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Vol.2 オルカ鴨川FC GM/北本綾子

  • 2020.11.18

    Vol.2 オルカ鴨川FC GM/北本綾子

PASSION 彼女たちのフィールド

千葉県鴨川市を拠点に活動するオルカ鴨川FCは、2014年クラブ創設以降、県リーグから昇格を続け、現在はなでしこリーグ2部を戦う女子サッカーチームである。クラブのGMを務める北本綾子氏は、創設時は選手兼監督兼GMとしてチームを牽引した経緯を持つ。クラブの選手と監督として戦った経験を持つGMが考えるサッカーに携わる仕事の魅力や活動内容について、お話を伺った。

ーまずはオルカ鴨川FCについて教えてください。

北本 オルカ鴨川FCは、チームドクターも務めてくださっている亀田総合病院のバックアップを受けて7年前に発足しました。私達はサッカー選手のセカンドキャリアと病院の看護師不足という双方の問題を解決する形として、看護師を目指したい人がサッカーを続けたまま将来に向けても夢を追いかけられる場所を目指しています。
クラブの立ち上げ当初には日本サッカー協会にも相談し、その際に女子サッカーに精通した小野俊介氏にもアドバイスをいただきながら、クラブ作りを進めてきました。
クラブ発足当時は私がGMと監督兼選手という形で加入しました。2014年に千葉県リーグ2部からスタートし、そこから勝利を積み重ねて現在はなでしこ2部リーグで戦っています。現在のなでしこリーグ2部に昇格するまでは順調でしたが、そこからさらに上のステージにはまだ上がることができていないので、チーム全員で2部リーグ優勝を果たし、WEリーグに参入するために日々活動しています。
設立から数年はGMと監督、選手を兼任してクラブ作りや地域での活動の部分に注力しながらチームの昇格を目指して試合をしていくという形でやってきていたのですが、クラブを発展させるためには私だけの力では及ばない部分もあるので、発足時からアドバイスをいただいている小野氏に球団社長に就任していただきました。


 
ーサッカーと看護師の両立というのは非常に大変そうな印象ですが、選手のセカンドキャリアも考えるととても貴重な取り組みですね。

北本 クラブ設立当初は選手が看護師として働きながらプレーをするという目的を持っていましたが、やはりトップチームともなると勤務や勉強とサッカーの両立が難しいということが見えてきたので、選手も増えてきたこともあってセカンドチームを作りました。女子サッカーではまだ少ないと思いますが、現在クラブにはトップチーム、セカンドチーム、U-18、U-15の4カテゴリーがチーム内にあって、セカンドチームの選手には国際武道大学や亀田医療大学、亀田医療技術専門学校に通いながらプレーしている選手がいます。今年にはクラブで初めて亀田医療大学に4年間通って国家資格を取得し、看護師として働きながらセカンドチームでサッカーも頑張っている選手が誕生しました。クラブとしての最初の目的を形にできたことは大きな一歩だと思っています。
看護師の仕事はとても大変な業務なので、サッカーとの両立は本当にすごいと思います。病院に人手が足りない時は仕事を優先しなければいけないなど、本人が割り切らないといけない部分もありますが、職場や周りの方もその選手が看護師をしながらトップチームを目指してセカンドチームで頑張っているという事で応援してくださるので、そういった環境が選手にとって後押しになると思います。

ー初めは選手と監督も兼任されてGMをされていたということですが、現在のGMに専念されることになった経緯はどういったものだったのでしょうか。

北本 私はこのチームに来る前の2010年に選手を引退していて、トップレベルの中ではひとつの区切りをつけていました。ですが監督としてチームに就いた際にはまだ選手も少なく、これから集めないといけない状況だったので私自身が選手としてプレーする必要がありました。ただご縁があって就いたチームでしたし、やるからには頑張ろうということで、2014年に監督兼選手としてピッチに立ち、GMとしての地域の仕事と練習をなんとかやりながらシーズンを過ごしました。2015年も同様の形で過ごし、2部リーグ昇格を決めることができたタイミングで選手を辞め、監督とGMとして2016年シーズンに臨みました。監督とGMだけになったのは、仕事があって練習に集中できない日があるということが、他の選手に申し訳なかったためです。また、選手として一緒にプレーしていると選手と監督というよりも選手同士という立場になってしまうので、次のカテゴリーでは無理だと思い監督とGMとしてやっていくことを決断しました。
それでも地域の方との繋がりや行政との関わり、事務的な業務をすることが増えることで結果的に認知も広がることに繋がりました。2016年はチャレンジリーグへ昇格を果たして優勝することができ、翌2017年はなでしこリーグ2部に昇格してGM兼監督を務めました。1シーズン戦って、もっと上を目指していくならば監督とGMを兼任ではなくそれぞれの役職に人がいた方が良いと判断し、専任の監督を招いて私は2018年にGMの役職のみになりました。
私がGMに専念して業務に集中することで、GMとしての責任も増えて業務も結果も自分次第になります。その辺りはもちろん簡単ではないので、毎日痛感しながら過ごしています。

ーGMに専任される際に、北本さんが監督を専任してGMを別の方に依頼するという考えはありましたか?

北本 その考えは全くありませんでした。元々私は裏方の仕事にやりがいを持っていて、監督としてサッカーを指導していくというよりも、例えば裏で何か準備したことが誰かの手によって結果になるという方が、やりがいや喜びを感じてきました。あとは当時のコーチに厚い信頼を寄せていたので、ぜひ任せたいということで監督をお願いしました。

ー今のお仕事でやりがいを感じたできごとはありますか?

北本 私はチーム編成も担当していて強化にも携わっており、選手だけでなく監督やコーチ、トレーナーやフィジカルコーチなどのチームスタッフをチームに招く役目も担っています。その中でスカウトしてきた選手がピッチの内外で成長した姿を見せてくれて、ファンの方からも「あの子凄く良くなったね」「あの子のプレーを見ると元気になるよ」といった声を頂いたりすると非常に嬉しく、やりがいを感じます。あとは個人のことだけでなくチームが活動している姿が励みになるという声をいただけることも喜びを感じますが、そういった声を聞く機会が多くなってきた実感があります。
クラブができて1年目2年目の頃は「あなたたちは何をしている人なの?」という声だったのが3年目になると「ああ、サッカーの子ね」と変わってきて、4年目には「オルカの子ね」と言っていただけるようになりました。少しずつ街の人の中に私達がいることが当たり前になってきて、少しでも地域活性化の役に立てていると思えた時にはやっていて良かったなと強く感じましたし、今後もっと自信を持って地域に貢献できていると言えるようになりたいと思います。

ー1日のスケジュールをお聞かせください。

北本 朝は必ずメールチェックをして返信するのが毎日のルーティンで、後は日によってスケジュールは変わります。現在ではウェブ管理について進めたり、色々なリーグの委員として会議に参加したりしていますし、クラブのことではスポンサー様の継続のために交渉したり、新規のスポンサー様を獲得するために準備や打ち合わせなどを行っています。あとは行政の方と今後どうやって盛り上げていくかといったことを企画したりしていて、スタジアムについてもなでしこリーグ1部、そしてWEリーグを戦えるためのスタジアムで地域にも活用していただける形はどういったものかといったことを相談したりしています。
その他にはチームに来た練習生の案内といったこともしています。普段もできるだけ練習に行くようにしていて、練習開始の16時30分から練習が終わる20時までグラウンドにいます。練習後には監督やコーチと話したりしますし、トップチームだけでなく全てのカテゴリーを見ています。毎日決まっているのは朝のメール確認と練習に行くというくらいで、あとはランダムに過ごすというのが普段のスケジュールです。
また、シーズン中は週末に試合があるのでその前後で色々な試合を観に行き、選手のスカウティングもしています。私達のホームタウンは千葉県の南に位置するので、普段はなかなか観に行けない分、試合に合わせて各地で動いています。

ーGMをされていて大変なことはありますか?

北本 私自身あまり打たれ強くはないのですが、GMとして強くいなければならないという点には大変さを感じています。その辺りも余裕を持つことができればうまく対処できますし、時間にゆとりがあれば精神的にも余裕ができると思うので、沢山の仕事をしながらいかにうまく時間を使い、どこかでゆとりを作って余裕を持つことが重要だと思っています。これらのことは、例えば応援してくださっている方に余裕の無い対応をしてしまうと応援してくださる気持ちを裏切ってしまうことになるので、そうならないようにするためであり、応援してくださる方1人1人に繋がることだと思います。

ーご自身の理想のGM像はありますか?

北本 選手時代は本当に自分のことしか考えられていなかったと思うほど、クラブのGMがどのようにして裏で支えてくださっていたのか全く知らずにプレーしていました。今改めて振り返ると、GMの方々は恐らく相当忙しいはずなのですが、選手の前に現れるときには凄く穏やかに振る舞っていて、いつも余裕がありました。今もGM同士の立場としてそういった方々と話す機会があるのですが、自分の意見をはっきりと持っていてなおかつ人の意見も聞ける方が多いです。これは経験の多さからくるものかもしれませんが、今の自分にはそういったことがまだできていないので、理想像としてはしっかりと仕事もするけれど自分を保っていて、自分の意見をきちんと発言もできるし、押しつけるだけではなく人の意見も聞き入れられるという人物を理想として目指しています。

ーサッカーに関わる仕事の魅力というのはどういう所を感じていますか?

北本 この仕事の魅力は、好きなものを間近で感じられるというところです。選手や監督、スタッフはもちろんですが、サポーターやスポンサー様、オーナーなど周りにはサッカーが好きな人がたくさんいて、その方々に囲まれて仕事をすることでサッカーの魅力をより感じることができますし、皆でいきいきとスムーズに仕事ができる環境だと思います。選手としてプレーしている時はサッカーの魅力が何かということは分かっておらず、引退してからサッカーの魅力が分かってきたように感じています。今の環境、仕事は非常に有り難く思っていて、自分が元々やっていたスポーツに携われるというのは本当に幸せで素晴らしいことです。
また仕事をしていて思うのが、行政やサッカー好きではない方に、街をどうしていくかという視点でサッカーを活用した取り組みを提案し理解していただかないといけないなど、やりやすい環境だけではない中で、いかにして地域活性化など同じ目的に向かって取り組んでいくか、サッカーやクラブの取り組みを理解していただくかといったことも私にとって魅力かもしれないと思います。

ー北本さんのGMとしての今後の夢はありますか?

北本 私は選手の頃から夢ではなく、目標を持ってやってきました。スモールステップというような小さな目標を立てて1つずつクリアしていった結果、選手としてなでしこリーグのチームに入団してなでしこジャパンに入ることができましたが、これも夢ではなく、常に目の前にある目標でした。今の私の目標としては、クラブにどれだけ貢献できるかが最優先で、その一つとして今取り組んでいるのがWEリーグのレギュレーションに準じたスタジアムを作ることです。これは一番ハードルが高いと感じていますが、クラブのためだけでなく、地域の方々のためになる場所として、皆に愛されて役立ててもらえるスタジアムの建設をなんとか成し遂げたいと思っています。
あとはクラブの育成チームにいる選手たちがトップチームに入って活躍してくれることで、トップチームの半分くらいが育成出身となれば最高に嬉しいと思います。地元出身のスター選手が生まれることで地元の方々にもより応援いただけますし、さらに先の将来は日本代表選手がクラブから誕生すればいいなと思います。育成チームの選手は鴨川市だけでなく、千葉県の南房総地域一帯から来てもらっているのですが、いずれはオーナーである亀田総合病院のグループがある幕張や館山などを含めた千葉県全体へスクールの展開なども考えていて、子どもがサッカーに触れる活動も増やしていき、ボール遊びから始まる取り組みを通じてサッカーやオルカFCを広めていきたいと思います。
クラブの目指すところは地域密着で、地域を元気にできなければ私たちがここで多くの方々のサポートを受けてサッカーをさせていただいている意味がありません。もちろん個人には個人の目標があって、サッカー選手としてプレーすることや結果を出すということも大事にしていますが、一人一人が輝ける場を頂く分、クラブとして街に貢献することが重要です。Jリーグの様に年間の収入が自分達のチケット代やグッズ代などで賄える程大きなクラブではないので、スポンサー様や個人会員になってくださっている方々がクラブを通して社会貢献をされたり、応援してくださる気持ちで支援をしてくださっています。女子サッカーはまだまだこれからになりますが、現状としてはそういう立ち位置だからこそ好きなことをやらせてもらっている分、出来ることは何か、それ以外には何かないかと試行錯誤して最善を目指し、これからも取り組んでいきます。

ーありがとうございました。

<プロフィール>
北本 綾子(きたもと・あやこ)
1983年北海道出身。
東京女子体育大学在学中、浦和レッドダイヤモンズレディースに入団。女子日本代表にも選ばれ、世界の舞台を経験する。2010年に現役を引退するが、2014年にオルカ鴨川FCにGM兼監督に就任する際に選手も兼任して現役復帰。2015年に選手は引退し、GM兼監督としてチームを率いてなでしこリーグ2部昇格を果たし、2018年よりGMとしてクラブ運営の指揮をとる。

text by Satoshi Yamamura

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