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Vol.5 株式会社Sunday Monday/村野明子

  • 2019.07.25

    Vol.5 株式会社Sunday Monday/村野明子

サッカーのお仕事

コンサドーレ札幌で6年、ヴィッセル神戸で10年、寮母として選手の胃袋を支えてきた村野明子さん。今年の2月に新会社を立ち上げ、ジャンルにとらわれないアスリート向けの食のサポートを始めました。現在はセレッソ大阪で寮母をしながら同アカデミー選手に向けた食の取り組みや他競技のアスリートへの食のサポートを行っています。

ー現在のお仕事について教えてください。

村野 今年の2月に、アスリート向けの給食会社『株式会社Sunday Monday』を立ち上げました。私自身、過去にコンサドーレ札幌で6年、ヴィッセル神戸で10年、寮母をやってきて同トップチームやアカデミーの選手に向けた食のサポートをしてきましたが、チームに所属する形でお仕事をしていると、例えば他のスポーツやアスリートの方にごサポートのご依頼をいただいてもなかなかお応えすることが出来ない現状がありました。そこで、ヴィッセル神戸さんとの契約が満了になったタイミングで会社を立ち上げ、いろんなジャンルのスポーツ、アスリートの方のニーズに応じた食のサポートを行う態勢を整えました。現在は、セレッソ大阪のアカデミー寮で寮母をする傍ら、同アカデミー選手に向けた食の取り組みや個人アスリートに向けた冷凍食品でのサポートを6人体制で行っています。

ー村野さんがこのお仕事に携わるようになったきっかけを教えてください。

村野 もともとは、高校卒業後に化粧品メーカーに就職したものの、出産を機に辞めて、子育てに忙しくしていたんです。ただ、小さなお子さんを持った女性の多くが悩まれるように、「このまま職場復帰はできないのかな」という焦りもあったし、かねてからの夢だった「いつか定食屋をやりたい」という思いも捨てきれずにいました。そんな中、主人がコンサドーレ札幌の総務部長に就任し、単身で赴任することになったんです。でもしばらく経って主人から「食生活を改善することでチームを強くしたいから、北海道で選手にご飯を作ってくれないか」と言われて…定食屋ではないけれど、自分のやりたいことに近づける気がしたこと。また子育てをするにも近くに主人がいてくれた方が安心だなと思い、北海道に行くことにしました。そこで最初はトップチームの若い選手、10人くらいに食事を作り始めたことが私の原点です。

業務用コンロは常にフル稼働。
キッチンからはいい匂いが漂います。

ー具体的にどんなサポートをされていたのですか?

村野 その時はまだ寮がなかったので、練習場の近くに少し広めの家を借りて、朝食と夕食を作っていました。と言っても、あくまで最初は家族に食事を作るような感覚で、でも人数が増えたので最初はビュッフェ形式で、肉、魚、サラダ、煮物などをジャンル別に大皿で出していました。でもそうすると、お肉はなくなっても煮物はなくならない、とか、サラダが余ってしまい、選手がバランス良く食べているとは思えなくて(笑)。それでは意味がない気がして、まずは料理の出し方を工夫してみました。例えば朝食なら、選手が来たらまずはサラダを出し、それを食べ終わる頃に煮物を出し、そのタイミングで汁物やご飯をよそう、と。その頃には魚も焼き上がるので、…ってなると、ご飯もどんどん進み、それが食べ終わりそうなタイミングで最後にお肉を出すんです。そうすると、ご飯をもう一膳、おかわりしてくれるから(笑)。当時はまだ家庭用のコンロで料理を作っていたので、そのくらいのサポートが精一杯でしたが、3年目に寮が完成してハード面が充実してからは、ワンプレートで食事を出すようになりました。

ある日のワンプレート。
視覚に訴えかける美味しさが食欲を促します。

ーワンプレートというのは?

村野 ご飯と汁物以外のおかずは全て1枚の大皿に盛り付けるんです。これには2つ理由があり…1つは、寮になって預かる選手の人数が25人くらいの大所帯になったので、極力お皿の数は少ない方が洗い物が助かること(笑)。そしてもう1つは…後づけながらこれが一番の利点でしたが、ワンプレートに盛り付けることで、自然とそれぞれの料理の味つけがかぶらないように意識できるし、『赤(タンパク質)、白(カルシウム)、黄(炭水化物)、緑(ビタミン)、黒(鉄分)』の5色に分類される栄養がバランスよく含まれているかを一目で確認できることです。以来、ずっと『5色のワンプレート』は続けています。

ー食事のサポートをすることでの効果を感じられるようになったのは、何年目くらいですか?

村野 正直、当時は選手たちの変化を見るまでの余裕がなかったし、実際にその食事が彼らにどんな変化や効果をもたらしているのかを語れるほどのサポートは出来ていなかったと思います。『食育』という言葉もない時代でしたが、スポーツ栄養という観点からは物足りないことの方が多かったかもしれません。ただ、当時から食事を摂ることの効果って体だけではなく、心に与える栄養もすごく大きいと思っていて。練習から帰ってきて「今日のご飯は何?」って会話から始まるコミュニケーションもあれば、誰かと食事を共にすることで生まれるものはたくさんある。私自身も彼らの顔色を見て、元気がない選手にはその子の好きなものを作るとか、疲れていそうなら甘いものを出してみる、などの工夫もできますしね。そういう意味では肩に力を入れて「食事でサポートを!」と意気込むというより、自分の家のような感覚で過ごせる空間づくりを心掛けていました。ただ、一方で、日本のサッカー界は毎年、冬になると選手に契約の話が持ち上がり…中には、キャリアアップに繋がるハッピーな別れもありましたが、それ以上に不安な表情で挨拶をして去っていく選手もたくさん見てきたんです。そういう経験を繰り返すことで、自分の仕事に対する責任や重要性を実感できるようになっていった気がします。

ー選手としてのキャリアを支えるような食事面のサポートをしよう、と?

村野 食事はあくまで彼らを作る『一部』でしかないので、そこまで大きなことは言えません。でも体脂肪を増やさないようにしてあげたい、とか、他のチームに移籍をしたとしても活躍できるようなコンディションでいてほしいとか、ケガをできるだけしないように、とか。その思いを食事に込めることで彼らが日々、続けている努力を少しでも後押しできるような、でも気持ちの部分でもしっかり休める、心身に優しい寮を作りたいと思うようになりました。

セレッソ大阪アカデミー寮の選手には
昼食にお弁当を持たせることも。

ー毎日の食事となると献立づくりが大変ではないですか?

村野 実は毎日、献立は特に考えていないんです。あくまで主婦的な感覚で、今日は味の濃いものを食べたから明日はさっぱり系でいこう、とか、前日に作った食材の余りがあるからそれで何を作れるか考えようとか。あとはそこに先ほど話した『色』を考慮して、足りないものを足していくくらいです。もっとも、スタッフにはざっくりとしたルールは伝えています。アスリート食なので揚げ物は基本的にダメとか、いろんな種類の野菜を使ってカラフルにとか。さっきも言った調味料の味付けがかぶらないように、とか。あと、大事なのは料理名から作るものを考えないこと。例えば豚の生姜焼きを作ろうと思っていた時に他のおかずに生姜を使っているなら、豚肉をニンニクで炒めようとか、ケチャップを入れてポークチャップにしようとか。料理名を意識するから、これを作らなくちゃいけない、となるわけで、食材と調味料で料理を考えればいい。なので買い物も「これを作るから、これを買おう」ということはしていません。無駄な食材を出したくないからでもありますが、旬の野菜が安ければ、それを買ってくるとか、豚肉が安かったから予定していた鶏肉の料理を豚肉に変えることもしょっちゅうです。また、今は例えばセレッソのアカデミー選手に向けた食の取り組みとして、平日は「100人ごはん」というチャレンジをしていますが、基本的には金曜日の料理を作り終えた段階で、冷蔵庫のが空っぽになっているように意識しています。

大きなお鍋で作る料理には、
村野さんの愛情がたっぷりと注がれている。

ーそれは、最初におっしゃったアカデミー選手に向けた食の取り組みですか?

村野 そうです。ジュニアからユースチームまでの3カテゴリーの選手に平日、週に2回「練習後すぐにおなかいっぱいごはんを食べさせて家に帰す」という取り組みをしています。毎日、3カテゴリーのうちの2カテゴリーの選手に食事を提供していてそれがだいたい100人くらいの人数なので私が勝手に「100人ごはん」と呼ぶようになりました(笑)。スタートから約2ヶ月が過ぎ、最近はようやく作る量がわかってきたけど、最初は小学生の子が中学生並みに食べるとか、予想外のこともたくさんあって、毎日、「今日は足りるかな」ってドキドキしていました(笑)。これも食育の観点だけではなく、定期的にみんなでワイワイ言いながら食べることがチーム力につながれば嬉しいなと思っています。

ー今現在、御社のスタッフの皆さんはどんな風に雇用されているのですか?

村野 これは、ヴィッセル時代に始めたことですが、当時、スポンサーをしてくださっていた大学のスポーツ栄養学部の生徒さんたちがインターンとして寮での食事づくりを手伝ってくれていたんです。正直、最初は自分との年齢差も考えて、面倒だなと思っていたのですが(笑)、いざ、来てもらってみたら、さすが大学生で、何をお願いしても丁寧に一生懸命、頑張ってくれる。しかも、その時はスポーツ栄養学部の生徒さんばかりだったので、プロのアスリートに食事を作ることへの意識もすごく高かったんです。その姿を見たときに、ただのアルバイトを雇うよりインターンという仕組みを生かす方が、学生にとっても現場を学ぶ機会になるし、お互いにメリットがあると思うようになりました。以来、まずはインターンで来ていただいくことから始め、その期間が終わっても続けたいという方にはアルバイトで来てもらい、その上でいろんな能力を総合して引き続き業務提携を結んでお願いするかを判断しています。逆にその気がなくても、この仕事に向いているな〜と感じたらこちらからラブコールを送ることもあります。

ーこの仕事に従事するには何か資格が必要ですか?

村野 あるに越したことはないですが…私自身は調理師の資格だけで、アスリートマイスターや管理栄養士の資格を持っているわけではないんです。もっとも、独学で勉強したり、この仕事を16年間続けてきたことで学べたこともたくさんあって、それは今も私の大きな力になっています。ただ、ケガをした選手に必要な栄養素は何か、とか、より専門的な知識が必要になることもありますからね。そこでセレッソでは、このサイトでコラムを書かれている管理栄養士の柴田麗さんと契約してもらって、栄養計算などのサポートをいただいていますし、弊社でも状況に応じて、お付き合いのある管理栄養士さんにサポートやアドバイスをいただいています。ただ、私自身がそうであるように、日常的な食事なら、お肉の部位や使うべき野菜、それぞれの栄養素を理解してさえいれば、サポートはできます。主婦の皆さんがそうであるように、料理をすること自体は…それがアスリート向けだからといって特別な技がいるわけではないので。唯一、必須のスキルをあげるなら…チームでのお仕事になると本当にたくさんの選手がいて、性格、体型、ポジションまでバラバラですからね。この選手とは仲がいいけど、この選手とは一切話さない、ではなく、選手に入り込みすぎず、遠すぎもしないという絶妙なバランス感覚をもった人材が理想です。

ー今後、仕事として広げていきたいと思っていることは?

村野 個人アスリート向けの冷凍食品でのサポートはジャンルも、人数も広げていきたいし、今は給食会社的な形でチームやアスリートの皆さんとご一緒させていただいていますが、ゆくゆくは私がコンサドーレやヴィッセルでやっていたような『寮母』ができる人材を育てて派遣したい。先ほども少しお話ししましたが私の経験上、『寮の母』になることで、見えてくるものや、できる食のサポートが必ずあるはずだから。そうして『寮母』をたくさん育てることで、スポーツの世界のあちこちに、あったかい家ができたらいいなって思っています。

写真提供/株式会社Sunday Monday

text by Misa Takamura

武井択也×DF鎌田次郎(柏レイソル)<前編>