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Vol60「ナグ」

  • 2025.08.20

    Vol60「ナグ」

絶康調

病魔と闘うナグ(V・ファーレン長崎MF名倉巧)と再会した。最初どんな顔で会おうかと思ったけど、いつもと変わらないあの愛くるしい笑顔で「久しぶりです!」ってあいさつされたとたんに、ベガルタ仙台で一緒だったころに一瞬で引き戻された。ナグとオレは2022年、一緒にベガルタに加入した。ナグはかわいくてやさしくてきらきらしているイメージだと思う。普段はその通り。でも、かなりの負けず嫌いで逆境に強いタイプだった。同じポジション、同じちっちゃい組。最初にナグを見て、いい選手だな、かわいいな、ちっちゃい者同士頑張ろうぜと思っていた。一緒にピッチに立ったり、ポジションを争ったり。たくさん点も取った。最初はナグのキャラが分からなかったし、ナグもナグで上下関係ちゃんとしてるせいなのかオレにめちゃくちゃ遠慮していた。

オンザピッチになると変わる。「あの顔で体強いんだな」と思ったね。同じポジションとしてはうれしい存在だった。ひと皮むけたら上でやれる選手だったので、頑張ってほしいと思っていた。狭いエリアでのボールタッチが出色だった。密集地帯でのドリブルとパスの状況判断がすごく良くて、ナグにしか出せないスルーパスは見ていてうらやましかったな。きれいなサッカーをしそうなイメージを覆して案外ゴリゴリいくし。一直線で突進したかと思えば、スマートにはがすこともできる。FC琉球や長崎でナグと一緒だった選手たちは「あいつめっちゃいいですよ」って絶賛していた。そして、ナグと亮真(モンテディオ山形MF・気田亮真)が異様に仲が良かった。2人でサッカーやれてしまうぐらいの関係性。2人ともリスペクトとライバル意識を全く隠さず向かってきてくれて気持ちよかったし、教えられることは教えた。次のベガルタを引っ張るのはこの子たちかなと思った。移籍しちゃったけど。

オレがスタメンでナグがサブだと「出たかったっすわ。悔しいっすわ」って直接言ってくるぐらい闘志をめらめら燃やしていた。ナグが歩んできた道はオレと全然違う。トレセン、ナショナルも含めて、アンダーの代表になったことは確かなかった。それでもプロになって活躍する選手になった。どんな状況にいても真摯にサッカーに取り組み続けた結果、プロになって活躍している。そういうバックボーンがあるからライバル心むき出しでやってくるんだろうなって思っていた。集中していないときはマジで笑えるくらい集中していなかった。当時はまだ若かったしね。指摘されると「は? オレやってるし」って感じで動くときもあって、その姿すらほほ笑ましかったね。

ナグは小柄であの感じでいながら、めちゃくちゃ体幹が強い。「なんで強いの?」って聞いたら「ちっちゃいからってなめられたくなくて鍛えた」って答えたのを覚えている。その気持ちはよく分かる。簡単に倒れて「やっぱ弱いな」って思われたくないもんな。ナグは今のベガルタになかなかいないタイプの2列目。2列目らしい2列目で、自分でゴール決めてやろう、爪痕を残そうという意識が強かった。悪いことをしてもニコニコしていると許せちゃう。一緒に試合に出ているときはわくわく感がものすごくあった。練習はさぼらないし、ちゃんと動けるし。ナグ、モト(セレッソ大阪FW中島元彦)、オレのちびっこ軍団としては頑張ってほしいと思っていた。ある試合でゴールは入らなかったけど、1人抜いて次は股抜きをかまし、さらに1人抜いてシュートまでいったことがあった。横でパスを呼ぶオレをガン無視してシュートした。そのとき「こいついいな」と思った。コーナーになってハイタッチか胸タッチをした。

その後、ナグは長崎に戻った。試合に出たり出なかったりだったけれど、タレントのそろっている長崎もバランスが崩れると「頼むナグ」って感じになっていた印象がある。走れて、足もともうまくて、体も強い。監督側だったら使いやすいと思う。会うたびいつも「頑張ります!」って言っていた。スタメンじゃなくても試合はチェックしていた。長崎に帰るとき「仙台にもっといたかった」とこぼした。仙台の街が大好きだって言われて、なんかうれしかった。あの1年はナグにとって濃い1年だったんだろう。レンタルで、しかも1年しかいなかったのに、仙台での長崎戦後にものすごいコールがあった。それもナグの人柄だろう。

そんなナグが今、病気と闘っている。負荷の強い練習からの回復が遅くて、体力が落ちたのかなと思っていたら違っていた。Jリーガーが毎年受けるメディカルチェックでは見つからなかったそうだ。今は自宅に戻って治療している。副作用が少ないから今はゴハンにも行けるそうだ。いろいろと大変なことも、いつもの笑顔のまま、ナグらしい感じで教えてくれた。前向きに捉えて治療しているんだろう。骨折や靱帯をやったときと違い、全治の見通しが立たないのは何をモチベーションにしていくのか分からなくなってメンタルがきつい。ナグはそういう状態にいても変わらずいられるのは本人の強さなのか、苦しいところを見せないようにしたのか。

普段はゆっくり過ごしていて、元気なときは散歩しているそうだ。「実感があまりなくてシーズンオフみたいに過ごしています」ってくったくなく話す。食事もグルテンフリーとか肉を食べないようにしているみたい。気にするようにしてから外食すると、ものすごく食べる物が限られてしまうと感じたナグは、SNSで発信し、同じ境遇の人の声を聞き、そういう人のためになりたいと思ったそうだ。そして、同じ病魔と闘う人たちが気兼ねなく食べられる食事を提供する立場になりたいとも。「いつかこの経験を本にしたいんす」。つらい思いもしているだろうに、ナグは終始前向きだった。弱みを見せてもいい。力になりたいと思っているのはオレだけじゃない。一緒に頑張ろう、ナグ。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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