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Vol.31 VfBシュツットガルトU-14&U-15 GKコーチ/松岡裕三郎

  • 2020.12.17

    Vol.31 VfBシュツットガルトU-14&U-15 GKコーチ/松岡裕三郎

指導者リレーコラム

良い日本人GKを育てたい、本場の指導方法を身につけたい、そんな思いでGK大国であるドイツに渡った。先の見えない状況の中に身を置く時間は決して短くなかったが、それでも周囲のサポートを得ながらブンデスリーガの名門、VfBシュツットガルトのGK育成コーチに就いた。そこで感じた日本とドイツにおけるGKに関する考え方や指導方法の違い、そこで学び、変わった自分について語ってもらった。

ーレッドブル・ザルツブルグU-16コーチの宮沢悠生さんからのご紹介していただいての登場です。宮沢さんとはどういうご関係でしょうか?

松岡 宮沢さんに初めてお会いしたのは、2019年1月に行なわれた、ドイツ、オーストリア、スイスなどのチームが集まっての室内での国際大会です。当時宮沢さんはザルツブグルグのU-15のコーチを務めていらっしゃったと思います。今年の冬も同じ大会でお会いしました。お互いに育成年代の指導をしているので、話のほとんどはそこでの指導のことになりますね。
 
ー松岡さんは同志社大学在学中に京都サンガF.C.と川崎フロンターレで指導者研修を受けて、一度、母校の鹿児島実高でGKコーチを務められたのですね。

松岡 大学卒業後にドイツに行こうと決めていたのですが、渡航費用を準備するために3月に地元の鹿児島に帰ってイタリア料理店でのアルバイトや畑仕事をしながら鹿実でGKコーチの勉強もさせていただき、半年後にドイツに渡りました。

ーなぜ、ドイツへ?

松岡 ゴールキーパーコーチ、指導者の勉強をするためで、行くなら向こうで指導者ライセンスを取ろうと思いましたし、チャンスがあればブンデスリーガのクラブでGKコーチとして働きたいという思いからです。僕が高校生の時にちょうど日韓ワールドカップがあって、準優勝したドイツのオリバー・カーン選手のプレーに胸をときめかせましたし、それ以前からドイツはキーパー大国とのイメージが僕の中にありましたし、行くなら本場ドイツで学びたいと思ったのです。

ードイツに渡られてからプレーもしていらっしゃるんですね?

松岡 指導者の勉強のために来ましたが、当時私は24歳でまだ体も動いたのでプレーもしてもみようと思って、シュツットガルトにあるフェールバッハというアマチュア・チームでキーパーとしてプレーしました。当時チームは7部リーグを戦っていましたが、わずかな勝利給も出ていたんです。ドイツに渡って最初の2年間は、午前中はドイツ語学校に通って学び、夕方からそのチームの練習に参加するか、日本食レストランでバイトをする生活でした。

ーそこからどうやって指導者の道に入っていったのですか?

松岡 1年目はワーキングホリデービザで行って、2年目は語学学生ビザで過ごして、3年目、指導者の勉強をするということで職業ビザが1年間降りたので、指導者ライセンスの講習会に通って勉強しました。4年目に日本人子供向けのサッカースクールを立ち上げました。取得した労働ビザの更新も頻繁だったのでなかなか大変で、先が見えない状況でしたが、スクール生の保護者の方を含めていろいろな方々に助けていただいて、最初4人からスタートしたスクール生も徐々に増えていきました。当時はそのスクールの指導に加えて日本食レストランでのバイト、それからフリーの指導者でもあったので、VfBシュツットガルトの育成GKコーチであるヴァルター・エシェンベッヒャーさんが運営するGKスクールでもコーチとして指導させてもらうようになって、何とか生活できるようになりました。そのヴァルターさんの紹介でVfBシュツットガルトのスクールのコーチもさせてもうようになり、そこではフィールド・プレーヤーの指導も行ないました。

ーGK大国のドイツでは、そもそもGKの技術論という点で日本と異なるところもあるのでは?

松岡 例えば、ドイツに来て選手としてGKトレーニングを受けた時、1対1の局面では、それまでの僕は手でボールを取りに行っていたのですが、こっちは足で行く、あるいは体でブロックすることが多くて、まずはそこで戸惑いました。そういう違いがほかにもたくさんあるのですが、やっているうちにドイツのやり方の方がしっくりと来るんですよね。指導者になってからも、ドイツの現場で行なわれている指導方法のほうが良いなと感じるようになりました。それは、「こうすべき」という理由がとても明確だからです。「こういう場合はこういうプレーをした方が良い。なぜならば……」と、なぜならば、の後に続く解説が本当に理にかなっているんです。それをしっかり理解しさえすれば、指導は逆にやりやすくもなると感じています。

ー1対1の場面での対応の違いのほかに、日本でのGK指導現場とは異なる理論や考え方はありますか?

松岡 僕がプレーヤーとして経験してきたキーパー練習はステップワークにかなりの時間を割くものでした。これは指導者になってから日本の育成年代の指導者の方に話を聞いても間違ってはいない実情のようで、動きの中からセービングする形の反復練習に時間をかけているようです。それは俊敏性に優れた日本人の特質を考えてのものであるようにも思いますし、そういうプレーは日本人キーパーの得意とするところだと思います。

ーしかし、ドイツではそうではない、と?

松岡 ドイツを含めてヨーロッパにおいては、俊敏性は日本人に劣るとしてもパワーやバネはあるので、一歩でダイビングする、1回だけステップを入れてダイビングする意識を持つように指導するのが基本です。それはこちらの選手のシュート・スピードが速く、またキーパーにとって厳しいコースに蹴るシュート技術を備える選手が多いので、ステップを複数入れると対応が間に合わないからでもあります。確かに、少ないステップでセービングできれば、そちらの方が効率的ですし、パワーを持ってボールに向かえますからね。ドイツにおけるセービング技術をとても大雑把に表現するなら「効率性がすごく良くて、それをすることでプレーにダイナミックさが生まれる」と、なりますね。

ーそういうドイツで当たり前のキーパー指導の理論を、もし今後、松岡さんが日本に戻って日本の子どもたちに指導する時は、また日本人に合ったものに変化させる必要がありますか?

松岡 細かい部分の指導においては、日本人の特性を考慮したものに変化させる必要があると思っています。しかし、プレーする場のレベルが上がれば上がるほど、シュートを打たれた時からセービングのために飛ぶ時間が短くなるのはドイツも日本も同じなので、やはりたくさんステップする必要はないですし、より一歩で力強くダイビングできるほうが、実践でのことを考えたらリアリティーのある理論だと思います。だから、効率性というものは日本で指導する際も意識すべき点だと考えています。

ー松岡さんの口からはたびたび「効率性」というワードが出てきますね。

松岡 ドイツでは技術的なものだけではなくて、戦術的な部分でも効率性を重視していると感じます。例えばポジショニングです。映像でしか見ていませんが、Jリーグの試合とブンデスリーガの試合を比較して感じるのが、日本人GKのポジショニングのズレです。同じ左サイドからゴール前に来るボールでも、ゴールラインに近い場所から上げられるクロスなのか、浅い位置からのアーリークロスなのか、あるいはペナルティーエリア内の深い位置からマイナス方向に折り返されるボールなのかによって、ポジショニングを変える必要があります。しかし、日本のキーパーはその差に応じた的確なポジションが取れていません。最初の時点で小さなズレであっても、その後に起こすべきアクションでは大きな違いとなった表れ、抑えられるボールも抑えられない、という事態を招きます。

ードイツ人GKと日本人GKによるポジショニングの差は、何が原因で生まれるのでしょうか?

松岡 それはドイツでは当たり前のように行なわれている「こういう局面では、キーパーはこういう場所に立ちましょう。なぜなら、その次に向かって来るボールはこういう角度から飛んでくる可能性が高いからです」という論理的な指導が十分にされていないからだと思います。良いポジショニングを取ることで、その後のアクションで余計なステップを踏む必要もなくなりますし、判断も早くなるという意味で「効率的である」と言えるのです。

ー「こう言う時はこうしましょう。なぜならば…」という解説は非常に細かく分類されているのですか? それはマニュアル化されているのでしょうか。

松岡 僕は他のブンデスリーガのチームのことは知りませんが、育成部門の評価が高いシュツットガルトにおいてはかなり細分化されています。マニュアルはありますが、あくまでも基本的な例です。なぜなら、ボールの位置、相手や味方選手の位置によって取るべきポジションはその都度変わり、それらすべてを挙げることは難しいですからね。

ーそういうマニュアルを初めて見た時の感想は?

松岡 「え~、こんなにあるの!」と、すごく驚きました。それをひとつずつ訳して頭に入れていきました。大変でしたけど、刺激的な時間でしたし、僕の頭の中もすごく整理されました。

ーいまのドイツでは、どういうタイプのキーパーが良い、と考えられているのですか?

松岡 当たり前ですが、失点をしないキーパー。どんな状況でもシュートやクロスを止められること、それが大前提。それに加えて、ビルドアップへの参加が求められるので、両足で正確にボールを扱えなければいけません。また、チーム戦術にもよりますが、コンパクトな陣形で戦うスタイルが多くなっている現在では、キーパーのポジションはより高い位置に取る必要があり、そのため、攻撃から守備に切り替わった時点で自陣ゴールに向かって素早く戻り、その激しい動きをしながら正確な技術も発揮しなければならないなど、キーパーにはより多くの役割やプレーが求められるようになっています。それから、その中で寄り良い判断ができるかどうかも大事になります。

ー松岡さんが所属するVfBシュツットガルトのアカデミーには、いくつのカテゴリーがあって、全部で何人のキーパー・コーチがいらっしゃるのですか?

松岡 シュテーガーさんが一番大事にしていたのは、選手やスタッフのモチベーションや感情、情熱でした。細かいことをあまり言わない方だったので、選手はのびのびとプレーできていたように感じました。私はシュテーガー監督からは個の能力をいかに引き出すか、というところで勉強させていただきました。通訳としての僕の仕事もやりやすいようにサポートして頂きました。また他方面で褒めてもらい、輪の中に入れたりする気配りも含めて、「監督のために頑張らなければ」と思える監督でした。

ーザルツブルクで、南野拓実選手と奥川雅也選手の通訳を務めていた時の監督は、ドイツ人のマルコ・ローゼ監督でしたね。

松岡 U-11からU-21まで18と20を除いて、全部で9カテゴリーがあって、7人のキーパー・コーチがいます。

ーいまの指導スケジュールはどうなっていますか?

松岡 いろいろなパターンがありますが、例えば土曜日に試合があって日曜日がオフで、月曜日から練習が再開するという場合で説明しますね。選手はまず朝学校に行って、8時半から10時半まで勉強して、そのあと、U-15からU-19までの4カテゴリーのキーパー計9人による合同練習を行ないます。これが週に3回、11時から12時までの1時間行なわれます。トレーニングの内容はそれぞれのキーパーの個を伸ばすためのメニューを組みます。そのあと、選手はクラブで昼食を取って、13時半からまた学校に行って、終わったら17時半からそれぞれのカテゴリーのチームトレーニングに参加します。そこでは30分から45分くらいのキーパー用のトレーニングをして、そのあと、チーム・メニューに参加するという形ですね。居残り練習はほとんどしません。

ー午前中のGK合同練習を指導するコーチは何名ですか? 松岡さんが担当するのはU-15の選手ですか?

松岡 指導を担当するのは僕と、U-17、U-19のキーパー・コーチ、それとキーパー育成部門を統括するダイレクターの4人です。担当はその都度変わります。U-15の選手を指導する時もあれば、U-19のキーパーを指導することもあります。ですから僕はU-14とU-15チームのキーパー・コーチではあるのですが、U-19までのキーパーのことは全員知っていますし、彼ら全員のストロングポイント、ウイークポイントを含めた情報はキーパー・コーチ全員で共有しています。

ー午前の1時間のトレーニングはキーパーだけが行なうのでしょうか?

松岡 いいえ、ポジションごとに行なわれます。フォワードならシュート練習とか、それぞれのポジションで必要なスキルアップのためのトレーニングを行なっています。

ーそういうトレーニングはほかのブンデスリーガ・チームのアカデミーでも行なわれているのでしょうか?

松岡 基本的にはやっていると思います。

ー18年の7月からVfBシュツットガルトのアカデミーで指導されるようになって3年目に入った今、自分の中で変化を感じますか?

松岡 キーパーの指導者として専門知識は増えたと思いますし、必要な人間性も学べましたし、またサッカー自体が常に進化している中で、キーパーに関する情報も常にアップデートされて、それを頭に入れているつもりです。選手はもちろんですが、指導者としても成長できる環境に身を置かせていただいているので、このクラブに入るまでの約10年間で身に付けたものをはるかに超えるものをこの3年間で身につけ、学べたと思っています。

ーいま育成年代を指導する上で大切にしていることは?

松岡 たくさんあります(笑)。でも特にと言われると、僕が担当しているのがジュニア・ユース年代で体も心も個人差が大きいので、それぞれの選手にあった対応をすることですね。持っている長所を伸ばす、短所を改善する、そうして個を成長させること。練習では選手のミスやよくないところを見つけて、指摘して、トレーニングで修正して、その修正したことを試合で思い切ってチャレンジさせること、そういうことを大事にしています。

ーこの先の目標は?

松岡 ドイツに来て11年がたちましたが、いずれは日本に帰りたいと思っています。そしてJリーグのトップチームのキーパー・コーチを経験してみたいですし、カテゴリーは問わず日本代表チームのキーパー・コーチにもチャレンジしたい。それはドイツに来た時と変わらない個人的な目標です。

ーでは、次の指導者の方をご紹介ください。

松岡 現在、鹿児島実業高校サッカー部の外部コーチを務めながら『FC Kajitsu U-15』の監督を務める柳崎祥兵さんを紹介します。彼は鹿実時代のチームメイトの一人です。

<プロフィール>
松岡 裕三郎(まつおか・ゆうざぶろう)
1984年10月8日生まれ。
鹿児島県出身。鹿児島実業高校では高校選手権3回出場、インターハイ1回出場、ともに3位に入賞の経験あり。インターハイでは大会優秀GKに選出。同志社大卒業後、Jクラブでの指導者研修を受け、母校・鹿実でGKコーチに。2009年にドイツに渡り、SVフェールバッハというアマチュア・チームでプレーしながら、11年からは同クラブの育成チームのGKコーチを務める。13年にシュツットガルトにて4~12歳の子供向け日本人サッカースクール設立。14年からはVfBシュツットガルトのスクールコーチ担当とヴァルター・エシェンベッヒャー氏のGKスクールでGKコーチも務める。同年11月にドイツGK指導者ライセンスならびにドイツ指導者C級ライセンス、17年にドイツGK指導者B級レベルの修了書取得。18年7月からVfBシュツットガルトのアカデミーチームのGKコーチに就任。

text by Toru Shimada

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