COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > Vol.13 株式会社11aside(イレブン アサイド)/日下裕己

Vol.13 株式会社11aside(イレブン アサイド)/日下裕己

  • 2020.02.10

    Vol.13 株式会社11aside(イレブン アサイド)/日下裕己

サッカーのお仕事

15名のタレント、アスリートが所属するマネージメント会社『株式会社11aside』で、ガンバ大阪の遠藤保仁や東口順昭、倉田秋ら、プロアスリートの個人マネージャーを務める。単なる日々の取材調整だけではなく、選手に寄り添い、彼らのセカンドキャリアを想像しながらイベント等の企画運営などを多角的に行なっているのが特徴だ。プロアスリートが持ちあわせる「何かを生み出せる力」を形にするために。

ーお仕事の中身を教えてください。

日下 主な仕事は、アスリートのマネージメント業務です。現在弊社には、業務提携という形態をとっている格闘家を含め15名が所属しています。そのうち僕はガンバ大阪のMF遠藤保仁やGK東口順昭選手、MF倉田秋、Vファーレン長崎の徳重健太をはじめ、かつてはシアトル・マリナーズや福岡ソフトバンクホークスに在籍し、現在は味全ドラゴンズに在籍する川﨑宗則の5名を担当しています。基本的にマネージメント業と聞くと、アスリートのスケジュール管理や取材やテレビ出演などの対応などをイメージされる方が多いと思いますが、弊社ではそれに加え、選手のオリジナルグッズの企画に始まって、デザイン、生産、販売、売上管理も行っています。また所属アスリートとともにサッカークリニックを始めとしたイベント企画や運営も行います。『11aside』の「aside」の意味は「そばに、かたわらに」を意味しますが、選手に寄り添いながら、時に選手個人のコンシェルジュ的なイメージで、できる限り選手の希望を叶えることを意識して仕事にあたっています。

ーオリジナルグッズといえば遠藤選手の『Yatto7』が人気です。デザインから販売まで社内で全て完結させているのでしょうか。

日下 そうなんです。そう言うと、よく驚かれます(笑)。もともとは遠藤のオフィシャルサイト内で、ファンの方と繋がれる企画を考えるコーナーがあり、いろんなディスカッションをしている中で「遠藤が考えたものをファンの皆さんが着ていたら面白いかも」という話になり、スタートしました。彼もファッションが好きですし、僕も以前に勤めていた会社でものづくりに関わっていたことから最初は遠藤の趣味半分で始めたというのが正直なところです。でも、やっているうちにどんどん楽しくなって「あれも作ってみよう」「ファンの方からこんな要望があったよ!」と話が膨らんでいき、今に至ります。当初の狙いだったファンの皆さんとの繋がりということでも、遠藤考案のグッズをたくさんの方に共有していただいて嬉しい限りです。また最近は『Yatto7』のポップアップイベントを行い、ファンの方との交流を図る場が増えるなど広がりを見せています。このものづくりに関しては、オリジナルグッズに限らず、会社の販促物やサッカー大会などのバナー、ウェアなども全て社内で行います。その分、選手の声をダイレクトで反映しやすいし、イベントの中身もより選手の理想に近づけているのかな、と感じています。

遠藤保仁のオリジナルグッズ『Yatto7』は
本人とディスカッションを重ねながら、
デザインから販売までを社内で行う。

ー昨年から、オフシーズンを利用して開催されている『倉田秋カップ』も大会運営は社内で行なっているのですか?

日下 そうです。もちろん、当日の運営スタッフは人数も必要なので、一部は外注しますが、基本的な仕切りは全て社内で行います。なので、大会をご支援いただく大会スポンサーなどを見つけるとか、スポンサーさんへのフォローなども仕事の1つです。基本、僕の仕事は選手に代わって彼らの夢を実現することだと思っています。例えば、倉田から「地元への恩返しという意味を込めて、参加してもらう子供たちには無料で開催したい。この先も長く続けていくためにも、大会を後押ししてくださるスポンサーの方と一緒に大会を作っていきたい」という意向を聞けば、それに応じて、僕から「こういうのはどうですか?」「こんな形なら実現するかもしれません」という提案をさせてもらい、それを倉田と話し合って形にしていきます。そんな風に『過程』の部分にも関わってもらうのは、選手のセカンドキャリアを考えてのことでもあります。弊社では単に彼らがイベントに参加するだけではなく、彼らがいつか引退する日が来た時のことを想像して、次のキャリアにつながる働きかけをしていきたいと思っています。であればこそ、運営にはどれくらいの費用がかかって、どんな方に協力していただいてイベントが成立しているのか、なども明らかにして進めていきます。時に選手本人に直接、スポンサーさんに思いを伝えてもらうこともあります。

昨年から始まった『倉田秋カップ』。
第二回の今年は約倍の規模で、
倉田の地元・高槻市で開催された。

ーそんな風に、多角的に事業を展開されているのはなぜですか?

日下 純粋に会社としてはまだまだ歴史が浅い中で、その中身がグラグラした会社では所属アスリートからの信頼を得られないし、仮にアスリートなしでも成り立つくらいの経営をしていかなければいけないと思っているからです。先ほども言ったように、選手にはいつか「引退」が訪れます。その時に、例えば選手が「これをやりたい」というものがあったとしても、会社としての規模が膨らんでいなければ実現できないこともあるかも知れません。そう考えても、できる限り会社としての事業内容に広がりをもたせて、いつか彼らが選手ではなくなった時にも一緒に次のキャリアを考えていけるような体制は整えておきたいし、そのためにも会社として日々成長していかなければいけないと思っています。また、案件の進行スピード感と言いますか、急な方向転換時の対応などをスムーズに行うことや、選手にも企画の過程を理解してもらうために、いろんな企業を挟まずに行った方がいいだろう、という考えもあります。であればこそ、何かを始めるときは、最初にその話を選手にも伝え、選手にも協力を仰いで実現にこぎつけるのがうちのやり方です。ただ、そうは言っても、彼らの本業はあくまで選手です。そこに支障をきたすことは絶対にあってはいけないし、彼らが現役中はできる限り、僕がそれぞれの選手のコンシェルジュとしてサポートしたいと思っています。

ー日下さんは今の仕事に就かれる前はどんな仕事をされていたのですか?

日下 もともと学生の頃からヒップホップが好きで、イベンターとしての活動をしていた流れから、音楽事務所で働いていました。その時は、いわゆるマネージメント業もしていたのですが、制作も行っている会社だったので、レコーディングやマスタリング等々、曲ができるまでの過程を学ぶ時間にもなりました。なおかつその会社にはアーティストのグッズや他のアパレルのグッズを製作したり、webデザインを行う部署もあり、そこの仕事も兼務していたので、結果的に今は当時の経験が全て活かせる仕事をしていることになります。余談ですが、実は弊社の社長とは、それこそ僕がまだ10代だった頃に先輩を通じて知り合い、こんな人になりたい! という思いから「仕事を学ばせてください」と直談判したことがきっかけになって今に至ります(笑)。

ー現在のお仕事に感じている面白さ、難しさを教えてください。

日下 この仕事について7年ですが、難しさとしては業務的に扱う商品が『人』で、なおかつ現役選手ということもあり『スケジューリング』ですね。それによってせっかく面白いなと思う企画があっても、いろんな兼ね合いでNGになることも多いです。また、選手によって性格も、求めるものも違うので、一概に「これならうまくいく」という形がないのも難しさの1つです。あとは、これはどの仕事でもそうですが、信頼関係がなければ成立しない仕事ですからね。対選手というだけではなく、メディアの方やスポンサーの方を含めて、より丁寧にいろんなことに気を配らなければいけないところはあるのかなと。ただ、面白さというか、やりがいということでは担当するアスリートのマネージャーは僕しかいないと考えれば、世界でたった一人しかできない仕事ですからね。選手の近くで、彼らのことを考えながら、世の中にないことを生み出していく作業は楽しくもあるし、責任も感じています。

選手それぞれの考え方を大切にしながら、
細かな部分まで目を配りサポートにあたる。

ーマネージメント業に必要なスキルはなんだと思いますか。

日下 何ごとも諦めないこと(笑)。先ほども言ったように、面白いと思う仕事があってもスケジュールや本業との兼ね合いで9割はうまく進まないので、それでも我慢強く次の策をひねり出し、実現に近づけていかなければいけません。あとは社交性ですね。選手の代わりに人に会いに行くことも多いと考えれば、彼らのイメージダウンになるようなことはあってはいけないし、かといって、選手のことを考えればこそ、先方の言い分を聞いているだけでもダメなので。仕事相手と選手のお互いの言い分をうまく擦り合せる上でもコミュニケーション力というか、言葉の使い方、接し方という意味での社交性はすごく大事になってくると思います。あと…言い方は悪いですが、俗に言うオタクの人は難しいかなと。僕は基本的にジャンルを問わずオタクが好きだし、話を聞いていてもすごく楽しく、勉強になることも多いです。好きだからこそ極められることもあるとも思います。でもこの仕事に限って言えば、イベント等の企画も多い中で、立場上、夢中すぎる情熱が仕事に転換されないことの方が多いように思います。そう考えても弊社で人材を募集する場合は、仕事だと割り切っていろんなアイデアを形にできる人材が望ましいと思っています。ちなみに、我々の仕事はSNSなどを通してファンの方との繋がりを大事に考える中で、皆さんから寄せられた案をそのまま採用するなど、アイデアをいただくことも多いです。また、僕の場合は選手を通してイベントやグッズに関する案をいただいたり、直接提案してもらうことも多く大変参考になりますし、これからもお願いしたいです(笑)

ーご自身はこの仕事に向いていると思いますか?

日下 どうでしょう。ただ…正直僕は、果たして仕事に向き不向きって関係あるのかな、と思っているというか、任された仕事に対して、自分があっているかどうかより、合わせていく必要があるんじゃないかと思っています。もっとも『人』を扱う仕事は、感覚的にとか、空気を察して動かなければいけないところも多々あるので、そもそもの性格が影響してくることはあるかもしれなせん。ただ、少なくとも僕は自分から向きにいったことで、向くようになったタイプだと思います。

ー今後、会社として、個人としての野望があれば聞かせてください。

日下 会社としてはもう少し選手の幅を増やしたいです。競技の幅もそうだし、人数的にもです。また将来的にはアメリカのスポーツ界のような体制を整えたいと考えています。全員にあてはまる話ではないとは思いますが、アメリカってエージェント(仲介人)とマネージメント、経済面の管理をする人が3人、ワンチームでタッグを組み、選手をどう生かすかを考えるんです。選手のトータルケアということを考えれば理にかなっていると思うのですが、日本のスポーツ界はこれだけ経済発展してきているのに、その仕組みがほぼ成立していないと感じることが多いです。でも僕はアメリカのような体制をとるほうがより選手の人生設計に寄り添いながらマネージメントができると思っているので、いずれはそういった体制を整えていけるようにもっと勉強していきたいです。あとは最初にも言ったように、会社としてもしっかりと力をつけながら、より選手に寄り添ったサポートをしていきたい。僕は、プロアスリートには経験を子どもたちに伝えたり、イベントなどで直接的に接することで、何かを生み出せる力があると信じています。それを少しでも形にできるように、今後も選手ともよりコミュニケーションを密に取りながら仕事をしていきたいと思っています。

text by Misa Takamura

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

ガンバ大阪・半田陸が戦列復帰へ。
「強化した肉体とプレーがどんなふうにリンクするのか、すごく楽しみ」