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Vol62「頑張っている」

  • 2025.09.27

    Vol62「頑張っている」

絶康調

©KASHIMA ANTLERS

ちょっと前の話になるけれど、ベガルタ仙台は9月13日の水戸ホーリーホック戦で引き分けた。前半に先制された相手のスーパーゴールは前のめりになったところをやられた。立ち上がりから戦えていて、勝ちたいという意思が表れていた。ここで負けたらやばいという試合で頑張れることは見えた。力の差があったわけじゃなくて勝てる見込みもあった。欲を言えばリスクを冒してでもシュート、スルーパス、くさびを入れてさらに前進するところを見たかった気持ちもあるけれど、見ている人たちに勝利への意欲が伝わる試合ではあったと思う。以前はただ、なんとなくやっている感じに見えることがあった。勝ちたいのか、指示されたことを忠実に実行したいのか、はっきりしない試合運びが見て取れた。水戸戦は「勝ちたい」という気持ちが勝っていたように見えて、希望を持てた。水戸も首位にいて力のあるチームなのは間違いない。1-1という結果は妥当かなと思う。ベガルタは上位とはいい試合ができる。なのに、下位相手になると相手に合わせるような戦い方をして取りこぼしている。だから今の順位にいる。そういう試合とは違って、水戸戦は見ていてストレスがなかったね。良かった。

ベガルタ仙台はすごく恵まれている。メディアもたくさん応援して取り上げてくれるし、サポーターも距離が近くて熱い。こんなに素晴らしい環境はJ1でもなかなかないと思う。試合となればユアスタ仙台のある泉中央がお祭りみたいに盛り上がる。街中にもベガルタのユニホームを着た人が歩いている。ベガルタは練習を終えてすぐに昼食をとることができて、さらにそれがおいしいときたもんだ。そんな幸せなことはない。オレが在籍していた当時、鹿島アントラーズはクラブハウスに食事はなくて、練習後すぐにタンパク質や糖分を補給したい選手は自分で用意していた。ベガルタに移籍して驚いたしうれしかったな。そういう恵まれた場所にいるからこそ、いろいろな熱意を受けているからこそ、選手たちは責任持って泥くさく戦い、ひたすら上を目指して希望を見せないといけない。

居心地はいい。プロ選手としてサッカーする上でストレスは少ない。ただ、それで満足してしまっていないか? 大きなスタジアムで盛り上がるJ1のビッグクラブ、例えば鹿島や浦和レッズ。あの空間で戦いたいとか、自分が活躍してアントラーズやレッズに勝ちたいとか、そういう気持ちを持っていないと現状に満足してしまう。常に高みを目指していないと成長が止まってしまう。試合に出てなんぼという考え方は多いと思う。アンダーカテゴリーで場数を踏む、アピールするという形。多くの成功例もあるし、いい考えだとは思うけれど、オレは上を目指せるなら少しでも上のステージにチャレンジしてほしい。上でやりたいという気持ちは大切だ。海外はもちろん、国内最高峰のJ1で優勝争いする選手が出てほしいと思っている。いまベガルタの選手はチームのJ1昇格に向けて頑張っている。そのさなかでも根幹に持っていてほしいのは、1人の選手として高みを目指す気持ち。ベガルタの一員でもあり、みんな個人事業主。それが高みを目指すエゴ全開の個が集団としてまとまり、結果につなげていくのがチームだ。目の前の相手を倒したいというゲームに臨む気持ちに加えて、そういう気迫がないように見えたから、これまでベガルタに対して自然と言葉が厳しくなっていたと思う。

選手は「満足していない。頑張っている」と言うだろう。しかし、第三者からそう見えてしまうことには、何か理由があるんだろうと考えてほしい。オレも若いとき、鹿島で同じような経験をした。大樹さん(元日本代表DF岩政大樹)に同じことを言われていた。こっちはなかなか出番もなくて必死にもがいているのに、「全然、頑張ってない」「もっとやれよ」と言われていた。イラっときたというより、「そんな風に見られているんだ。こんなに頑張っているのに」と、がっくりしたのを覚えている。そして、この言葉をはね返すにはどうしたらいいか考えた。まず、自分が持っている全てをはきだそうと思った。自分の良さを知ってもらうために、いろいろな選手と積極的にコミュニケーションをとった。練習時間以外でも細かいことも含めてたくさん話すようにした。どういう考えでこうしているのか、自分がもらいたいパスのタイミングや、自分が出したいタイミング。表現は悪いかもしれないけど、ベテランの満男さん(元日本代表MF小笠原満男)やモトさん(元日本代表本山雅志)とかと感覚をすり合わせようと思い、試合にもほとんど出られていない若造が、くっついて歩き、自分を表現し、さまざまなことを吸収した。御飯も何もかも。ゴルフもできないのにチャレンジした。いいのか悪いのかは分からない。でも、とにかく自分自身を変えないといけないと思っていた。そりゃ、仲の良い同年代と一緒にいるのが楽だよ。愚痴も言いやすいしね。それでも、あえて行動を変えてみた。いろいろとがむしゃらにやっているうちに諸先輩から「頑張れていない」とは言われなくなったし、試合に出るチャンスも増えた。大樹さんからかけられる言葉は具体的な指示に変わっていった。変えるのは日々の積み重ねしかない。自分が高みを目指せているか。「チームのために」という言葉や、献身性をアピールすることで自分を守っていないか。大樹さんに指摘されたころのオレは、自分が納得するために知らず知らずチーム戦術に合わせて駒になろうとしていたんだろう。

自分でも気付かないうちに満足しちゃっているかもしれない。「分かっていない」とそっぽを向かず、厳しい言葉もいったん受け止めてほしい。頑張ってほしいからこそ、オレは同じようなことを言っている。みんなかわいい。まだまだこれから選手として楽しい時期がくるし、もっと上に行けると思う。だからこそ1日1日を無駄にしてほしくないと思う。プロの世界は頑張ったやつに必ず見返りがあると信じている。試合に出られなくても頑張っていれば必ず見てくれている誰かがいる。残り5分、「あいつ頑張っているから出してみるか」と思われる時が来る。チャンスはつかみ取れると信じているからこそ、日々頑張ることができる。このコラムに限らず、本人たちにも多少冗談めかしながらではあるけれど、同じように厳しいことを伝えている。それも一つの成長のきっかけになるかもしれない。そして、1人の変化がチームに劇的な化学反応をもたらすことだってある。「やっさん、うるせえよ」って言えるような結果につなげて「言い過ぎた、ごめん」って言わせてほしい。手のひらを返す準備はできている。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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