©VEGALTA SENDAI
ムードメーカーとは、絶対チームに1人や2人はいなきゃいけない存在。つくるものじゃないけど、そういう選手が活躍とか試合に出るとチームの士気も上がるし、練習とかロッカールームの雰囲気とかもやっぱよくなる。ムードメーカーとふざけているのとは全く違うし、そこが難しいところかなとは思う。ふざけて明るい雰囲気になるのは全くの別物。ムードメーカーかどうかという視点であまり人を見ていないけれど、「誰がムードメーカーか」と聞かれれば最近でいうと陸斗(鹿島DF広瀬陸斗)かな。一緒にしてはいけない選手だけどモトさん(元日本代表本山雅志さん)もかなりでかい存在だった。全然タイプの違うムードメーカーだけどね。共通しているのは明るいこと。どんな練習や試合もネガティブにとらえない。それはあえてやっているのか本気で思っているのかは正直分からない。モトさんに関してはあえて言っている時があるなとは思っていた。陸斗はムードメーカーとふざけているやつとの線引きが難しいタイプのムードメーカー。すごいところは自分の悔しい気持ちをちゃんと言うし、試合に出られないときも出られないなりにチームのために頑張るし。そういう選手はすごく大事。いま試合に出て活躍している。去年1年間試合に出られず悔しい思いをして、ポジション争いに勝って試合に出ているから、そういう選手がいるってことはやっぱりいい。みんな手本にしやすいし。自分のためっていうより、チームのために声を出したり、暗いときに誰よりも早く感づいて明るい声がけをしたりとか。ベンチにいてもいなくても。そういうのを気付くのはすごく早いなって思っていた。分かりやすく例を挙げると、試合に負けたあとに暗いままスタジアムを去るのか、ポジティブな声をかけて前を向いてスタジアムから去るのかでは全然違う。今ベガルタは結果が出てなくて、何が正解か何が駄目なのかってみんな頭の中でうまく整理できていなくて。こういうときに「ここが良かった」とかポジティブな声をかけるだけでも「あ、これは良かったんだよな」と再認識できるし、そのプレーを続けていこう、磨いていこうと前向きにもなれる。反省して修正しないといけないことも、みんなで話せる雰囲気をつくるのが分かりやすいムードメーカーだと思う。
ちなみに、よほどの楽天家じゃない限りムードメーカーが一番メンタルをやられると思う。自分が悪いプレーを続けていても、チームに必要なことがあったら言わなきゃいけないときもある。誰よりも沈んでいる雰囲気に敏感で、気付くからこそ声を出せるんだよね。早く気付くからこそ先にダメージ受けている。敏感になればなるほどダメージ受ける。最初にネガティブに捉えて、周りがそうならないように声を出している。オレは結構ポジティブに捉えるほうで、悪いときこそ前向きになっちゃっているからたぶん気付けない。だからメンタルも大丈夫。「ムードメーカー」とひとくくりにできるものでもなくて、その人その人のキャラクターってある。ベガルタ仙台のムードメーカーというと、真瀬(DF真瀬拓海)、林くん(GK林彰洋)、佳貴(MF松下佳貴)の3人の顔が思い浮かぶ。
真瀬は声じゃなくてプレーでのムードメーカー。がむしゃらにやる。ミスもするけど闘い続けるプレーが、結果としてチームにいい影響を与えている。へこたれずに常に起き上がって向かっていくという形でのムードメーカーだよね。
林くんはずっとしゃべっている。声のムードメーカーだったら林くんかな。試合中のピッチ、ロッカールームも含めてずっとサッカーの話をしている。自分の経験も交えて「こうした方がいいよ」とか、聞き手が半分ぐらいしか消化できないんじゃないかと思うぐらい話している。盛り上げることも話すし、一番声をかけていると思う。試合前も試合後も。要するにいついかなるときもしゃべっている。海外も経験しているし、みんなどんどん聞いたほうがいいと思う。オレは3割ぐらいしか聞いていないけどさ。そういうところはやっぱりキーパーだからかな。密なコミュニケーションを取る。後ろの選手って最初の一歩でだいぶ変わるから、そういうのをすごく大事にしているんだろうな。不安を取り除くというより、シュートを防ぐためにできる限りのことをしておきたいという発想なんだろう。たまに前日のことを再確認するときもある。なあなあにはしたくないんだろうね。
ふざけているのか明るいのかの線引きが難しいっていうのに一番当てはまるのが佳貴。あいつもいろいろ考えて話したりいじったりしていると思う。ロッカールームが静かなときは佳貴がしゃべっていないときで、騒がしいときは佳貴がみんなをいじり倒して笑っているとき。自分も若い頃さ、そうやってなんでもいいから上の人に声かけられるだけでもうれしかったな。オレは誰かをいじっている佳貴をいじるのが楽しい。これはふざけている部類になるんだろうね。でも、それはロッカールームだから。グラウンドではそういうことはしない。グラウンド内ではミスしてもポジティブな声を出して動きを止めないようにする、いいプレーはちゃんと褒める、ミスが続けば「もうちょっとちゃんとやろう」と引き締める。グラウンドの中ではそういうのがいいムードメイクにつながる。佳貴は本当に周りへの気遣いができる。だからいち早く気付くし、きっと、一番傷つくタイプだよ。たまにはフォローしてあげないといけないな。
チームはなかなか勝てずにいても、今回挙げた3人以外にもいろいろなムードメーカーがいて、オレたちは前を向いている。早く結果で応えたいね。
遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。