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Vol.37 アサンプション国際中学・高校コーチ/足高裕司

  • 2021.06.10

    Vol.37 アサンプション国際中学・高校コーチ/足高裕司

指導者リレーコラム

長きに渡りガンバ大阪で育成の哲学を学び、中国・広州富力のアカデミーコーチとして海外挑戦も。プロの選手経験はなくとも、自分だけにしかない経験を還元したい。現在は大阪のアサンプション国際中学高校で指導にあたる足高裕司さんに、これまでの経験で感じたことや自らの中に起こった変化についてうかがいました。

―ガイナーレ鳥取でアカデミーダイレクターを務める畑野伸和さんよりご紹介いただきました。お2人のご関係を教えてください。

足高 2015年にA級ライセンスを受講した時、同部屋だった間柄です。全日程で計3週間一緒にサッカーや指導の話をして、考え方が似ていることもあって仲良くなりました。信頼出来る指導者なので、講習会以降も連絡を取り合ってて、自分の教え子の中にも鳥取でお世話になっている選手がいます。

―キャリアの出発点となったガンバ大阪では、どういった経験をされたのですか。

足高 小学生のコーチとして入りましたが、他カテゴリーのチームに帯同させてもらうことや、運営の手伝いをすることもあり、学ぶ環境がたくさんありました。ユースやジュニアユースの全国大会にも帯同させてもらって。自分の目や肌で感じる機会をいただいて、世界につながる選手の成長の過程を近くで見られたことは大きな経験でした。その後、ジュニアの監督もやらせてもらいましたが、全ての経験が今の自分のベースになっています。

―具体的に学んだことや得られたことというのは。

足高 育成で大切なことは、「良い選手」「良い指導者」「良い環境」が必要と教わりました。その全てがガンバにはあった気がします。中でも、1番は指導者の指導力を感じたことです。選手を変える力、問題を見抜く力と解決する力。日本でもトップレベルの優秀な指導者の方が周りにたくさんいて、一緒に仕事が出来たことは自分にとって何よりの時間でした。環境づくりに関しても選手によって飛び級をさせていて。中学生が高校生の試合に出たり、小学生でも中学生の試合に出してもらえていた。選手それぞれに適切な課題が与えられるような、常に必死で頑張らなくてはいけない環境があった。その環境にいるからこそ選手も伸び続ける。同じ環境に身を置いていたことは自分の財産として残っています。

―ガンバに入った当初から年数を重ねるにつれてご自身の指導にも変化はありましたか。

足高 クラブの指導者研修会で感じたことですが、同じ練習メニューでも指導者が違うことで選手のプレーや起きる現象が違うことがありました。教えることの怖さというか、これだけ自分の指導が選手に影響を与えてしまうんだと強く感じて、当時は自分の無力さも痛感しました。マニュアルがあれば誰でも出来る訳でもなく、やはり人だなと。本当にその場で出た課題を見抜けているか、果たして自分の言葉やアドバイスが選手のためになってるのかはすごく考えさせられました。今もまだ正解はわからないけど、その感覚は大事にしていて、「いつどの言葉を投げるか」、「どのタイミングで何を伝えるか」。その言葉によって選手のプレーが変わることを見てきたので。少しでもベストな形に近づきたい思いで指導をしてきました。

―怖さの中には選手と考えのズレが起こることにもあるように思います。意識するのはどんなことですか。

足高 選手が自分の言ったことに納得いかない顔をするのも見てきました。難しさはありますが、選手が不満を持っていても、何かが良い方向に傾けば選手も納得してくれます。ぶつかっても、後々気づいてくれる選手がいるかもしれない。やってみて、必要性を何年か後にでも感じてくれれば伝えた意味があります。自分としては「ぶれずに向き合う」、「信念を貫く」ことが大事かなと。サッカーも、指導も思い通りにいくことのほうが少ないと思います。だからこそうまくいった時の達成感も大きいのかと。指導者も選手も、問題解決能力が大事であると意識しています。

―2018年からは3年間、中国の広州富力というチームで指導をされていました。決断には勇気がいる大きなチャレンジだったと思います。

足高 指導者として自分の知識や世界を広げる意味で、武器をつくりたかった。ガンバにはプロの世界でプレーしてきた方がたくさんいて、その経験は自分にはない部分。対して自分が何を持っていたかというと正直語れることがない気がしていたんです。「とにかく何か違う経験をしなければ」、という気持ちがありました。異なる環境に飛び込むことで経験値が上がり、選手に還元できることもあるのではないかと。

―あまり迷うことなく決めたということでしょうか。

足高 海外でやれるのはまたとないチャンスだったので、お話をいただいたときは迷わず行きたいって思いが芽生えました。クラブや家族、いろんな方に了承を得られたことはものすごく感謝しています。ガンバ以外のチームでも良い選手を育て、良いチームをつくることができれば、それは自分の自信にもなるし指導者として一つレベルアップできるのかなと思い、チャレンジを決めました。

―異国の地での挑戦にはやはり壁もあったと思います。始めた頃を振り返ってみていかがですか。

足高 色々ありすぎて最初は面食らったというか(笑)。でもありがたかったのは、育成カテゴリーができて3年目のチームだったので、多少の土台はできていました。それでも通訳を通して指導する経験もなかったので、最初の頃はちゃんと訳せているかどうかもわからず。通訳を介すことで思いが伝わりきらないことも増えるし、時間もかかる。選手とまだ信頼関係もない状況で一から構築するという意味では、日本でやってきたことすべてがひっくり返されるような感覚でした。また、素直な子が多くて、それはきっとトップダウン式の教育の影響や文化の違いでもありますが、日本よりも指示を待っている状況は多かったです。自分で考えることをあまりせずに、こっちの言うことが絶対になってしまう恐怖もありました。

―信頼を得ていくためのプロセスはどんなものでしたか。

足高 これは中国でも一緒でした。中国の保護者もスタッフも、成果が出ればやっぱり信頼してくれる。子どもの成長は然り、目に見える結果が出れば信頼してくれるようになる。中国には外国人指導者が多くいて、どの国のサッカーや指導がいいのかはすごく見てる気がします。日本人スタッフがやったことに対して変化が見られた時、中国人スタッフも保護者も選手も受け入れてくれて、雰囲気や手応えをつかみ始めました。

―手応えを得るまでに至って、大事にしてきたこととは。

足高 1年だけだったら、まったく自信にならなかったと思います。言葉も伝わりにくいので映像を使ったりデモでみせたり、試行錯誤しました。多少語学の勉強はしましたが、語彙力はそんなにないので、単語単語でシンプルに本当に伝えたいことを伝える。今思えば、日本だといろんなことをごちゃごちゃ伝えてたなと。結局選手からするとこちら側が一番伝えたいことがわからない時もあったと思います。ですが中国に行って要求をシンプルに伝えるようになって、言葉の重みも感じましたし、「いかにわかりやすく伝えるか」が大事だとわかりました。相手に伝わってこそ初めての指導だなと。理解してもらいたい、相手に伝えようと必死でした。言葉が伝わる時は、その必死さが多少なりとも薄れてしまっていたかもしれない。日本で話すスタンスとはかなり真逆になりました。

―当たり前が当たり前でなくなり、指導においても変化があったのですね。広州富力の3年間で、最もやりがいを感じた瞬間はいつでしたか。

足高 チームに来て立てた目標を達成した時です。1つ目はオンザピッチ、オフザピッチ問わず良いチームになろうと。中国で盛んなスポーツは卓球や体操などの個人競技が多いように、「助け合う」ことや「仲間のために」って精神は日本より少ないと感じていました。個人の成長も大切ですが、その延長線上で協調生も育てたかった。2つ目は中国で1番になろうということ。自分が指導して最初に出た中国全土の大会で、0-5で負けた相手が山東魯能でした。広州恒大とともに2強と言われていたチームです。1番になるなら山東に勝つしかないと。ですが1年目は一度も山東に勝てず、優勝もできませんでした。

―かなり大きな目標を課したのですね。

足高 そうですね。ただ、大会や遠征を繰り返すごとに彼らの成長をすごく感じてました。そして2年目の冬に、初めて中国で1番になることができたんです。でもその時は山東が先に敗退していたので、直接対決はかなわなかったんです。3年目彼らが中学生になった時はコロナの影響で、予定されていた全国のリーグ戦などがほとんどなくなってしまいましたが、秋になって短期決戦の大会が開催されました。その大会で、準決勝で山東に勝って優勝できた時は、本当に達成感があって嬉しかった。選手のピッチ内外での成長も明らかでしたし、チームとしても良いチームになってたので。正直コロナによって、向こうでいつ日本に戻れるかわからない生活を送っていたので、向こうで頑張って良かったと思えました。

―優勝という目標もですが、大切にしたいと考えてきたチームワークが生まれたことはうれしいですね。

足高 本当に来たときと同じチーム?ってくらいの変化がありました(笑)そういうチームに携われて良かったと思います。自分は中国を離れることになりましたけど、先日も教え子たちから年代別の代表に選ばれたと連絡がありました。3年間で成長がみられたこともうれしかったですし、掲げた目標を達成できたことは自分にとって大きな自信になりました。

―現在指導されているアサンプション国際中学・高校も創部4年目の学校です。

足高 2017年に学校名が変わり共学となり、1年後にサッカー部が発足しました。現在中学で監督をしている山本拓弥さんが、もし日本に戻られるならと連絡をくれました。中国からの帰国を考える中で、これまでの経験を生かせるのであればやりがいがあると魅力を感じました。中高一貫校の6年計画で選手を育てようという学校なので、自分は中学の1年生を主に担当していますが、高校生も時々指導しています。部員は1学年20人弱の少数精鋭方針なので、少ない人数で指導を行き届かせるように徹底しています。学校と協力しながら少しずつ環境を整えて、2人の監督をサポート出来ればと思ってます。新設校ですが、少しずつ認知もしてもらって、いろんな学校がある中からアサンプションを選んで来てくれる選手がいる。選手のために何が提供できるか模索しながら、アサンプションに来て良かったと思ってもらえるよう他のスタッフと頑張っています。

―ご自身のこれまでの経験が生きている実感はありますか。

足高 具体的に何がとは言えませんが、いろんな考え方があることを受け入れられるようになったと思います。アサンプションにも競技歴の高いスタッフがいて、自分はどちらかと言えば指導歴が長いスタッフ。選手も個性がある中で、指導者にも同じことが言える。みんなが同じでなくて良い、いいところをどんどん伸ばして足りないところは埋めていこうとやっています。本学にはJFLのFCティアモ枚方の選手もコーチ派遣で来てくれています。現役の選手が来てくれると生きた教材があるので、選手も見て学ぶことができる。指導者もいろんな指導者がいて良いし、それを選手が多角的に受け入れられるようになれば一番良いですね。

―その視野の広がりはやはり中国での経験が大きく影響しているのですか。

足高 個別性とか特徴を大事にって考えを持てるようになったのも、もしかしたら中国に行った経験が生きてるのかなと思うことはあります。富力には様々なバックグラウンドを持った優秀なスタッフが多くいた。選手にしてもそれぞれに、出来ることと出来ないことがある。中学1年生は入り口の所なので、上にどうつなげるか、考え方やサッカーの基本的な技術を、個性を消さないように積み上げている段階です。ボールの大きさやコートの広さも小学生の時とは変わりますし、サッカーの全体像を教えながら必要な技術を少しずつ。出来ないことが出来るようになると楽しくなるし、毎日グランドに楽しみで来たいと思えるようにしたいです。それと、高校生も見る中で、上に進んだ時に必要になることを逆算して指導しています。

―今後に向けてはどんな目標を持っていますか。

足高 常に関わった選手を少しでも良くしたいというのは目標としてあります。良い選手、良い人間になった上で社会に出てもらいたい。そのためのベースを一緒に築いていきたいです。チームとしてもプロセスを大事にすることはもちろんですが、今後の財産になることは間違いないので高いステージを経験させてあげたい。結果至上主義ではないですが、高いステージを経験するには勝ち上がることも必要になってくる。それは自信にもなるし、負けた時の悔しさが次へのモチベーションにもなります。自分がどういう指導者になりたいかはハッキリとわかりませんが、これまで素晴らしい指導者に出会ってきた中で、自分の所で原理原則をしっかり伝えて幹の部分を太く出来る指導者でいたいと思っています。その先で高いレベルを経験してきた指導者の方々に自分の見た選手を見てもらえたらいいなと。選手が自分のところだけで完結するのではなくて、どのチームに行っても、どの監督の下に行っても活躍できる武器を身につけさせてあげられるような指導者になりたいです。自分のところを通過してその先で花が開くような。チームが変わっても国が変わっても、自分のやることは変わらず、常に選手に良いものを提供することだと思ってます。様々な場でたくさんの方にお世話になり今があるので、その感謝の気持ちも含めて、次の世代の選手への指導で還元していきたいです。

―ありがとうございます。それでは次の指導者の方をご紹介いただけますか。

足高 自分と畑野君の共通の繋がりで、上村健一さんです。人としても指導者としても魅力的な方です。

<プロフィール>
足高裕司(あしたか・ひろし)
1981年7月24日生まれ。
大阪府出身。関西外国語大卒業後、ガンバ大阪のジュニアコーチに。2011年からはジュニア監督を務めた。2018年からは中国スーパーリーグの広州富力でU-11~U-13の監督。2年連続で国内のトーナメントを優勝するなどの実績を残し、2021年より大阪のアサンプション国際中学・高校で指導している。

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