COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > ガンバ大阪・半田陸が戦列復帰へ。
「強化した肉体とプレーがどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみ」

ガンバ大阪・半田陸が戦列復帰へ。 <br>「強化した肉体とプレーがどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみ」

  • 2023.10.24

    ガンバ大阪・半田陸が戦列復帰へ。
    「強化した肉体とプレーがどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみ」

J.LEAGUE PRESS

高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa
photo by @GAMBA OSAKA

 チームの練習を横目にゆっくりと歩くことしかできなかった日々も。少しずつスピードアップしながら走ることに汗を流した日々も。さまざまな感覚を取り戻すためにフィジカルコーチと二人でボールを蹴り続けた日々とも、いよいよオサラバ、だ。7月14日の練習での受傷から約3ヶ月。戦列復帰を間近に控え、半田陸はとてもワクワクしていると笑顔をのぞかせる。
「素直に、サッカーができるのがすごく楽しみです。サポートいただいたメディカルスタッフのおかげで、今は身体も思うように動くようになったし、以前のように対人のところでの最後の一伸びというか、足が出る感覚も戻ってきた。そういう意味では強化した肉体と、プレーがピッチでどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみです」

プロになって初の長期離脱。ポジティブにリハビリと向き合った日々。

 クラブから左腓骨骨折のリリースが出されたのは7月17日のことだった。自身初のチャレンジとなったJ1クラブ・ガンバ大阪への移籍、そしてJ1リーグ開幕スタメンから約半年。3月の日本代表初選出を弾みに、チームでも試合を重ねるごとに右サイドバックでの輝きを大きくしていた矢先のアクシデントだった。

「7月14日の練習中、左足でシュートブロックをしたら『痛っ!』となって。その時は歩いてクラブハウスに戻れたので、そんな大きなケガだとは思っていなかったんです。でも、榎本雄介チームドクターに診てもらったら『もしかしたら折れているかも』となり、病院でレントゲンを撮ったら折れちゃっていました。後から映像を見返すと、シュートブロックの際に弾き返したボールがかなり遠くまで飛んでいったので、強いシュートだったとは思うんですけど、とはいえ、折れるほど?! と自分でも驚きました。ピンポイント過ぎるくらいのピンポイントで骨に当たってしまったみたいです」

「自分でも驚いた」のは正直な胸の内だろう。受傷した日の練習後も、病院に向かう半田と顔を合わせたが、松葉杖をついていたとはいえその表情に悲壮感はなく、むしろ笑顔でクラブハウスを後にしていたからだ。その姿は、検査結果が明るみになってからも大きくは変わらず、手術を終えた直後の彼に話を聞いた際も耳にしたのは前向きな言葉ばかりだった。

「自分でもびっくりするくらいネガティブな感情はないです。むしろこのケガを自分にプラスに転じられるように、もう一回、体をしっかり整えようと思っています。プロになって、自分なりに必要だと思うトレーニングはその都度やってきたつもりですけど、パーソナルトレーナーなどをつけていたわけではなかったし、もしかしたら、今回のケガは自分がより強くなるために、より戦える選手になるために、いろんなことを見直せってことかもしれない。だからこそもう一度、自分の体ときちんと向き合いながら復帰を目指したいと思っています」

ケガを治すだけではなく、よりパワーアップして戦列に戻ることを課してリハビリに向き合った。

 もちろん、半田に限らず、ケガが選手の心身に与えるダメージを想像すれば、ポジティブな言葉の裏にもさまざまな葛藤や戦いはあったはずだ。ただ「過去は取り戻せないからこそ、未来を自分で変化させてやる」という思いは、紛れもなく彼の本心だったと言い切れる。8月2日にギプスが外れ、本格的にリハビリを始めてからの約3ヶ月間もその言葉通りの毎日だった。

「基本的には大きな気持ちの浮き沈みもなく、日々、与えられるメニューを楽しみながら取り組んできました。これまでやったことのないようなトレーニングも多かったし、特にグラウンドに出てリハビリができるようになってからは、前より足の動きがいいなとか、走るのがスムーズになってきたなと実感することも日々増えていったので、そういう変化も楽しみにつながっていたんだと思います。それと並行して、自分の体への理解も深まり…といっても僕はもともとそんなに繊細なタイプではないので(笑)。正直、今も細かいところまでは感じ切れていないかもしれないけど、少なからずケガをする前より自分の体に耳を傾けられるようになったことは、今後の自分に活かしていきたいです」

順調に進んだリハビリの陰で。葛藤と焦りは我慢で乗り越える。

 唯一、気を揉んだのは、リハビリメニューの強度が上がるにつれて、左ふくらはぎにかつてない疲労感を感じていた時期だろう。前述の榎本ドクターによれば「手術の際、骨折した箇所にアプローチするためには、ふくらはぎの筋肉を触る必要性があったので、その影響で筋肉の動きが悪くなるとか疲労という症状が出るのは復帰の過程ではノーマルなことです」とのこと。それは半田も理解していたが、それまでのリハビリが順調に進んできたからこそ不安にもなった。

「田中さん(雄太/フィジオセラピスト/PT)のもとで強度を上げて走り出した頃から、左ふくらはぎの下の方に疲労感を感じることが増え…その時期は少しナーバスでしたね。もちろん、その都度、ドクターや田中さんには伝えていましたけど、『想定内の事象だから大丈夫だよ』と言ってもらっても、その時間が結構長く続いたこともあって心配にもなった。家に帰ってからもずっと左足の重だるさが気になってしまう、みたいな時期もありました。ケガの中身は違いましたが、長期離脱を経験した大(塚元)に、そういう症状が出ても大丈夫なのかを聞いたりもして…『そういう時期は自分にもあったよ』と言われて気持ちが落ち着いたこともあります。また、側で支えてくれている奥さんも…彼女はサッカーのことは全くわからないしそれが僕にとっては居心地が良かったりするんですけど、僕が家で『あ〜!』って感じになっていると決まって『今が踏ん張りどころだよー』などと声を掛けてくれたことも頑張る力になりました」

復帰を支えたメディカルスタッフの一人、吉道フィジカルコーチと。

 もっとも、左ふくらはぎに感じていた違和感は、田中PTの手を離れ、吉道公一朗フィジカルコーチのもとでトレーニングをするようになった頃から少しずつ小さくなり、10月6日に部分合流して以降は気にならなくなったと聞く。吉道フィジカルコーチも、足の状態を含めて太鼓判を押す。

「(田中)雄太PTのもとでリハビリをしている時に『左足の筋肉の戻りが少し悪いな』という時期もありましたが、両足の太さ、筋肉の状態が完全に揃うのを待ってから次のメニューに取り組むのでは、どんどん復帰が遅れてしまいますから。ドクターを含めた3人で陸(半田)の状態を共有しながら、雄太PTから『少し左足の筋力は戻りきってないけど、吉道さんに渡します』とバトンを受け継ぎ、『じゃあ、僕のところでもそこは意識してメニューを組むけど、補いきれない部分は引き続き、練習後のジムでの筋トレでプラスアルファをお願いします』みたいな感じで、いろんなことを同時に進められるようにコミュニケーションを図りながらメニューを組んできました。結果的にこの3ヶ月、リハビリ中の大きなエラーはなかったと考えると順調に進んだと言ってもいいと思います。これは、陸自身が将来に向けて自分が今後どうありたいかを描いた上で、せっかくリハビリをするならここを強化しながらやろう、ということにポジティブに取り組んでいたのもプラスに働いたはずです。僕のところで預かったときには、本当にしんどい時期は乗り越え終わった後だったはずですが、少なからずクラブハウスにいる時間は常に明るく前向きに、楽しんでリハビリに向き合っていたし、それは陸のメンタリティの強さがあってこそだと思います(吉道フィジコ)」

 その言葉を、そのまま半田に伝えると、リハビリには楽しんで向き合っていたとはいえ「実は、部分合流後は『やりたい欲』を抑えるのに必死でした」と笑った。

「吉道さんのトレーニングを経て、部分合流するくらいの時期になると、やれることも増えるし『復帰』をすごく近くに感じるので。自分としては『もうちょっとやれそうだけどな』って思うことも多かったし、なんなら14日の練習試合も出られるんじゃないか、って思っていたくらいです(笑)。ただ、はやる気持ちはメディカルスタッフを信じて、与えられるメニューをきちんとやるべきだと自分に言い聞かせて我慢だ、と。冷静になって考えたら、ボールフィーリングもまだまだでしたしね。おかげで、今は一時期懸念していた疲労感も全く感じずにサッカーができているし、日に日にボールフィーリングは良くなっています。あとはピッチで、試合で何ができるかだと思います」

チームの失点を減らすために、持ち味で勝負する。

「何ができるか」の部分で第一に描いているのは、チームの失点を減らすことにある。26節・北海道コンサドーレ札幌戦以降、複数失点を喫する試合も多い状況を踏まえ、まずは守備で力になりたいと語気を強める。

「守備も攻撃も一人でできることではないですが、自分の持ち味である守備範囲の広さを活かして、広範囲にスペースをカバーするとか、最後の局面で体を張って少しでも相手のシュートコースをなくすことはやり切りたいなと。特に、ここ最近は外から試合を観ていても、チーム全体として一時期のような球際や局面での対応が甘くなっている気がするし、以前は『やられそうだな』っていうシーンでも踏ん張れていたのに、今はそのままやられちゃっていることも多い。特にこの終盤戦は思うように複数得点を取れていない現状を考えても、チームとしてまずは失点しない、とか、そのために体を張る、踏ん張るというところに立ち返らなければいけないと思っています」

チームの失点を減らすために体を張る、踏ん張ることを徹底したいと決意を滲ませる。

 また「普段はあまりサッカーを観ることが好きじゃない」と話す彼が、必然的に観ることを強いられた約3ヶ月間で改めてリマインドしたのが『サイドバック』に課された責任だ。

「ガンバの試合や日本代表戦を観ていて感じたのは、サイドバックが相手のウイングの選手との勝負に上回れているチームほど、理想的に攻撃チャンスを作り出せているし、優位性を持って試合を進められているということ。逆に、ズルズルと相手に押し込まれてしまったら後ろに重くなってしまい、揺さぶられて、ゴールまで運ばれてしまうことが多い。じゃあ、いかにサイドバックのところで圧倒するかを考えると、やはり縦ばかりではなく、中への仕掛けも必要というか。今のダニ(ポヤトス監督)のサッカーでは、サイドバックが中に入っていくことはあまり好まれないですが、状況によってはそれを裏切って、中にも仕掛けていかないと相手も動かせないし、怖くない。そういう思い切りの良さはケガをする前から必要だと感じていたところでもあるので、継続して自分に求めていきたいです」

 今シーズンでいうと、ルヴァンカップ・グループステージ第3節・FC東京戦が、その理想に近づけた試合だったと振り返る。事実、この試合で半田は、対峙した東京の攻撃のキーマン、アダイウトンを完璧に封じつつ、効果的な攻め上がりで攻撃を加速させた。

「チームとして勝てていない流れがあった中で、今シーズン初めて、自分らしさを発揮できた試合という意味でも印象に残っています。僕は守備の選手だけに、点を取れたとか、攻撃に関われたことより、守備で相手に仕事をさせないことに喜びを感じるタイプ。だからこそアダイウトン選手に仕事をさせなかったことは自信になったし、スコアとしても3-0と、相手の攻撃をシャットアウトした上で加点していけたのも理想的でした」

 対して、苦い記憶として残っているのはルヴァンカップ・グループステージ第6節・セレッソ大阪戦だ。自身2度目の『大阪ダービー』でチームを勝利に導く決勝ゴールを叩き込んだ一方で、守備においては珍しく相手の左ウイング、カピシャーバへの対応に手こずるシーンが散見した。

「それまで左利きの左ウイングの選手とマッチアップした経験がほぼなかったので難しかったです。左利きの選手は(対峙する相手を)交わしてすぐにクロスボールを選択しやすいというところで対応が遅れ、クロスを上げられてしまうシーンも多かったですしね。もっと距離を詰めるべきだったし、それ以前に、もっと縦を切る守備とか、そこまで運ばせないようにするための対応は必要だった。そういう意味では得点したこと以上に、守備で後手を踏んでしまった悔しさが今も残っています」

『大阪ダービー』でのカピシャーバ封じを誓う。

 であればこそ、ケガからの復帰戦として照準を合わせてきた今週末のJ1リーグ28節・C大阪戦を前に、敢えてカピシャーバの名前を挙げて決意を滲ませる。

「ケガを治すだけではなく、強化することも意識してきた今の自分の体とプレーをピッチでどうリンクさせてプレーに落とし込めるのか。どうカピシャーバ選手を止めるのか。想像しただけで今からすごく楽しみです。あの時以来の『大阪ダービー』ということも熱を上げる材料になっています。またチームが苦しんでいる状況にある今、僕が入ることで何かしらの変化を与えることができれば、それは自分の自信にもなる。だからこそ、出場チャンスがもらえたら、過去の自分を超えるくらい、もっとボールを奪って、戦って、もっと前に運ぶ姿を示したいし、何としてもチームの勝利に繋げたいと思っています」

各世代別代表に名を連ねながら、今年の3月には初の日本代表に選出。更なる飛躍が期待される。

 それは、ケガをしている間も、変わらずに応援してくれたファン・サポーター、支えてくれた家族、仲間のためでもある。

「別メニュー中も、公開練習の時にはいろんな人から早く戻ってきてね、とか、待ってるよー、と声を掛けていただいてすごく嬉しかったです。僕にとってはガンバでの1年目のシーズンで、そのうち3ヶ月間はケガで離脱していたことを考えるとガンバのユニフォームを着てプレーしたのはまだ半年くらいなのに、そんな僕を待ってくれている人がいる、応援してくれる人がいる、と肌身で感じられたことは励みにもなったし『自分がガンバを勝たせてやるんだ』という思いも強くなりました。というか、ピッチに立つ限りは、絶対に応援してくれる人たちの期待を裏切るようなパフォーマンスは見せたくない。それをプレッシャーではなく力に変えて残りのシーズンを戦いたいと思います」

 取材を終えた半田が、ふと漏らした言葉がある。
「僕ってこんなにサッカーが好きだったんだと驚きました」
プロサッカー選手としてのキャリアをスタートして5年目。いや、もっと遡れば、幼少期からずっと、巧くなりたい一心でサッカーと向き合い、努力することを当たり前にしてきた日常を失って初めて『サッカー』の大きさを思い知ったという。

「サッカーから離れたことで、サッカーを始めた頃のような、サッカーが好きでたまらない自分を思い出せました」

 毎日、時間を忘れてガムシャラに、ひたむきにボールを追いかけ、できないことができるようになっていくことが嬉しくてたまらなかった、あの日々だ。そして、そのことは今、再び戦列に戻ろうとしている彼の背中を強く押している。
 いよいよ、半田陸が、ピッチに戻ってくる。

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

Vol.92 2024シーズン、始動。