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Vol.22「卒業」

  • 2024.03.07

    Vol.22「卒業」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

3月といえば卒業。とはいえオレは高校卒業前の1月から鹿島のキャンプに合流していて、「まだ高校生なのにプロとサッカーやってるわ」って不思議な気分だったね。卒業式にも出ていない。ちょうど鹿島もオリベイラ監督になったばかりで、何か変わろう、タイトルを取らなきゃみたいな使命感を持って一から作り直しみたいな状況のところに入っていった。フレッシュな体と気持ちでプロの世界に飛び込み、卒業というより新たなスタートという感じだった。もちろん卒業式にも出られなかった。卒業式どころか、運動会や修学旅行などの学校行事にもずっと参加できなかった。中学校のときは年代別代表と日程がかぶって、「代表休む。どうしても修学旅行に行きたい」と訴えて塩釜FCの小幡忠義監督にぶち切れられた。で、行けていない。修学旅行が近くなるとクラスみんなで計画立てるじゃん。オレは行けないのが分かっていたからその中に混ざれなくて、先生の椅子に座ってわいわい盛り上がる同級生を見ながら疎外感に包まれていた。同級生とディズニーランドとか行きたかったな。そして、ユース世代だった高校のときも何かの公式戦とかぶった。懲りずに訴えたら、「康はサボったって感じでみんなには言っとくから行ってこい」と送り出してもらえた。高3の春だったと思う。関西方面に行った。細かいことはほとんど覚えていないけれど、クラスメートと一緒に行動するのがすごく楽しくて達成感がものすごかった。帰ってからの練習はサボり明けということで、ニコニコしながら水くみから出直したね。そういえば高校の入学式も行けなかったな。緊張よりも環境ががらりと変わることにわくわくしていたのに、代表の遠征か何かで1~2週間ほどしてから学校に行ったら、いろいろとグループができている状態でなんとなく気まずかったことを思い出す。

サッカーでプロを目指していたらそういうことはほとんどできなくなるってことは、鹿島に入ってジーコから「サッカーを本気でやっているなら、いろいろなものを犠牲にしなきゃいけない」って聞いて、改めて感じたところ。「それも仕方ないことだし、良かったんだな」って思うようになった。結果としてプロになれたから逆に幸せなんだろう。楽しい思い出とか青春を犠牲にしないとプロにはなれない。オレは高校のとき修学旅行に行っちゃったけど、基本的にはストイックにサッカーに打ち込み続けた人たちの世界だ。

鹿島からベガルタ仙台への移籍も、ある意味、卒業と入学みたいな状況。悲しさもあったけれど、わくわく感が強かったな。当時、交流があったのは恭平(吉野恭平)しかいなくて緊張もした。でも、地元に帰るし初めての移籍というのもあって、なおさらわくわく感が勝っていた。

選手としての卒業はイコール引退だよね。その卒業のタイミングって難しい。何が幸せか、どれが正解かは分からない。長くやるのもいいし、引退を自分で決められることは幸せなんだろうな。岡崎さん(元日本代表FW岡崎慎司)の引退には驚かされた。まだまだオファーはあっただろうし、最後はエスパルスで終わるという選択肢だって選べたかもしれない。でも、あえてその道を選ばなかったところがすごく格好いいと思った。

これまでに異色の引退に驚いた選手は2人いる。うっちー(元鹿島DF内田篤人)と満男さん(元鹿島MF小笠原満男)だ。うっちーとはシーズン前に「今年1年頑張ろう」と話していたのに、2020年の途中で引退しちゃった。うっちーの中で多分、自分が先発で出た試合で思ったよりできなかったから引退決めたはず。そこで粘らないんだと思ったし、そういう引退もあるのかと。一つの試合で全部決めた。しかも、最後の試合となったガンバ戦は、終了間際のラストプレーでワンちゃん(元鹿島、現柏DF犬飼智也)の得点に絡んでいる。なんだよ、まだまだできるじゃんって思った。でも、あの人の中では「もうできない」っていうのがあったんだろうな。満男さんは突然だった。絶対まだやれただろうに、痛みとかいろいろ隠す人だからあれだったけれど、まだまだやってもらわないと困ると思った。勝つ戦いを知っていて、勝てるパーセンテージをどんどん上げていける人なのに、誰にも言わずに引退を決めていた。誰よりも負けず嫌いだから試合に出られなかったことが相当悔しかったんだろう。あのとき、オレは満男さんにキレたんだよ。「逃げんなよ!」って食ってかかって、めっちゃ泣いた。

サッカーをやれていることって幸せだよ。つらいことしかないけど、つらいことが楽しくなってくる。壁ができると楽しくなる、どうやって乗り越えていくか、乗り越えたらさらにいい選手になるだろうとか常に考えている。ちなみに、今オレの前に立ちふさがる壁は年齢だ。「ベテランベテラン」って言われるのがうるさくてたまらない。いちサッカー選手として見てほしいし、みんなと一緒。ベテランというくくりにされたくなくて反発している。「練習量が多いからちょっと調整する」って言われると「一切しなくていい」って返している。全部一緒でいい。みんなと同じ扱いでいい。自分の中で危なそうだったらセーブするし。基本的に抜けたくない。ベテランって言われるのも嫌だし、調整を別にされるのも嫌だ。周りには年齢で判断する人もいるだろう。オレは年齢はただの数字としか思わない。それを証明しなければならない。多分、オレと同年代のサッカー選手はみんなそう思っている。だから試合会場で会うと気持ちが上がる。開幕の大分戦で元ベガルタの長澤駿と会って「いつまでやれるか分からないけどうちらも頑張ろうな」って話してた。昔は同年代に対してライバル心が多かった。「あいつに負けたくないからバリバリやらないと」って。今でももちろんそういう気持ちはあるんだけど、会ったらすごく話すようになったな。おじさんなのかな。年齢なのかな。みんな頑張っているから励みになるね。このクラブでJ1昇格を果たし、J1でプレーしたいと思って1年1年をがむしゃらにやっているから、自分の「卒業」時期なんて考えている時間はないな。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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