先日、鹿島アントラーズのアカデミーの試合を見に行った。引退してからアカデミーを指導するようになった満男さん(元日本代表MF小笠原満男)が働くところを見てみたかった。今回は満男さんが監督として指揮を執る、水戸ホーリーホックユースとの試合を、前日練習から見学させてもらった。プレミア(高円宮杯U-18プレミアリーグ)とかにメインで出ていない高校1~2年生の子たちだ。まず、現役の時より声が出ている。めっちゃ声を張っている。満男さんの熱量にたまげた。もう少し静かに見守っていて選手が聞いてきたら答えるというスタンスを想像していたのに、満男さんは「やるぞ!」って感じ。伝えるのは満男さんが現役時代やってきた、つまり、オレもやってきた内容だった。そこは変わらないんだなと思いながらほほ笑ましく見ていた。
満男さんは全体練習後に全員を集めてめちゃくちゃきついシュート練習をさせていた。試合前日なのに。ミスとかすると、ピッチの外周を50秒で走らせていた。試合前日なのに。これは衝撃だった。鹿島でもそれぐらいやるんだなって。満男さんは「質も大事だけど、まずは量をやらないとだめだよ」って言っていた。自分も半信半疑なところもあったけれど、今回の満男さんの指導を見ているとやっぱり練習量なんだなと思う。育ち盛りは量をこなさないとね。プロみたいに1時間~1時間半で集中してやっているだけじゃ足りないし、それぐらいこっちも求めないと駄目なんだと感じた。普段からそれぐらいやっていたら走り負けしなくなるし、実際に鹿島ユースはプレミアでイースト首位にいる。練習量が裏付ける強さはあるのだと素直に受け止めた。オレがアイリスFCやなかのFCとかに鹿島での経験を落とし込んでいくにあたって必要なのは、まず教える側の熱量だと感じた。難しいことは言っていないし、本人の成長を待つ方法もあるけれど、まずは指導者の熱量が伝わらないと届かない。言葉の重みも。近代科学に裏打ちされた現代サッカーと逆行しているかもしれないけれど、自分の高校時代も質より量だった。24時間のうちどれだけサッカーにつぎ込めるか。今、鹿島ユースはサッカーに打ち込める環境にある。寮のすぐ近くにグラウンドがあって、いつでも練習できる。御飯もおいしい。鹿島ですらここ5~6年でそういう環境がやっと整って人を呼べるようになった。Jクラブの大半がそういう環境かといったらそうでもない。サンフレッチェ広島は昔から環境が整っていて、柏木(元日本代表MF柏木陽介)とか槙野(元日本代表DF槙野智章)が育っていたな。
試合は3-1で勝った。満男さんは試合前だと「口出ししない」って言うらしい。「静かに見てる」って言うらしい。でも、ヒートアップして最後は鬼軍曹かのように誰よりも声を出していた。選手が萎縮して逃げ場がなくなってしまうから、みんながみんな厳しいことを言ってしまうのは良くないと思う。でも、誰か1人は言わないといけない。満男さんは周りが言う隙もなくなるくらいずっと大きい声で「戦え」「もっといけ」「仕掛けろ」って闘志をかき立てていた。それは、勝つためというのはもちろん、教え子たちがプロになってほしいがゆえの言葉ばかり。みんなが思う物静かなイメージとはかけ離れていた。OBがこれだけ言って子どもたちがガムシャラになって戦っていた。トップチームの場合サポーターは、完成された試合を求めて応援や観戦にやってくる。高校生は粗削り。トップチームのようにやれなくて当たり前で、そこに意識を植え付けている戦い。そこも見どころだと思う。ユースの方がむしろ鹿島らしい戦い方をしているようにも見えた。チームのためにというのもあって、そこに競争もあって。ソガさん(元日本代表GK曽ケ端隼)の息子さんもいて、満男さんが厳しく指導している光景に時の流れを感じたな。シュートを決めたら上がりの練習ができないとずっと50秒走をやらされていた。1~2秒でも間に合わなかったら、きっちりと追加して走らせていた。で、次の日スタメン。鬼軍曹だね。
「こんなにやるんですね?」「前日でもそんなに?」「明日は試合だよね?」ってハテナばかりぶつけてしまった。1人は5周走を2回やっていた。リハビリでの別メニューかと思ったら「この子も明日ベンチ入り。走れないから毎日走らせている」って。さすがの俺も驚いた。「やらせないとやらないのよ」って笑う。満男さんは根本的にプロになってほしいから走らせていて、気付いてほしいことがあるから練習量を増やしているんだろう。オレも苦手だったけど、満男さん現役時代は走り込みも筋トレも嫌いだったくせによくやらせるものだと思う。それでも、この子たちに必要だからこそやらせているんだろうなというのはひしひしと伝わってくる。それは、満男さん自身のサッカーに対する熱量が高いからちゃんと選手にも伝わっているんだろう。その思いを分かって努力して、さらに才能がある子がプロになれる。なるほどなと思いながら満男さんの話を聞いていた。そして、自分たちとの差も感じた。教える側の情熱。これはオレの鹿島への、満男さんへのリスペクトから来るものかもしれないけど、オレがベガルタ仙台に来たときに感じたこととちょっと感覚が似ていた。
鹿島がこれだけやっているのなら、宮城はもっとやらないと追い付けない。自分たちの周りにあるものしか見えていないと、自ずと目線が上を向かなくなってしまう。宮城のサッカー少年たちは、鹿島でプロになることを目指す同世代がいること、そして高校サッカーの強豪チームがこれだけやっているのを知らないといけない。教える側も伝えていかないと預かっている子どもたちのためにならない。宮城のサッカーが追い付け追い越せでやっていくためにも、オレもコーチ陣の意識改革を進めていく必要性をひしひしと感じた。オレが1回で教え子100人に伝えられるような簡単なことじゃない。まずはこの肌感覚をスタッフに伝え、変えることから始めてみようと思った。改めて頭がクリアになって使命感が増したと思う。引退しても満男さんは満男さん。熱い内面は変わっていない。アカデミーの指導者となっても、静かにやってそうなイメージを持っているサポーターは多いと思う。でも、カシマスタジアムで誰よりも声を出していた。声が響いていた。現役時代の小笠原満男からは想像もつかないでしょ。それだけでも鹿島ユースの試合を見に来る価値はあるね。
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遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。






