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Vol74「企業チームのアイリスFC」

  • 2026.03.12

    Vol74「企業チームのアイリスFC」

絶康調

アイリスFCのコーチ兼スカウトとなって約1年がたった。現場で教えることもあるし、サッカーが上手な子をアイリスの正社員にするのが仕事だ。「強くするのに何の知識もないから手伝ってほしい」。2024年秋、JFLにいたソニー仙台が活動を終了するのと前後して、宮城県リーグで戦うアイリスFCにいる塩釜FCの仲間から相談を受けた。大学サッカーとかJFLとか地域リーグにも携わりたいと思っていたので快諾し、トップコーチに梁さん(ベガルタ仙台クラブコーディネーター梁勇基)も招いて取り組みをスタートさせた。ソニー仙台でプレーしていた秋元佑太もアイリスオーヤマに入社し、今はその4人が中心なってチーム強化にまい進している。とは言ってもあくまでも企業チーム。社内の人たちに応援してもらえるようにと、福利厚生の一環であるサッカー部がちょっとガチ目にやっている感じ。立ち上げのころはサッカー経験者が数人しかいなくて、他競技出身の社員をかき集めていたこともあったそうだ。当然ながら、プロとの環境の差は歴然だ。職務を細分化されたスタッフもいないし、そもそも仕事があるから都合がつかないと練習に集まれない。1時間前にアップして筋トレしてから練習に入ろうよっていうのがプロの世界では当たり前だったけれど、仕事を終えて練習参加する選手に時間の余裕はない。そうそう2桁人数集まることはなくて、5人で練習などもざらだった。最初は人寄せパンダとなって一緒にボールを蹴っていたな。

練習方法とか、けが人のケアとか、自分たちの経験を素直にフィードバックするようにしている。「試合前日はどういう練習をしていたの?」とか「勝つためにどうしたらいいの?」など、素朴な疑問にその都度答えていた。Jリーガーにとって普通だったことを伝えている感じ。最短でJFLを目指す上では、勝つ以外にもいろいろやらないといけないことがある。選手を集めることはできる。でも現状は、サポート体制が整っていない。監督やコーチ、フィジコやトレーナーが必要になる。まずはトレーナー、けがした選手をどう現場復帰させるか。プロと違ってリハビリも任せられるトレーナーはそうそういない。診断を受けて休む期間を決め、逆算してリハビリのスケジュールを組む。今はそれをみんなでやっている。試合やりました、梁さんやオレが監督やって勝ちました。でも評価しないと次にはつながらない。だから、試合翌日や翌々日にミーティングするようにして、交代の意図や得失点を振り返る場を設けた。フィードバックや分析などは、梁さんと2人でやっている。梁さんとは試合を見ながら2人で「こうしたい」「ああしたい」などと話し合う。主力が外せない仕事で欠場する時にどうするかという、企業チームらしい悩みもある。梁さんは現場が似合う人だから、もっと楽しんでほしいし正式にライセンスも取ってほしいなと思っている。

アマチュアからセミプロへ進化していく途上で、できることとできないことを取捨選択していく。現場は梁さんが中心となっていて、オレはスカウトも兼業して関東地方の大学を回っている。今季ベガルタ仙台に入った一平くん(GK高橋一平)や杉山くん(MF杉山耀建)も見ていた。杉山くんはぬるぬるっとしたドリブルで人と違っていたのが印象的だった。関東1部はレベルが高いから、みんなうまいんだよ。そこからJクラブにいけるかいけないかに大きな差はないと思った。鹿島に入った林晴己がちょっと抜けている感じがあったくらい。企業チームのスカウトは社会人としてやっていけるかという視点が重要だったりする。基本的にみんな大丈夫なんだけど、案外人柄を重要視する。JクラブはJクラブで悩みはあるだろう。全く試合に絡めないまま満了になって引退となると、人生が狂ってしまうかもしれない。もまれても大丈夫か、いくら覚悟を持って来てくれるとはいえ、そこは悩ましいだろうし、責任は重たいから大変だと思う。オレはけがでプロにいきそびれた子や、若い頃お世話になった鹿島アントラーズのユース出身に声をかけることがままある。偏った感じになってしまうかもしれないけど、鹿島ユース出身はチームのために自己犠牲で戦う色が強く、その姿勢がアイリスの企業風土ともマッチするだろうと思っている。以前ベガルタ仙台GMの庄子春男さんからは「川崎のときも、けがでプロ入りを断念した子はたくさんいた。そういう子をアイリスとかで雇ってほしいな」と言われていた。大学時代に人工芝が原因でけがをして、焦りのあまり専門的なリハビリを受けることなく復帰して再発というケースは案外多い。どうしても環境を整えきれない部分もあるからね。

何が正解かは分からない、自分が思っていることを伝えて、全てを実行できるわけではないけど、うまくいけば自信につながるし、失敗したら改善策を練ればいい。根底にあるのはサッカー界を広く知りたいという気持ち。Jリーグ、大学サッカー、地域リーグ、いろいろなところで学び、もっとサッカーを語れるようになりたい。技術や戦術だけじゃなくて、どれだけの人がサッカーに携わっているか。いろいろなサッカーに触れて、地元に還元したいというのが動機といえば動機だ。アイリスFCがJFLに上がるために、いま自分ができることに全力で取り組んでいる。そして、アイリスFCは県リーグから東北2部リーグに昇格することができた。試合に出ている人はもちろん、関係した人がみんなめちゃくちゃ喜んでいた。そういう姿を見て、1年間頑張った結果が形になるという、スポーツならではの喜びを共有できたのはうれしかった。なかなか経験できることじゃないし、みんなの力がないと実現できない。今春はいい選手が増えるので、ベガルタとの練習試合ももうちょっとまともに戦えるようになるかな。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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