サッカー専門トレーナーX
J1チーム専属トレーナーを経て独立し、現在Jリーガー・欧州プロサッカー選手たちを中心に様々な種目のトップアスリートのパーソナルサポートを展開。これまで国内外のプロサッカー選手、約200名のコンディショニングに関わってきた経験をもとに、コンディショニングを多元的に追求し続けています。
コロナウィルスの影響で試合や練習が制限され、多くの人たちがもどかしさや不安を抱えるとともに、ストレスも溜まって来ている頃かもしれません。ストレスによって免疫力が下がり感染につながることもありますので、こんな時だからこそ瞑想をして気持ちを沈め、自己を静観することでストレスを解消していきましょう。
コラムVol.10「瞑想でパフォーマンスアップ!」を参考にしてください。
前回のコラムで紹介したように、『痛み』は単純な組織損傷に伴う知覚的なものだけでなく、情動的や認知的な影響を受け脳で統合して生み出される感覚です。
・「情動」=喜び・悲しみ・怒り・恐れ・焦りや不安などの感情
・「認知」=対象に対して、それが何であるかを判断、解釈する過程
情動を伴わない痛みは存在しないと言っても過言ではありません。つまり「ケガをした箇所だけを治せばOK」という生物医学的モデルでは、痛みを取り除くことができないと言えます。実は、ほとんどのケガには心因性疼痛が並行して進んでいきます。『痛み』とは“心理社会的背景を伴う情動的体験”なのです。
痛みと心理社会的な要因をまとめると、
① 認知要因
・痛みに対する注意を向ける:痛みに焦点づけられた注意は痛みへの警戒心を過剰にし、痛みの主観的な強度を高めてしまうこと。
・痛みに対する反すう思考:何度もネガティブな出来事を思い出し、悩み続けてしまうこと。
・痛みに対する破局的思考:不安や怒りの感情が起きやすくなり、出来事を否定的に捉えてしまう考え。
② 感情要因
・不快な感情の増強:痛みに対する苛立ちや焦りが増すこと。
・快の感情の減少:楽しさや喜びの感情が減っていくこと。
・感情抑制の困難化:湧き起こる不安や怒り、焦りの気持ちを抑えることができなくなること。
③ 行動要因
・活動量の低下:不安からリハビリなどのやる気がなくなる。
・活動の回避:不安から動かすことをしないようになる。
・過活動:やけくそになって動かし過ぎてしまう。
痛みに注意を向け、軽減したいと望むほど、頭の中は痛みでいっぱいになってしまいます。そのうちに、状況がどんどん悪くなる様子を想像してしまうなど不快な感情で頭がいっぱいになります。その恐怖から、痛みを予期して痛くなりそうな行動を回避することが増え、活動量が減少し、血流不足から組織の酸欠が起きたり、「なんとかしなくては」と焦り、無謀な活動をしてしまうことで交感神経が優位となり、毛細血管が細くなって結果、組織の酸欠が起きてしまうのです。
そうした一連の認知・感情・行動の悪循環サイクルが「痛みは治る」「痛みはなくなる」という思考ではなく、「リハビリなんてやっても意味がない」「もうどうなってもいいや」などとネガティブ思考を生み出し、痛みを維持・増強させてしまいます。そして、痛みに焦点づけられた注意は、痛みへの警戒心を過剰にし、痛みの主観的な強度を高めてしまうとともに、不安や焦りなどの不快感情も増強させてしまいます。
次回は、この悪循環サイクルからどうやって抜け出すかについてお話していきたいと思います。