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Vol.25「応援の後押し」

  • 2024.04.18

    Vol.25「応援の後押し」

絶康調

4月13日のモンテディオ山形戦は、オレが仙台に来てから雰囲気の一番いい試合だった。北野さん(北野大助統括強化部長)と「なんでだろう」って話していて、ブーイングの少なさがこの雰囲気を作りだしているんじゃないかと思った。試合が始まる前から素晴らしい雰囲気に包まれていた。ダービーで満員というのは知っていたから、アップでピッチに入ったときは「人がいっぱいいるな」と思うぐらいだったけれど、殺伐としていないというか、なんともいえない温かさがあったよね。応援するサポーターとスタジアムの空気がいい意味で違った。これは現場にいたうちらにしか分からないことかもしれない。応援している声しか聞こえなかったから、選手も一体感を持って戦えたと思う。クラブもチームもサポーターも、みんなが一緒の方向を向いていると感じた。去年はいろいろあってスタジアムの雰囲気が正直よいとは言えない状態のときもあった。あれを経験しているからこそ、というのもあるかもしれない。以前ここでも書いた、真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)に対してのブーイングとか、応援しに来ているのかブーイングしに来ているのか、クラブを攻撃しに来ているのかと疑問に思うようなことがあった。矛先がみんなバラバラじゃんって。相手チームのバスを囲んで一部のサポーターが出入り禁止になって、なんか変だよって思っていた。そういう意味でも山形戦の応援は素晴らしかったとものすごく感じている。あの雰囲気でずっとやれたら、本当にみんなパワーをもらえると思うね。まさに選手の背中を押してくれる応援。上から目線な言い方になっちゃうかもしれないけど、いい応援を聞けたな、これぞホームだよなって感じだった。ありがとう。

内容的にも完勝でしょ。全部が全部うまくいってるわけではないけれど、守るところは全員でしっかり守ってのクリーンシート。かなりいい試合ができた。ああいう試合を見に来たら勝っても負けても絶対面白いと思う。みんなで戦って、全部が全部勝てるわけじゃない。うまくいくわけじゃない。でも、一体感を持って戦えていることが大切。試合が終わってから亮真(モンテディオ山形MF氣田亮真)と千尋(モンテディオ山形MF加藤千尋)と話した。2人とも相当悔しそうな顔をしていた。やっぱり、所属していたチームに負けたくないっていう思いは絶対何かしらあっただろうから。亮真からは苦しい中でもチームをなんとかしようという気持ちが伝わってきたし、千尋も途中から入ってすごく頑張っていたしね。

オレも久々にベンチ入りした。実は肉離れで戦列を離れていてすごく試合に出たかったから、出られなくて悔しい部分もあった。でも、それ以上にチームが勝ち点3を得ることが重要だから、あの雰囲気の中、ダービーに勝てたことがすごくうれしかった。今週は始動からチームの雰囲気がめちゃくちゃいい中で練習できていた。狙っていたことがそのまま試合に出るっていう感じ。けが人がみんな帰ってきたんだよね。全員がそろって練習できて、ゴリさんはじめスタッフも選手も、やっぱりこの試合に勝ちたいという思いが自然と練習に出たんじゃないかなって思う。こりゃ勝つよねって思えるような練習をしていた。

今回の山形戦でチームは絶対に成長すると感じた。「もう1回あの試合に立ち返ろう」という基準が一つできたんだよ。「あれが最高の試合だった」じゃなくて、これを普通にしていきたいし、もし不調に陥って変な負け方をしても「モンテディオ戦を思い出して、あの時の自分たちをもう一回取り戻そう」という合言葉にもなる。本来ベガルタってそういうチームじゃん。ガンガン応援を受けて立ち向かっていくチームじゃん。そして、みんながやっぱりああいう試合に出たいと思うから、自然と必死になって練習の質も上がる。あの雰囲気をピッチ上で感じたいと選手の誰もが思うはずだ。オレもベンチからうらやましいと思って見ていた。試合に出てる選手は楽しいだろうな、とも。その中でもゴリさんが一番喜んでいたよね。試合中ゴリさんの応援歌になって踊ってたでしょ。試合前のロッカールームでゴリさんが「雰囲気はもうサポーターが作ってくれた。あとやるのはうちらだ」って奮い立たせてくれていた。「こんな雰囲気の中で試合できるなんてうらやましい」と話していた。燃えるよね。いまJ2であの雰囲気を作れるのはベガルタしかないと思っている。今年はああいう試合をたくさん見られると思うよ。

一つ残念だったのは、山形の選手やスタッフに水をかけたりした山形サポーターがいたこと。何をしたいんだ、何を求めているんだと憤りを感じる。最近、一部のサポーターの行き過ぎた行為が目に余るようになった。浦和レッズサポーターの暴力行為は天皇杯参加資格はく奪につながったし、ベガルタだって去年はジュビロ磐田戦でのバス囲みが原因で500万円の罰金を科された。世間やリーグの目は厳しいよ。結果として自分たちが応援するクラブの足を引っ張ってしまうなんて悲しいよね。大きな声が罵声に変わるのも嫌だな。選手も人の子だし、負けたいと思って戦うプロ選手は1人もいない。相手も含めてみんなが勝ちたいと思うからこそ熱い試合ができる。でも、みんなは時間を作ってチケットを買って、応援しに来てくれている。やる気のないプレーを見せた選手にだけは、ガンガン罵声を浴びせてしまうのも仕方がないと思う。

コインに表と裏があるように、勝つチームがあるということは、負けるチームがあるということ。さまざまな問題行為は、勝ちたいと思い、勝つところを見せたいと思い、最高の試合にしたいと全力で頑張っている選手への応援とは思えない。罵声は良くない、水かけるのも良くない、物に当たるのも良くない。戦っている選手の、サポーターやクラブに対する愛情を削っていく行為だということを分かってほしい。勝ったから言うのもあれだけど、山形というライバルがいるからこそ、うちらもああいう素晴らしい試合ができたし、山形がいたからこそああいう環境でサッカーができたわけだから、うちらは山形に対してもリスペクトしなきゃいけない。それはサポーターも同じ。次の山形アウェーのときなんて、山形サイドはもっと強い気持ちで勝ちにくるから、それに負けないようにうちらもやらないといけない。そういうことの繰り返しがお互いを強くしていくし、ダービーの価値を高めていく。水をかける行為は、積み上げていくものに文字通り水をぶっかけて台無しにしちゃうんだよ。オレもなんかさみしくなった。他のクラブがうらやむくらい、一緒にダービーの価値を高めていこうよ。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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