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Vol.18 イルソーレ小野FC監督/今村嘉男氏

  • 2020.06.04

    Vol.18 イルソーレ小野FC監督/今村嘉男氏

指導者リレーコラム

強豪チームの多い、全国屈指の激戦区である兵庫県で、兵庫県中学生サッカー選手権大会U-15優勝や高円宮杯全日本ユース(U-15)サッカー選手権大会関西大会3位など、2002年のチーム創設から現在まで輝かしい成績を残すイルソーレ小野FC。サッカーの魅力と並行して人間的な魅力も育むといったチーム理念の下、多くの選手を育てている今村嘉男監督にお話を伺った。

ーご紹介いただいた北海道コンサドーレ札幌アカデミーサブダイレクターの青山剛さんとのご縁について、お聞かせください。

今村 僕が以前指導していたチームで、当時青山さんが指導していたチームに練習試合をお願いしたことがきっかけで仲良くなりました。頻繁に会うことはできていないのですが、一緒にバルセロナまでサッカーを視察に行ったりして、青山さんがFCFujiを経てコンサドーレ札幌に行かれるまでお互い切磋琢磨している感じです。対戦していても勝敗だけではなくサッカーの魅力でも負けたくない数少ない相手と意識してしまいます。好敵手のような存在でもありますが、人間力があり人と人を繋ぐ方なので、青山さんにはすごく感謝しています。
 
ーチーム設立に至った経緯をお聞かせください。

今村 僕は高校を卒業してすぐに、小中の出身チームである神野FCで指導者を始め、2001年頃まで在籍しました。その後、小中一貫で自分の理想を求めてやりたいという思いもあり、一から新しいチームを作ろうということで、代表の藤原浩之と共に兵庫県小野市でイルソーレ小野FCを立ち上げました。
最初にジュニアユースを作って、その何年か後に小学生チームができて、その後未就学児のキッズチームができました。今は卒業生を中心に社会人もあり、あとは小野と三木にスクールがあります。チームの設立から18年経ちますが、いろいろな世代の関わりができる状態になってきました。
現在ユースチームはありませんが、子どもたちの夢舞台として全国高等学校サッカー選手権大会がある事、大学進学の力になれるかという事もあってユースの設立には慎重に考えています。ただユースが無い現在でも中学生が小学生を見てくれたり、社会人が中学生を見てくれたりといろいろな年代が関わりあってくれていて、こうしたことはサッカー以外の面でも大事なことだと思っていたので、それは形になりつつあるので嬉しい所ではあります。
クラブにユースチームが無いので、これまでリレーコラムに掲載されていた富士市立高校とFCFujiやFCV可児と美濃加茂高校といった中高年代の繋がりはすごく羨ましく思っていますが、僕らは僕らなりにサッカーの魅力的な部分にはとことんこだわっているので、高校では上手さや自分の魅力を出すだけではなく、そのチームや環境に合わせた中で生き抜くことも楽しんでやってほしいなと思っています。
高校やユースでは、イルソーレで小中とやってきたことを前面に押し出してできるような環境で全員がやれるわけではないので、身をおいた環境の中で楽しんでやっていく事が大事だと思っています。ちょっと我慢しながらでも自分の味を出しながらという部分はすごく大事で、プロに行っても監督が代わればそこでやるサッカーも変わってくるだろうし、そこで言うことだけ聞いていてもだめで自分の味も出さないといけません。そういうタフさや粘り強さは高校年代で伸ばしてもらいたいと思うので、それまでに選手が技術やうまさ、センスの部分で足りないなと思わないようなところまでは育てて、その先のことでは高校年代の指導者にタフにしてもらうという考え方でやっています。
現在チームには中学生が約90名、小学生が各学年10名前後で合計約70名、キッズが約10名で社会人が約20名在籍しています。練習は水曜日は全カテゴリーが同じグラウンドで、他の曜日では別々の場所で練習していて、僕は中学3年生のトップチームと1年生、あとは小学生の監督もしています。
水曜日には中学生が自主練習をしている横で僕が小学生に教えていて、土曜日は中学生の練習や試合が終わった後に入れ替わりで小学生が練習しているのですが、中学3年生対小学6年生というような小中合わせた紅白戦をすることもあります。もちろん中学生が小学生を圧倒しますが、中学生はうまいなとかすごいなといった感動や驚き、力の強さなどを実感できるのも年代を超えて行なう良さですし、そういうことも大事だと思っています。
ブラジルなど海外では空き地でも近所の子どもが集まってサッカーをしていたりして、同じ学年だけで集まってするという感覚はないと思います。年上の子にやられながらも食らいついたり、年下の子がプレーしやすいように気を配ったりするなどということはサッカーでもサッカー以外でも大事だと思っていて、今ようやくチームがそうなってきたと感じています。

ースタッフ間で情報の共有やコミュニケーションなど気をつけていることはありますか?

今村 チームのスタッフはサッカーが専門の専属コーチは私とGKコーチの灘順平の2名で、社会人をしながら山尾吉史、清水健太の2名のコーチ、トップチームに廣田晴彦、代表の藤原も中学2年生を見ています。あとは卒業生で仕事や学生をしながらコーチをしてくれているスタッフが各カテゴリーの練習を見てくれていますが、僕たちが教えていた卒業生が指導者になって戻ってきてくれているので、熱中症など選手の安全管理やチームのコンセプトなど大切なところは分かってくれています。
そうした中でコーチにも失敗を恐れずにやってもらいたいので、サッカーのトレーニングで逐一こういう風にしてほしいとか練習を止めて僕が入っていくということはなくて、自分で決める自由や失敗する権利はコーチにもあると思うので、自由にやってもらっています。
これはスタッフに対してだけでなく、選手にも同じ思いなのですが、預かった選手にはとにかくサッカーを楽しんでほしいと思っていて、選手にもサッカーは11人ではなく22人でやるスポーツだとよく言っています。たとえば一流選手が一人でドリブルしていても誰も感動しないし本人も楽しくないのですが、相手選手に囲まれて3人4人と抜いて行くことでそこに感動が生まれ、相手がいるから楽しいし人も感動するということをチームでは話しています。選手には相手が来ることが楽しくてしょうがないとか相手の存在が自分を引き立たせるということを頭でも身体でも理解して欲しいですし、そういう状態にしてあげることがサッカーを楽しむことに繋がっていくと思っています。相手とのスリルを楽しむために、テクニックを磨いたり駆け引きや一瞬のひらめきが大切です。
そういったことを含め、3年生の最後は自分自身で決断することを楽しんでほしくて、それが失敗でも成功でもそれ自体が楽しいことだと話をしています。グラウンドの内外問わず失敗する事はありますが、今は世間的に失敗できないような雰囲気になってしまっているので、世間の流れには流されたくないという思いがあります。チームや組織の雰囲気は選手だけでも指導者だけでもなく、皆がチャレンジできるような雰囲気が一番だと思っています。周りに良く見せたいというのは僕にもあるにはありますが、チームの犠牲になってその子の個性がなくなるというのは嫌なので、凸凹していたり棘があったりするのも個性だと思うし、そういう選手が僕は結構好きだったりします。中学生なので多少の悪さをすることもあるだろうし、それを全くダメとするのではなく、僕たち大人が謝って済むことならそれはそれでいいこともあるのではないかと思っていて、表向きだけ綺麗に見せるとか、世間の目を気にしてがんじがらめにするというのは嫌なので、ぎりぎりのところで選手の角をできるだけ取らないようにしたい。個性があった方が魅力的だなと思っています。

ー選手の個性を認めるには、選手を信じることも重要ではないですか?

今村 そうですね。それは選手が自分自身を信じることにも繋がると思います。今は新型コロナウイルス感染症の影響で活動ができていませんが、休止になる前に選手たちには心配するなと言っています。自分たちが大事にしていることなのですが、自分の中にコーチがいて、自分で自分をうまくすることを楽しもうということでやってきているので、こういう状況でも他の選手よりもうまくなれると言っています。自分たちはサッカーを楽しんでやってきているから、自信を持ってこの状況も楽しむことができると思います。昔はこちらから選手に「これがうまいチームなんだ」と仕向けるところがありましたが、今は選手が自分でうまくなろうと思ってトレーニングをしてうまくなってきているので、家でも自分で考えて自主練習すると思うから大丈夫と話しています。
やはりこういう状況になれば普段の取り組みが大事になると思っていますし、基本的には彼らを信頼していて、各自が自分で自分のやりたいことを今やっている状態だと思います。体力はもちろん落ちると思いますが、頭の中でのイメージやサッカーの個人的な技術などはこの期間に伸ばせると思っています。

ーそうした指導の考えはいつから持たれていたのですか?

今村 昔は僕も自信過剰と言いますか、自分のチームのサッカーが全てだとやっていた時期もあったのですが、青山さんと出会ってFCVの野村次郎さんをはじめFCFujiの池谷哲志さんなど、色々な魅力的な方と繋いで頂いて、楽しくなったり幅を広げてもらった感じがあります。また、僕が選手時代に指導者に受けた影響や経験も大きいです。僕も小学生の時は強いチームでサッカーをしていましたが、小学生ながらにチームの為に勝たないといけないと思っていたし、サッカーを楽しむという感じでもありませんでした。反対に中学と高校では自由にやらせてもらったので、その経験も今に繋がっています。僕が中学生の時のコーチが、今一緒にチームを運営している代表の藤原なのですが、僕が指導者として中学生チームに戻った時も藤原が監督としていたので、そこでも自由にやらせてもらいました。選手としても指導者としても僕自身が藤原に成功も失敗もたくさん経験させて貰ったのが大きいです。
それから、僕自身がそうなのですが、人間は基本的に楽しいと思ったことしか本気でできないと思っています。能力のある選手はやらされてもこなすことはできるかもしれませんが、それで本当にうまくなる選手は少ないです。楽しいなと感じたり、うまくなれるなと思えば自然と練習するので、選手にも楽しみを感じながらやってほしいなと思っています。
私は魅力的なサッカーをしていたら選手も魅力的になると思っています。ただ昔はこれがイルソーレのサッカーなんだ、これがうまさなんだと全面に私の価値観を出していましたが、最近はそれよりも選手一人一人がどうありたいかといったことの割合を増やしていかないといけないと考えています。

ー選手が良さを発揮しやすいようにしてあげるのですか。

今村 チームの魅力も結局は選手が中学3年生になったら、自分たちでどんなチームにするか、自分たちの特徴は何かということで大きくずれることはありませんが、年毎にアジャストしてチームができている感覚です。例えば前に強い選手がいる年は速攻が多くなったりしますが、それも自分たちの良さだし、それが例年のチームより多いのは良いことだと認めてあげる。昔であればそれはうまくないと変えさせていたかもしれませんが、今は選手一人一人の個性がチームに出て試合に活きるようにするのが大事という感じになっています。
毎年、最後の大会になるとチームが出来上がってきて内容は良くなるので、そこに向けてチームを作っていきます。それまでは試合自体は魅力的なサッカーもできないだろうし、見る方も我慢しながらずっと見ないといけませんが、毎年最後の大会となる秋頃には感動させてくれるような魅力的なチームになります。凄く時間のかかるチームの作り方をしていると思うのですが、最後には絶対に実るという感覚がここ何年か僕の中に自信としてあって、前段階として1年生や2年生の時に余裕をもって教えられるっていうのはあると思います。ゆっくり育成していても、最後にこうなるというイメージがあるのは自分の強みかなと思います。

ー選手もそのイメージで全国を目指していますか?

今村 選手には全国大会に行くぞといったことは一切言っていません。そういった目標も選手が自分たちで設定するのではないかと思うので、特にこの結果を目指すという話はしていません。ですが一番最後の大会では、どんな相手でもサッカーを楽しんでできる状態になっているというのが大事だと思っていて、そういう選手が11人いれば結果的に勝てるということが大事かなと思います。最後には自分たちがやりたいことをやれたとしても、負けることももちろんありますが得るものの方が多いです。
チームとしては、世界のどんなチームと試合をしてもサッカーを楽しめる選手を生み出したい。今はJリーグや高校年代で楽しんでやってくれている選手がいるので、将来世界に出て楽しんでいる姿を見たいというのもあります。
個人的には強引に型にはめるという感じではなく、選手の心の中からうまくなりたいという気持ちを沸かせるような関わり方ができる指導者になりたいですが、それが一番難しいと思っています。
私のサッカー人生での憧れ、目標でもある滋賀県のセゾンFC総監督岩谷篤人さん、奈良県のディアブロッサ高田FC名誉監督中瀬古宣夫先生はそういう選手の心に入っていける方たちだと思っています。選手の心の内側が変われば本当に上手くなるのがわかっているので、一番難しいところでもありますがそういう指導者になっていくのが今の私の目標です。

ー次の指導者をご紹介いただきたいです。

今村 愛知県豊橋市のセントラル豊橋FCの内藤靖夫さんです。チームでは非常にこだわりを持って指導をされている方で、グラウンドの内外で選手が育っているといつも関心させられています。もともとイルソーレ小野で主催した大会に来ていただいたことがきっかけで知り合った方で年代的に先輩なのですが、年齢関係なくニュートラルに新しいものを取り入れていける人間性が指導成果にも表れていると思うので、ぜひお話を聞きたいです。

<プロフィール>
今村嘉男(いまむら・よしお)
1975年5月6日生まれ。
兵庫県出身。小学校からサッカーを始め、中学まで神野FCでプレー。東洋大学附属姫路高等学校でもサッカーを続け、卒業後に指導者として出身チームである神野FCに戻り、恩師である藤原氏と共にチームを率いる。2002年に小野市でイルソーレ小野を設立。数々の大会で好成績を残し、全国の強豪高校やJリーグで活躍する選手を多く輩出している。

text by Satoshi Yamamura

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