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Vol.17 どれだけ悔しくても、前を向く。

  • 2020.12.01

    Vol.17 どれだけ悔しくても、前を向く。

発源力

©GAMBA OSAKA

正直、その話題に触れたくもないし、振り返りたくもない。できることなら忘れてしまいたい。今回のコラムを書くにあたり、真っ先に頭に浮かんだことでした。0-5で敗れ、目の前でJ1リーグ優勝を決められてしまった、川崎フロンターレ戦のことです。ともすれば、自分のキャリアで積み上げてきた『プライド』にまで入り込んでくるほどの悔しさは、過去に経験したことのないほど大きく、自分でも整理し難いものでした。

ただ、このコラムを始めるにあたり、長いシーズンを戦っていればいいことばかりではないということは覚悟していたし、例え口を開きたくないような出来事に直面しても、きちんと自分の言葉を発信していくと決めていました。これはプロ1〜2年目に、岩政大樹さんに「負けた時ほどセンターバックは一番、喋れ」とも教わったのもあります。
「負ける=失点しているということだから。負ければ、誰もが気持ちが重くなるし、メデイアの前でも口を開かなくなるけど、そういう時ほど、守備の責任を担うセンターバックが一番、喋れ。自分が話したくない時こそ、一番に話すことを心掛けろ」
その言葉をこれまでも心に留めてきたからこそ、今回もきちんと言葉にしようと思います。

正直、川崎戦は手も足も出ないまま終わってしまった90分でした。前半のうちに2点のビハインドを負ってしまった中で、勝つためには、ゴールを奪う=攻めるしかなかったからこそ、ツネさん(宮本恒靖監督)の「前から行くぞ」という指示のもと、後半は失点覚悟で臨みました。今年の川崎のサッカーに対して、前からハメに行けば相手の思う壺だということは想像しながらも、です。前半の失点がなければ、あるいは引き分けでもOKという試合なら、引いて守ってカウンターで仕留めるという戦い方もできたはずですが、勝たなければ優勝は阻止できない状況でのそれは現実的ではありませんでした。
もっとも、そう考えても先制を許したことは反省しなければいけないし、修正すべきところはたくさんあったと思います。失点シーンだけを切り取っても、相手の攻撃を受けるのか、攻めて押し込むのか。局面での対応や『声』は足りていたのか。さらにセットプレーで喫した2失点目も『ボール』に対する守備はきっちりとできていたのか。『マンツーマン』での対応なら相手選手の動きに応じてマークする選手が動いて当然ですが、『ゾーン』であれば極端な話、相手選手がどう動こうが僕たちには関係ありません。つまり『ボール』さえ見ていればいいはずですが、正直あの時のゾーンはそのセオリーから外れてしまっていました。
そんな風に、後から試合を見返しても川崎に対して僕たちが見せてしまった『甘さ』や『綻び』はたくさんあったし、何より、90分を戦い終えて感じたのは「積み重ねてきたものの差で負けた」ということでした。もちろん、ガンバにもツネさんのもとで積み重ねてきたものは確かにあります。だから今の順位があるんだと思います。個々の選手の質でも決して差があったとは思いません。ただ、組織として見れば川崎には、風間八宏さんが監督をされてきた時代から、大きく顔ぶれを変えずに熟成させ、鬼木達監督のもとでより深みを持たせてきたサッカーが確かに存在しました。
加えて、今シーズンの川崎には、『ターンオーバー』という言葉が存在しないくらいの選手層の厚さがあり、それは、この終盤にケガ人が出ていないことにも表れていると思います。その上で、僕らとの対戦時もそうだったように誰が出てもチームとしての質、勢いを落とさずに戦えるのは、ハードな『連戦』では間違いなく大きな力になったはずです。実際に試合後、鬼木さんが「いまだにベストイレブンがわからない」というような発言をされていたのも、それを物語っていました。
ただ、今回、1位対2位の試合で、0-5という大差が開いたことで多くの人が「ガンバは本当に2位にいていいの? その実力があるの?」と思ったはずですが、僕はその感情になるのは違うと思います。今回の、スコア、内容だけを見れば「2位にふさわしくない」となるだろうけど、リーグ戦は1年を通した戦いです。長いシーズンではいい時も悪い時もあって、内容が悪くても勝てる試合があれば、めちゃめちゃ内容がいいのに負ける試合もあります。今回の川崎戦は内容も、結果も悪かったと言わざるを得ないですが、かと言ってこの1試合で僕たちがやってきたことがすべて否定されるわけではないと思います。
だからこそ、どれだけ悔しくても、自分に腹立たしくても、僕は34分の1の試合だと思って前を向きたい。そして、これだけ屈辱的な敗戦からも、ポジティブな要素を見つけたいと思っています。
それが何かといえば、自分たちはこれだけコテンパンにやられても、まだ2位にいて自分たちでこの順位を死守できる可能性が残されているということです。今回の川崎戦は最終戦では決してなく、この先、自分たちにはまだ今回の悔しさを払拭する試合が残っています。直後のサガン鳥栖戦は引き分けに終わりましたが、先制される展開を追いつけて終われたのも、チームのみんなの思いが宿った勝ち点1だったと受け止めています。そして残り3試合の結果によっては、天皇杯で川崎にリベンジできるチャンスも手にできます。だからこそ、僕は残り3試合を、ガンバが本当の意味で強くなるチャンスだと捉えて前を向こうと思います。

  • 昌子 源Gen Shoji
  • Gen Shoji

    1992年12月11日生まれ。
    兵庫県出身。
    11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
    18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
    14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。

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