教鞭をとりながら自身も現役でプレーを続け、ボールを中心にサッカーをするドイツサッカー「BoS理論」をもとに県内1位を目指す愛媛県八幡浜高校監督 兵頭さんに、現在の生活や指導法、生徒たちに夢を叶える道すじを示し続ける大切さについてうかがいました。
―現在の活動内容について教えてください。
兵頭 母校である愛媛県の八幡浜工業高校で教諭として勤務して8年目になります。
―これまでの経歴について教えていただけますか?
兵頭 八幡浜工業高校を卒業後、1998年に大分トリニティ(現大分トリニータ)に入団して、2年目にJ2リーグの開幕・昇格争いを経験しました。その後2000年から愛媛FCに所属しています。愛媛FCは初年度に四国リーグからJFLに昇格後、2005年にJFLで優勝しJ2に昇格しました。チームとともに成長し、たくさんの経験を積むことができました。
―選手としてJリーグの開幕を経験、リーグ昇格にも貢献されたんですね。教師の道はどこからですか?
兵頭 愛媛FCに来た時に教諭としての採用も決まったんです。このままさらにレベルの高いサッカーを追求したい気持ちと教諭として指導者の道を進みたいという人生の岐路に立った時に「どんな状況でもサッカーはできる」と置かれた状況の中で最善を尽くそうと、現役としてプレーしながら指導者としても歩む道を選びました。
―現役選手と指導者どちらかではなくどちらも、としたその理由は?
兵頭 単純にサッカーをやるのが好きで、教えるのも好きなんです。
サッカーは自分が思っていることをなんでもできるゲームです。その楽しさを体が動くうちは感じていたいですし、やりたいことを自分で考えてやれる、そういうサッカーを生徒たちに伝えていきたいという思いがあるので、現役の選手としても指導者としても、両方があるこの道を選んでいます。
―今のポジションはどこを?
兵頭 もともとはMFですが、チーム事情もあり今はディフェンスです。年齢を重ねて理解度が上がったからかゴールキーパー以外だったらどこでもできるかな。
今のチームでは後方が多いですが、前衛には前任校の教え子も、八幡浜工業高校の教え子もいます。うれしいですよ。
―八幡浜工業高校のチームに関わることになった経緯を教えていただけますか?
兵頭 愛媛に戻ってきた時愛媛FCで選手をしながら、今治工業高校で教師を始めました。そこから転勤した松山工業高校での8年でサッカー部のコーチとしてたずさわり、インターハイや選手権にも5回ほど出場しました。そんな時、母校の監督が交代するタイミングで監督として八幡浜工業高校に来ることになりました。
―監督として高校の戦績は?
兵頭 3年連続県大会3位です。5年前が準優勝。
地方の小規模校としてチームづくりをするにあたって、県外からいろんな方をお呼びしてるんです。それを継続してやっていて、少し成果がみえてきたかなというところで、これからがもっと楽しみです。
愛媛県は大きな私立高校がいくつもあり、やはりそういうところは生徒をスカウトしやすい環境がありますし、さらに県外に出て行く選手も多いです。指導者も少なく、活気がないと言われる状況かもしれません。
でも、僕はここでの指導を通して生徒たちと一緒に県大会優勝を目指していますし、できると思っています。
―1日のスケジュールはどのような流れでしょうか?
兵頭 住んでいる松山から、高校がある八幡浜まで移動時間がかかるので毎朝5時半には出ます。出勤も早めなので朝練をしにくる生徒たちを見ながら、学校の時間は教師として過ごします。16時から18時までは部活です。生徒の下校時間帯の電車の本数が少ないので、時間をしっかり区切った中で全体の練習を終わらせて、それ以降は自主的なトレーニングする生徒を見守ります。
でも僕も決まった電車には必ず乗るんです。小学生の娘二人が起きているうちに帰りたくて。9時半には一緒に寝ますね。この生活を7年送っています。
週末は高校の子供たちの活動がメインなので、それがない時に自分の選手としての活動を入れています。先生として午前中部活を見て、選手として午後から試合とかってできるときはそんな感じでやっています。
先日は僕の出ている天皇杯の準決勝J3の愛媛FCとの試合を生徒たちが見に来て応援してくれて、僕もチームの仲間もとても力になりました。本当に嬉しかったですね。
―指導している上で大切にしていることはありますか?
兵頭 子供たちにはずっとサッカーを好きでいてほしいなと思っています。その気持ちを持って練習に取り組んでほしいです。
サッカーをするための環境があるなし、試合に出るとか出ないではなく、もっと言えばサッカーをしたいだけじゃなく、なにかサッカーに関わっていたい、と思える人を1人でも増やしたいという思いが根元にあります。
―指導に関してですが、兵頭さん特有の指導法や戦術があるのでしょうか?それともチームの選手を見てチームの色を変えて育てる指導ですか?
兵頭 当初は選手のタイプを見て変えていたんですが、今は違うかもしれません。
私がA級ライセンスを取ったとき河岸貴さんからBoS理論を知りました。
ドイツのサッカーが取り入れているBoS理論によって思考や概念がガラッと変わり、短時間で見違えるような動きができるようになった選手たちを見て、自分はこのサッカーをみんなでやっていこうと思いました。
このサッカーありきで環境を整えて選手がやれることを自由にやってもらおうと。
―BoS理論。これは日本でもメジャーなものですか?少し教えてください。
兵頭 知ってるのはドイツサッカーが好きな人くらいなんじゃないでしょうか。ご存じの方は多くはないかもしれません。
簡単な説明になりますが、まず優先順位の1番はゴールにあります。ゴールを奪うためにボールに対して11人がそれぞれの立場で方向付けをする、なにをしないといけないか考えるということが論理的にまとめられています。
特徴的なのは局面の捉え方です。現状サッカーは4局面に分けて考えられることが多いです。
①ボールを保持している(攻撃)、②保持していない(守備)、③攻撃から守備、④守備から攻撃。この4種類。
それを2局面にとらえます。
ボールを持っているときはゴール目指すという「攻撃」、ボールを持っていないときはボールを奪うための「攻撃」。
「守備」じゃなくて「ボールを奪う『攻撃』をする」という概念で、それが僕にはしっくりきたんです。
―攻撃的な守備をするという意味でしょうか?
兵頭 そうです。全員でボールを奪うために運動量を上げてきます。他チームさんからも驚かれるほどの追いかけるチームができてきてると思います。全国レベルでも勝てる自信もあります。
―今後の展望はありますか?
兵頭 やっているプレーの精度をさらに上げて、全国大会の舞台で八幡浜工業サッカーをたくさんの人に観てもらいたいです。愛媛県での優勝を最低限のハードルにしたいですね。
そのためには僕自身も勉強して、生徒以上に成長しながら指導をしていきたいです。将来的には海外のサッカーを指導者として学びたいと思っています。できたら現地にも行ってみたいです。
―最後にこれは発信しておきたいことはありますか?
兵頭 地元にいても、田舎でも、がんばれば夢は叶う。地元愛媛からJリーガーになった自分のその姿を見せられる指導者でありたいです。
サッカーに限らず環境が整っているところに行くっていうのは、確かにひとつのメリットです。でもだからといって、その環境に行けないから夢を諦めるのかというとそれは違う。そうでない環境でもできるというところを目の前に選手たちと一緒に実現して、結果を出していきたいと思っています。
―貴重なお話をありがとうございます。次の指導者のご紹介をお願い致します。
兵頭 ゴールキーパー コーチジャパンの太田渉さんです。
<プロフィール>
兵頭 由教(ひょうどう よしのり)
1979年生まれ。愛媛県八幡浜市出身。
現在監督をつとめる愛媛県八幡浜工業高校卒業後、J2発足の年に大分トリニティ(現/大分トリニータ)に入団、Jリーガーを経験。地元愛媛に戻り愛媛FCに所属、プロ選手として活躍しながら教鞭をとり、サッカー指導者としてのキャリアをスタート。今治工業高校、松山工業高校でコーチを経験後、母校八幡浜工業高校で監督に就任、8年目を迎える。