データスタジアム株式会社のフットボール事業部に所属し、Jリーグ向けの営業を担当している藤宏明さん。
Jクラブマネージャーからスタートし、分析担当を経て、現在の仕事に辿りついた経緯とは?!
「人と物の両輪を強くしていく仕掛け」を心がけながら、サッカー界に外からのパワーを送り続ける氏の仕事に迫ります。
ー現在のお仕事を教えてください。
藤 データスタジアム株式会社のフットボール事業部で、Jリーグをはじめとするクラブ向けの営業をしています。メイン業務はサッカーの『データ』をフックにした分析システムの提供や、それを活用した総合的なコンサルティング。僕はもともとJクラブに在籍していたことからJクラブを担当しています。
ーIT系の仕事に就きたいと思っていたのですか。
藤 全く(笑)。もともと僕は筑波大学を卒業してすぐに、ヴィッセル神戸のマネージャーになったんです。というのも、在学中はサッカー部に所属していたのですが、3回生の時に選手を引退して主務になって。
その流れで卒業後はJクラブのマネージャーをしたいと思うようになり、大学の先輩などの伝手をたよりに雇ってもらえるクラブがないかを探しました。と言っても、思うようには見つからなかったのですが、タイミングよくヴィッセル神戸がホームページでマネージャー募集の告知を出しているのを見て、応募しました。
その後、年末の慌ただしさの中で神戸に行って面接を受け、合格したので、全日本大学サッカー選手権(インカレ)を終えた1週間後からヴィッセルで働き始めました。
ー11年まで在籍されたヴィッセルでは、途中、分析担当になられています。経緯を教えてください。
藤 09年にカイオ・ジュニオール氏が監督に就任された際に『分析担当を置いて欲しい』というリクエストがあり、U-21チームの監督をされていた安達亮さんがメインでやることになったんです。その時に、僕も当時はU-21チームのマネージャーをしていたことから、強化の方に「亮さんのサポートで分析の方にも力を貸して欲しい」と言われて、マネージャーの仕事をしながら分析の仕事をするようになりました。
ただ、10年は亮さんが強化部長に就任されたので僕一人でやることになり…その年はマネージャーと兼務でしたが、11年からは、分析担当の専任になりました。
ーJクラブには、筑波大学出身の分析担当者が多いですが、藤さんも大学時代に分析の勉強をされていたのですか?
藤 筑波大出身だと言うとよく間違えられますが、僕は全くしていません(笑)。Jクラブで分析担当をしているのは、同じ筑波大学でも大学院出身の方ばかりで…。主務時代に、大学院で分析などの勉強をしていた人たちがパソコンで何かをやっているな〜っていうのを横目では見ていましたけど、別世界の話だと思っていました。今の筑波大サッカー部は、以前にJクラブで分析の仕事をされていた小井土正亮さんが監督に就任した流れもあり、分析班を置くようになったそうですが、僕らの時代はそれもなかったです。
ーではヴィッセルで分析の仕事を覚えられた、と?
藤 そうです。なので、最初は亮さんや他のクラブの方に教えてもらったりしながら手探りでやっていました(苦笑)。幸いその頃は、U-21チームが週に2回くらいの頻度で練習試合を組んでいて。それを毎試合、僕がビデオ撮影をして、コーチが編集するというのを近くで見ていた分、なんとなく知識や感覚は養っていましたが、最初はパソコンの操作もままならず、分析編集ソフトを使うのも初めてでした。
ー14年には名古屋グランパスに移籍されていますが、グランパスでも分析担当の仕事をされていたのですか?
藤 はい。分析担当のコーチでした。ヴィッセルで一緒に仕事をさせていただいた、西野朗さん(元日本代表監督)がグランパスの監督に就任された14年に僕も同クラブに加入し、西野さんが退任されるまでの2年間、一緒に仕事をさせていただきました。
ーそこからデータスタジアム株式会社への入社に至った経緯を教えてください。
藤 本音を言えば、西野さんがグランパスの監督を退任されたあと、他のクラブの監督に就かれるのなら、一緒に仕事をしたいと思っていたんです。なので、西野さんの動向も伺っていたのですが、すぐに別のクラブの監督に就任される可能性はなさそうだ、と。その上で、仕事をどうしようかとなった時に、大学を卒業してからずっとJクラブに所属して仕事をしてきた分、どこか自分の仕事がルーティン化されていることに危機感を覚えていたので、それなら一度外に出て、データやITの知識を身につけたほうがいいなと考えました。
そこで、ヴィッセル、グランパス時代に仕事での付き合いがあった今の会社のことが思い浮かび、そのことを名古屋のゼネラルマネージャーをされていた久米一正さん(故人)に話したら、久米さんが繋いでくださり、面接を受けられることになって。結果、採用が決まったので入社しました。
ー分析の仕事をされていた経験が今の仕事に活かされることもあるのでしょうか。
藤 活かされることもありますが、仕事内容は大きく変わりました。
分析担当時代は、対戦相手の分析がメインで、試合までに対戦相手の映像を数試合観て、「こういうプレーが特徴的だ」ってシーンをピックアップし、パワーポイントで映像資料を作り、ミーティングで選手に伝えるのが仕事でした。でも今は試合を観るのは、ある意味、クラブの方とコミュニケーションを図るための情報を得るのがメインで、以前のように深いところまで分析する機会は減りました。
弊社にはソフトの開発を行う担当者もいますが、僕の仕事は、開発した分析システムやデータをチーム強化に活かしませんか?と営業して、会社の売上を伸ばすことです。
僕はこれまで営業経験はありませんでしたが、Jクラブで仕事をしていた時にできた人脈が今の仕事に活かされるところはあると思います。またJクラブの『現場』を知っていることそのものがアドバンテージになるというか。現場の温度感や必要なものを察して、いろいろと仕掛けられるのも強みだと感じています。
ー今、現在、御社のソフトやシステムを利用しているJクラブは多いのでしょうか。
藤 J1、J2、J3リーグに所属する、多くのクラブで使っていただいています。これは入社にあたって描いていた目標の1つで…というのも、Jクラブって正直、まだまだアナログなクラブが少なくないからです。でも、世界のサッカーを見渡せば分かるように、いつまでもアナログでやっているようではいろんなことが発展していかない。そう考えればこそ、こちらから仕掛けて分析の必要性を感じてもらったり、もっと言えば『分析担当』の人の立場が認められて、そこに費やすコストや人材を増やしてもらう仕掛けを外部からやっていきたいと考えています。
ー「将来、データスタジアム株式会社で働きたい!」と言う人には、どんなスキルを備えておくことを勧めますか?
藤 まずはデータや分析の観点からサッカー界を発展させたい、とか、世界に追いつきたいというような熱意を持っていることが一番大切だと思います。その上で、弊社は各種メディアに向けたスポーツデータの配信を行っているメディア向けサービス事業を始め、スポーツ団体・選手サポート事業、映像コンテンツ事業など、様々な部署に分かれているので、僕のようにクラブや学校と向きあう営業が向いているのか、技術的に優れているから開発の方がより力を発揮できるのか、能力に応じて振り分けられると思います。
あと…これは少し質問の答えとしてはズレますが、僕が会社に入って気づいたのは、世の中にはサッカーが好きな人が本当にたくさんいる、ってことなんです。しかも、サッカー界にいる時は、プレーをする選手とか、それを教えるコーチングスタッフというように実際にサッカーをできる人がほとんどでしたが、外の世界に出てみると、実際にボールは蹴れないけどシステムエンジニアとして優れているとか、データ分析に長けているとか、いろんな業種にサッカーを好きな人がたくさんいる。そういう能力を持った人が、サッカー界にどんどん関わってくるようになるのが僕の理想です。というのも、今、サッカー界にいる人たちだけでは、この先もっと高いレベルで勝負できるようになっていかないと思うから。
だからこそ、例えば、パソコンが好きならその『好き』を持ってサッカー界に関わって欲しいし、イベント企画が得意なら、それを武器に関わってきてもらいたい。要するに、自分がボールを蹴れなくても、サッカー界に関われる方法はいくらでもあるので、まずは自分にどんな能力があるのかを知ることが大事だと思います。
ーご自身は、今の仕事にどんな野望を抱いていらっしゃるのでしょうか。
藤 先ほどお話しした、物を売るだけではなく、人を育てることにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
それもあって今は年に数回、弊社で一般の方向けのスポーツアナリスト育成講座を行っています。詳細はホームページ(https://www.datastadium.co.jp)にも掲載していますが、要するに将来、分析担当などの職種に就きたいと思っていらっしゃる方向けの講習会です。
弊社には僕以外にもう一人、サンフレッチェ広島で2連覇を経験した元分析担当がいますが、彼と一緒に、僕らがJクラブの現場で培った知識や経験を活用して人を育て、分析ができる人材をクラブに送り込むことを目的としています。というのも昨今のサッカー界は、物は進化しても、人がなかなか進化していかないという課題があるから。でも、どんなにデータやソフトが進化しても、人が進化しなければ効果的に使いこなせないですからね。それじゃあもったいないからこそ、僕は人と物の両輪を強くしていく仕掛けをしていきたいし、今後もそんな風にサッカー界に外からのパワーを送り続けたいと思っています。
写真提供/データスタジアム株式会社
text by Misa Takamura