業大学についてさらに詳しくお話をお聞かせ頂ければと思います!中田さん、後半もよろしくお願いいたします!

中田 こちらこそよろしくお願いいたします!

<PROFILE>
中田仁之(なかた・ひとし)
1969年生まれ、大阪府出身。
幼少期から大学まで野球に没頭し、関西大学4年時には日本代表に選出される。社会人野球への道もあったが野球を辞める決断をし、一部上場企業に入社。営業及びマネージャーとして20年間従事した後、2012年に株式会社S.K.Y.を設立して独立。販売促進・売上拡大を柱としたコンサルティング事業を展開し、2015年には飲食店の経営も開始した。現在はアスリートを対象に営業力を強化する教育機関、一般社団法人S.E.A 日本営業大学を設立し、アスリートのキャリア支援事業に力を注いでいる。

<PROFILE>
石神直哉(いしがみ・なおや)
1985年3月2日生まれ、茨城県出身。
茨城県立鹿島高等学校、神奈川大学を経て2007年に鹿島アントラーズへ入団。
左サイドバックとして1年目から頭角を現し、2008年にはU-23日本代表に選出される。その後、C大阪、湘南ベルマーレ、大分トリニータ、東京ヴェルディ、V・ファーレン長崎、ギラヴァンツ北九州、FCマルヤス岡崎を渡り歩き、現在はFC TIAMO枚方でプレーヤーとして活躍しながら、REIBOLAで編集長も務めるデュアルキャリアを築いている。

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

Vol.76 今の自分。