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Vol.15 富士市立高校/杉山秀幸監督

  • 2020.04.06

    Vol.15 富士市立高校/杉山秀幸監督

指導者リレーコラム

静岡県という激戦区で2019年度全国高校サッカー選手権静岡県予選では初の決勝進出。創部29年目にして高円宮杯JFAU-18サッカープリンスリーグ2019東海に初昇格などサッカー王国で快進撃を続ける富士市立高校。同校の監督でありながら2010年にNPO法人富士スポーツクラブを立ち上げるなど多岐に亘って活躍する杉山秀幸監督に話を聞いた。

ー法隆寺FCの倉内さんからのご紹介いただきました。

杉山 富士スポーツクラブを立ち上げて10年になるのですが、立ち上げたばかりの時にジュニアユースのチームの関係者と交流を持たせてもらう機会が増えて、その中で倉内さんと初めてお会いしました。それまではジュニアユースチームの関係者とは関わりが全くなく、特に県外のジュニアユース年代の方とは関わりがなかったので富士スポーツクラブの立ち上げの際に交流が増えた事がいいきっかけでした。

ー富士スポーツクラブを設立した背景をお聞かせいただきたいです。

杉山 僕1人で立ち上げた訳ではないので、いろんな背景があるのですが、自前で選手を育てていきたいという想いが1つありました。
高校の監督をやっているのでいろいろな地域の選手をお預かりするんですけど、それで試合に勝った、負けたということをやったとしても全く面白くないですよね。
富士市立高校での指導でも一貫しているのですが、「ゆっくりと、じっくりとボールを大事にしながらサッカーをする」という考えの選手を育てたいという気持ちがありました。

もちろんサッカーにおいて「試合に勝つこと」は絶対に必要なんですが、試合に勝つための「駒」のような選手を育てるという考えではなく、「サッカーを楽しむ」「サッカーをずっと楽しんでもらう」というサッカーとの良い関わり方を選手にしてほしいという考え方もあって、それを体現できる環境を作りたいと思ったのも理由の1つです。

また、Jリーグが始まってから街クラブなどが増えてきた背景で、ジュニアユース年代も選手の獲り合いが進んでいます。その中で保護者同士が「あそこのクラブは良い」「あそこはダメだ」という論争が出てきたり、クラブチーム同士でもそういった比較が出てきてしまっているのが非常にくだらないと思っていたんです。それに子供たちが巻き込まれてしまうのがすごく不健全だと感じたのが当時あって、僕らがスポーツクラブを立ち上げることによって地域に密着したクラブがどんどん増えていくことも良いと思ったんですよ。

ー設立にあたり長期的なビジョンは何かありましたか?

杉山 僕らは学校の中にスポーツクラブを作らせてもらったんですけど、教員という立場からこれからの部活の事を考えると、学校と行政と地域が一体化した、学校を拠点に回しているスポーツクラブが日本のスポーツ文化をこの後新たな局面に進化させていくには必要なんじゃないかなと思っているんですね。
ヨーロッパみたいにスポーツクラブが独立して、っていうのは日本では難しい環境ですし、学校を拠点としたスポーツクラブは滅多になかったので、一つのサンプルになればいいと思っています。ゆくゆくは部活動という物が形を変えて、「地域スポーツ」に移行していくのではないかと思っていたので、その一つの先駆けとなれればいいなと思って設立しました。

高校を中心とした複合型スポーツクラブを
立ち上げた杉山監督。
サッカー界の革新となる試みで
地域活性化を図っている。

ー富士スポーツクラブを立ち上げて10年が経ちますが、設立後の富士市立高校への反響は何かありますか?

杉山 富士市立に来る選手がここのところ増えてきた実感はありますね。
富士市立を強くする、結果を出すためだけにクラブを立ち上げた訳ではないですし、FC Fujiを下部組織として見ている訳でもないんですが、こんな事をジュニアユース年代ではやってほしいという話はスタッフと共有しながらやっているのが一つ要因かなと思います。
ただ、FC Fujiから富士市立に入らないといけない訳ではないですし、必ず入れる訳ではないので、希望した選手が富士市立高校を選んで入ってきてくれているという状況です。幸いにもここ最近は安定して理想とした選手が集まってきてくれているので、自然と結果も出やすくなってきているんじゃないかと思っています。リーグ戦のカテゴリーもプリンスリーグまで着実に昇ってきていて、選手権でも昨年は県予選決勝まで行くことができているので、チームの安定感というのは肌で感じているところです。
あとはサッカー以外の面で言うと、いろいろな年代の人が学校に集まるのでそういう光景を見ることができるのは良いことだと思いますね。幼稚園生から高校生、保護者が同じ場所に定期的に集まるというのはなかなかないことですし、他の学校にはない活気がグランドに生まれているのが良いと思っています。高校なのに高校生以外の方がたくさんいるという日常が、今後の日本のスポーツの在り方を考えるととても良いことだと思っています。

ー高校の部活は3年間のみの指導ですが、育成の観点では短いと思いますか?

杉山 短いですね。もちろん100人いたら100人が高校3年間で成長はすると思うんですが、子供の発育発達とか技術の習得レベルとか体の造りとかを考えると、高校3年間に当てはまった事しか指導ができない、できにくい部分が多いと思うので、そういう意味ではもっと下のカテゴリーから段階を踏んで指導していった方が、より高校3年間が良い成長期間になるのではないかと思っています。

ー下の年代から一貫して育成する事においてデメリットはあるのでしょうか?

杉山 メリットの方が大きいですが、1つだけあげるとすれば、チームの方針として小・中学校年代で試合に勝つ事を優先してしまった時に、その時の一番良い選手、チームを勝たせてくれる選手が短期的に見れば活躍できると思うんですが、長期的に見たときに良い選手にならない場合が出てきてしまう事ですね。
他の選手よりも成長が早く上背やスピードがある選手が、小・中学校年代で活躍できてしまうんですが、活躍できてしまうせいで「俺は上手いんだ」「俺はずっと活躍できる」といった勘違いがメンタル的に生じてしまって、人間性が育たないまま同クラブでカテゴリーを上げてしまう。そうすると3年後、6年後になってまわりの選手の体つきや技術が追いついてきた時に、急に試合に出られなくなり成長が止まってしまう事が起こり得るので、そこはデメリットになる可能性があると思っています。
なので、組織としての取り組み方次第では、一貫した指導というのはデメリットが生じる場合もあると思っています。
ただ、うちはジュニアユース年代で誰が良い悪いという判断や、試合に勝つためだけの方針ではやっていなくて、みんなを試合に出しながら、選手に応じて次のカテゴリーに上がった時により成長できるための準備をするような方針をとっています。

フットサルコート2面、
フルコート1面の充実した設備。
富士山も一望できる快適なグランド。

ーどういう選手に育てたいというビジョンはありますか?

杉山 ボールを扱う技術・スキルを持っていて、それをベースに色んなテクニック・戦術に順応できる選手を育てたいというのはありますね。技術・スキルは持っているに越したことはないですし、高校やその先に色んなサッカーがあるのでそこで柔軟に対応できる選手を育てたい気持ちが強いです。
富士市立のコンセプトでもある「ボールを大事にする」という一つの考えを選手も持ってもらえれば良いと思っています。

ー「ボールを大事にする」という考え方に至った背景や影響を受けた方はいますか?

杉山 自分自身の考え方でいうと、選手権の県予選決勝で戦った静岡学園高校の井田勝道監督(前監督)の影響は受けていますね。僕は教え子でもなんでもないのですが、一つのスタイルを貫く考え方や生き様は尊敬しています。
ただ、「ボールを大事にする」という考え方は昔から自分の中ではあったんですね。吉原商業高校時代(富士市立高校の旧名)まで遡るのですが、当時は女子が多い学校でサッカー部も少ない時は部員が12人とかで全然力も入れておらず、地区で一番弱い高校だったんですよ。なので、限られた選手の中でサッカーをしないといけないとなった時にいきなり「ボールを大事にする」というのは、技術・スキルも備わっていないからできない状況だったんですね。そこにすごくジレンマを感じていました。
その時に、いつ技術・スキルを身に付けたら高校年代で「ボールを大事にする」というサッカーができるだろうかと考えると、やはり中学年代までにできる限り技術・スキルを身に付けた方が良いし、それなら自前で育てた方が良い部分がたくさんあるなと思っていたので富士スポーツクラブを設立しようと火種がついた流れになります。

年季の入った「FUJI ICHIRITSU」 の壁。
ジュニアユース年代からブレない育成方針で
近年結果を出し続けている。

ー創部30年目、富士スポーツクラブ設立から10年目で選手県予選決勝進出という結果が出てきた訳ですが、結果が出た要因として感じている部分は何かありますか?

杉山 「試合に勝ちたい」「優勝したい」という気持ちの本気度が昨年は違ったと思います。
試合に勝つか負けるかという事が全てではないんですが、「本当に勝ちたいのか?」「本当に優勝したいのか?」という本気度、気持ちの差はあると思っているんですね。
今までももちろん勝ちたい、全国大会に出たいという気持ちが選手にもあったとは思うんですが、昨年の選手はその本気度が高かったと思っています。
その影響となったのがプリンスリーグへの参入ですね。ハイレベルなチームと年間を通して試合をする事で選手一人ひとりが少しずつ自信をつけていった結果、チームとしても「俺らでも戦える」「どうせなら全国で戦いたい」という気持ちが出てきたと感じました。
今まではカテゴリーが県リーグだったので、上のカテゴリーにいるチームと試合する機会も少ないですし、試合するとなるといきなり総体や選手県予選のトーナメントだったりするので、どうしても選手の気持ちとして「相手の方が強いな」「格上だな」という気持ちが出てしまっていたんですね。その時点で負けてしまっているし、勝ちたいという本心が薄れている状態だったんですね。
ただ、こればかりは上のカテゴリーに上がって選手自身が体感しないと変えられない部分だと思っていたので、プリンスリーグで1年間戦えたことが昨年の結果に大きく繋がった要因だと考えています。

ー選手権の県予選決勝の話を少しお伺いできればと思います。

杉山 結構スコアが開いちゃったんですけど、すごい楽しかったですね。勝ち上がっていかないと辿り着けないあの場所でサッカーができるってことは、なかなかないことなので良い経験になりましたね。勝ち上がるのが大変だった、という感覚はあまりなかったんですが、「楽しかった」「良い経験だった」という体感もありつつ最後に残るのは「悔しさ」だったので、それを次に繋げていきたいと思っています。

ー静岡学園と富士市立のサッカースタイルは似ていると思っているのですが、監督から見てサッカーの違いや特にこだわっている部分はありますか?

杉山 富士市立の方が少しプレースピードはゆっくりかもしれないですね。学園の方がスピードや速さが近代サッカーに近いと思います。テクニックとパワーとスピードが上手く融合している部分もあって、それが昨年の優勝にも繋がっているのだと思いますが、育成年代の中でスピードを上げたり、パワーを求めていくとミスが起こりやすくなるので選手のレベルが高いからできることだと思いますね。ただもちろん、そのレベルに我々も挑戦していかないといけないんですけど、まずは「ゆっくりボールを大事にする」ということのレベルを上げていければと思っています。スピードやパワーを先に求めてしまうと、一番大事なテクニックの部分が削がれてしまったりしてしまうので、段階を踏みながら進めていければと思います。

2010年に全面人工芝化。
取材時は新型コロナウイルス感染症の影響で
部活は休止中だったが、
「ボールを大事にするサッカー」を突き詰め、
練習から選手同士が切磋琢磨している。

ー今後の目標はありますか?

杉山 チームとしては全国大会に出たいという気持ちはあります。ただ、全国に出たからなんだという気持ちもあるので、自分たちがやっているサッカーがどれだけ通用するのかなという物差の中で少しずつ前に進められればと思います。あとはプリンスリーグの上の高円宮杯JFAU-18サッカープレミアリーグに行ってみたいなという気持ちもありますね。練習試合でプレミアリーグのチームと試合をする事はたまにあるんですが、リーグ戦という舞台で本気の戦いをしてみたいなという気持ちが強いですね。自分たちのスタイルをリーグ戦でも貫いていく中で見えてくるものが出てくると思うのでそれを追求できればと思っています。
ただ、色んな指導者から聞いている事は、プレミアリーグに行くとより強度も上がるし、スピードも上がるのでボールを大事にしているチームはそれができなくなってしまうという事です。
それで結果を残すためにコンセプトがブレてしまったりするという話を聞いているんですが、
そういった傾向がある中で、どうやったらプレミアリーグで「ボールを大事する」というコンセプトを貫いて結果を残していくのかという事に挑戦したいという気持ちがとても湧いてきていますね。その気持ちが強いので上のリーグに昇りたいと思っています。

あと僕らは「サッカーを楽しむ」ということを大事にやっていますが、まだ日本のスポーツ文化として「楽しむ」という事が誤解されている事があるのでそこを変えていきたいと思っています。
「おちゃらけてやるな」「一生懸命やれ」みたいな文化が根強くあると思うのですが、サッカーを楽しくやるという事はふざけてやるって意味ではないですし、スポーツの本質的な部分としての「楽しむ」を追求していきたいと思っています。これはもちろん選手自身が自発的に「楽しむ」という事を感じる事が良いと思っているので、指導者から押し付けるのではなくみんなで一つの文化として広めていければ良いなと思っています。
ただ、広めていくために結果は必要な事なので、チームとしてのコンセプトを体現しつつそれが結果として表に出ていくというのが理想だと思います。

ー次の指導者をご紹介頂きたいです。

杉山 岐阜県・FCV可児の野村次郎さんをご紹介します。2010年にNPO法人富士スポーツクラブを立ち上げ、ジュニアユースのチームを持ったことにより多くのジュニアユース年代の指導者と出会うことが出来ました。その中の一人が野村さんです。その中でもボールや選手を大事のする指導が魅力的な指導者です。現在はFCV可児から富士市立高校に選手も来てくれていますし、野村さんはじめFCV可児のスタッフの皆さんと仲良くさせていただいています。全国の多くの高校で活躍できる選手を育成し輩出されているので、是非その秘訣を教えてもらいたいと思います。また可児の地域に密着した活動を幅広くされているので、今後のビジョンもお聞かせいただけたらありがたいです。

<プロフィール>
杉山秀幸(すぎやま・ひでゆき)
1973年4月29日生まれ。
静岡出身。初任で富士市立吉原商業高校(現:富士市立高校)に赴任し、同校の監督に就任して21年目となる。2008年にはSBS杯国際ユースサッカーの静岡ユース監督を務め、2010年には総合型地域スポーツクラブ・NPO法人『富士スポーツクラブ』の代表を務めるなど校外での功績も輝かしい。2019年にはプリンスリーグ初昇格、選手権県予選では初の決勝進出を果たすなど「ボールを大事にするサッカー」でサッカー王国静岡に旋風を巻き起こしている。

text by Yasuhiro Takino

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