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約1年半もの孤独な戦いの中で、見出した光。

ガンバ大阪・FW塚元大が、部分合流。<br>約1年半もの孤独な戦いの中で、見出した光。

  • 2023.07.14

    ガンバ大阪・FW塚元大が、部分合流。
    約1年半もの孤独な戦いの中で、見出した光。

J.LEAGUE PRESS

高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa
photo by @GAMBA OSAKA

「実はこの1週間、全然寝れていないんです。ワクワクしすぎて (笑)。いつもなら23時にはベッドに入ってすぐに眠くなるのに、電気を消して部屋が真っ暗になった途端、みんなと一緒にボールを蹴っている自分とか、どのくらい動けるんかなってことを考えていたら気持ちが昂り、どんどん目が冴えて、気づいたら2時になっていた、みたいな。今日で部分合流から3日目ですけど、今もそんな状態が続いています」

 7月6日の練習後、塚元大はそう言って目を輝かせた。あくまで今は『部分合流』で、メニューを含めてプレーに制限のない『完全合流』には最低でもあと2週間、自身の体と向き合いながら、いくつかの段階を踏まなければいけない状況ではある。だが、久しぶりの感覚が、素直に嬉しかった。

「みんなと同じピッチに立てるのがとにかく嬉しいし、みんなとボールを蹴れるのが楽しいです。半年前に感じていたネガティブな感情みたいなものも消えて今は、本当にその思いしかないです」

7月4日に部分合流。「みんなとボールを蹴れるのが楽しい」と笑顔を見せた。

2度の受傷。リハビリの初期段階は約半年に及ぶ。

 長い道のりだった。昨年『成長』を求めてツエーゲン金沢に期限付き移籍。チーム始動から間もない1月末の練習試合で右膝半月板断裂の重傷を負い、戦列復帰が間近に迫った8月にも同箇所を再断裂した。

「1回目のケガも、環境を変えるというチャレンジをした矢先だったので、かなり悔しかったんですけど、そのときは明らかに相手選手と接触したという明確な理由があったんです。でも、2回目は練習中にめっちゃスピードが出ているわけでもないのに、いつもの感覚で足を着いたら『なんか痛いな〜』となり、次の日にMRIを撮ったら断裂していた、という感じでしたから。あまりに呆気なさ過ぎて、どうすればケガをしなくて済んだのかわからないような状態で…。それもあって今はまだ、復帰しても同じことになるんじゃないかという不安が拭いきれていないところもあります」

 今年1月、1年ぶりに戻った古巣での沖縄キャンプに聞いた言葉だ。その時点で、2度目の手術からすでに約4ヶ月が経過しており、塚元も「あと3ヶ月くらいで戻れるといいんですが…」と話していたが、現実は厳しく、結果的に彼はその倍以上の時間をリハビリに費やすことになる。田中雄太フィジオセラピスト(PT)によれば術後の痛みがなかなか拭えなかったことが時間を要した理由だという。

「僕が大(塚元)のリハビリを預かったのは、彼がガンバに復帰した今年の1月からでしたが、その初期の段階で本人が痛みを感じている箇所が非常に多かったんです。実際、沖縄キャンプの頃はまだ、タッチラインからタッチラインまでを1本、ジョギングしただけで2〜3日は痛みが出て走れなくなってしまうような状態でした。彼の場合、アカデミー時代からグロインペイン症候群(股関節痛)に悩まされてきたこともあって、体の左右のバランスを大きく崩していたことも影響したというか。それを受けて、リハビリでは単に膝を良くするだけではなく、体のバランスを整えるアプローチも必要だったので時間がかかったのもあります。いや、どちらかというと体のバランスを整えない限り、膝の痛みは良くなっていかないと判断したという表現の方が正しいですね。それもあって大のリハビリに関しては『階段を一段ずつ登る』というよりは、一段を何歩もかけて登っていくような感覚で、本当にちょっとずつ、ちょっとずつできることを増やしていきました(田中PT)」

沖縄でのリハビリは『前日と同じことができる、痛みが出ないのは進歩』が合言葉だった。

 その細かさは、田中PTがこれまで携わった膝のケガを負った選手のリハビリでもダントツだったらしく、『初期の段階』は3月の終わり頃まで続いた。

「本人には毎日のように『前日と同じことができるとか、痛みが出ないのは進歩だぞ』と伝えていましたし、僕自身も他の選手のように『これができたから、次はこれをやってみよう』という感覚は持たないようにしていました。そういう意味では、メニューもさほど変わらないし、進んでいるかどうかもわからないくらいの毎日を過ごした3月末くらいまでの時間が、本人的には一番しんどかったんじゃないかと思います(田中PT)」

 だが意外にも塚元自身はその時期について「しんどいという感覚はなかった」と振り返る。復帰する自分を想像できないくらい、あまりにも先が見えていなかったからだ。

「沖縄キャンプが終わって、2月になっても3月になっても『あと3ヶ月くらいで復帰できるかな〜』という状態が続いて、とてもじゃないけどサッカーをしている自分が想像できなかったというか。そうした過程を過ごすうちに停滞していることに慣れていってしまっていたのか、しんどいとか、自分の置かれている状況についてとか、考えることをやめてしまっていた気がします。言葉にするのが難しいんですけど、いい意味で言えば、楽観的とか前向き、とか、メンタルが強くなったって表現が当てはまるようにも思うし、悪く言えば、あまりにも長くなりすぎてリハビリをしている自分が普通になってしまっていたのかもしれない。とにかく淡々と…これは性格もあると思いますが、いうなれば機械的に日々のメニューに取り組んでいました」

 最初にケガを負った時から、心に留めていたというU-23ガンバ時代の恩師の言葉も支えになった。

「U-23時代の監督だった仁志さん(森下)によく言われたんです。『試合に出られないとか、プレーがうまくいかないなんてありがたい悩みだ。この世界には歩けない人も、病気で外に出られない人もいる。サッカーができて、ましてや好きなことでお金が稼げる君たちは、すごく恵まれていると思わないか?』って。正直、当時は頭では理解していてもどこかピンときていない自分がいましたけど、ほんまに自分が追い込まれた時にその言葉と向き合ったらすごく楽になって。ケガをしても命を取られたわけじゃない、復帰したらまた思いっきりサッカーができると考えることで前を向けたし、そのために今日の1日がある、この時間があると思っていました」

体の状態への理解を深め、復帰後につなげる。

 この時期、復帰を目指すのと並行して塚元が心がけていたのは、体の状態にしっかり耳を傾け、それを言語化できるようにすること。実際、3月半ばに取材をした際も「それが今の自分の1番の変化かもしれない」と話していた。

「田中さんのリハビリは本当に1つのメニューをさらに細かく刻むような感じで…。たとえばスクワットをするにしても、『膝の角度が2度、内側に入っている』とか『足を着くときにどこに体重を乗せて、この向きを心掛けよう』とか。ほんの少しのフォームの乱れさえ見逃さない、という感じで指摘してくれるんです。というか、そのくらい細かくやらないと復帰はできないと言われているので、僕はその言葉を信じて、とにかく我慢強く頑張り続けることが今の自分に課しているミッションです。その一方で、田中さんには、痛みを感じた時にはその痛みがどこの、どういう痛みなのか、明確に言葉にするようにということも言われています。だから『今日の調子はどうだ?』と聞かれて『大丈夫です』とだけしか答えなかったら、それじゃあ何もわからないと怒られます(笑)。違和感は多少あるけどできるという意味の大丈夫なのか、全く違和感がない大丈夫なのか、伝える側と受け取る側にズレがあったらリハビリはうまくいかない、と。それもあって最近はより自分の体にしっかり耳を傾けた上で感じていることを伝えられるようになってきたし、裏を返せばちゃんと伝えるために、自分の体の状態にも敏感になりました」

 田中PTに聞くと、実はこれは復帰後を見据えた働きかけだったそうだ。10年前に痛めた膝の痛みを今も抱えてプレーしている選手がいることが決して珍しくはないスポーツ界で、塚元が長くキャリアを続けるために、だ。

「サッカーを続ける限り、この先も来年なのか、再来年なのかはわかりませんが、おそらく問題は出てくると思うんです。でも自分の体に敏感に耳を傾けられる癖がついていたら、その予防にもなるかもしれないし、仮に痛いところが出てきても、自分で解決できることもあるかもしれない。例えば、ここが張ってきたから、このストレッチをしようとか、体のバランスが崩れてきているのを感じ取ったら、それを整えるトレーニングに取り組むとか。この先、長くサッカーをするためには、問題を感じ取った時に、できるだけ早く自分で解決できるようになることも必要だと感じたので、大にもそういうアプローチをしていました(田中PT)」

部分合流にあたっては数字として左右の筋力差がないことも自信になった。

 そんなふうに時間をかけて進んできたリハビリがようやく中期段階に突入したのは、4月に入ってから。塚元によればこの時期の方が「復帰が見えてきた分、焦りが出たり、気持ちの浮き沈みがあった」らしく、時にモチベーションの低さを田中PTに見破られ、途中でリハビリを切り上げられた日もあったと聞く。

「復帰が全く見えていない時期は、どう頑張ってもプレーできないので焦ることもなかったんですけど、復帰が見えてきた途端に練習の様子も気になるし、早く戻りたいという気持ちが大きくなって…。そういう気持ちの揺れがあった中で一度だけどうしてもモチベーションが上がらない日があったんです。そしたら、それを田中さんに見破られてしまい…怒られるわけでもなく『今日はやめておこう』とすぐに切り上げられてしまった。頭ではそうした態度を取ることが自分に跳ね返ってくることもわかっていたんですけどね。田中さんにも自分のために力を貸してもらっているのに最低なことをしてしまったと、家に帰ってめちゃ反省しました」

 とは言え、それを含めても「リハビリ期間の長さを考えればモチベーションが低いような状態は凄く少なく、辛抱強く続けてくれた」と田中PT。それは「大の強さだと思います」とも言葉を続けた。

待ち望んだ部分合流。「ケガをする前より断然、体の状態はいい」。

 その後も、膝の状態に耳を傾けながら慎重にリハビリを進めた塚元は、6月半ばにはいよいよ田中PTの手を離れ、吉道公一朗フィジカルコーチのもとでのリハビリをスタート。2週間の時間を費やした上で、冒頭にも書いた部分合流にたどり着く。背中を押してくれたのはリハビリを乗り越えられた自信と「ケガをする前より断然、体の状態はいい」という感覚、そして『数字』だったという。

「感覚的にケガをする前の自分よりも動けているんじゃないかと思えているのもすごくポジティブなことですけど、何より自分にとっては、片足でのジャンプテストなどの筋力測定をした際に、数字として左右差がほぼなくなってきたのがすごく大きい。実際、ケガをする前は…おそらくはアカデミー時代から積み重なってきたいろんなケガの影響もあって、実は右は左の3分の2くらいしか筋力がなかったんです。でも今はほぼ、同じくらいの筋力がついたというか。ケガをしていない左足の筋力を100%として右足の筋力が95%以上になったら復帰していいって言われていたんですけど、それをしっかりクリアして部分合流できたことが自信になっています。まだ完全合流はしていないとはいえ、以前に感じていたような、また同じことが起きるんじゃないか、的な不安も自然と消えていました」

 もちろん、そうは言っても、これだけ長い離脱からの復帰となれば、いまだに慎重にならざるを得ない部分もある。田中PTも「僕も未だに敢えていろんなことを疑いながら彼の状態を見守っている」そうだ。本人にも油断はなく、練習前後のケアも変わらずに続けているという。

「練習前は必ず1時間半前にきて準備をしていますし、練習後も…ストレッチは練習直後と寝る前の2度、欠かさずにやっています。苦手だった筋トレにも力を入れ始めました。もちろん、田中さんに言われた、自分の体にしっかり耳を傾けることも心掛けています。また、最近は管理栄養士さんにサポートしてもらって食事にも気をつけるようになりました。といっても、一人暮らしなので自炊も含めて続けられる自信はなかったんですけど(笑)、栄養バランスに過不足がないかを見てもらうために毎日、食べたものを撮影して、管理栄養士さんに(メールで)送らなきゃいけないので、全くサボれません(笑)。でも、そのおかげか体重は3キロ増えたけど体脂肪は減ったし、部分合流をしてから動けているという感覚を得られているのも、そういった体の中身の変化もあるかもしれません」

ドリブルでの仕掛け、シュートセンスがウリのFW。21年はJ1リーグ8試合に出場した。

 現時点での目標は、とにかく公式戦のピッチに戻ること。アカデミー時代から、目の前にある小さな目標を一つずつ積み重ねてきたからこそ、大きな目標は描いていない。

「部分合流ができた今は、完全合流をして公式戦に出場することが現時点での目標です。これまでのキャリアもそうやって着実に小さな目標を達成してきた先に、プロキャリアがあったり、J1リーグ出場があったと考えても、まずはとにかく公式戦の…できれば、早くあのパナソニックスタジアム吹田のピッチに立ちたい。僕はコロナ禍の20年にプロキャリアをスタートしたので、J1リーグの試合に出してもらった時はまだ無観客試合だとか、手拍子だけの応援という状況でのプレーだったんです。それだけに、今年に入って声出し応援が100%解禁されたパナスタを目の当たりにして、改めて応援の凄さ、スタジアムの迫力を感じました。あの中でプレーできたらめちゃめちゃ幸せやろうなって思います。だから早くパナスタのピッチで、ガンバサポーターの声援のもとでプレーしたい。長いリハビリを一番近くで支えてくれた両親をはじめとする身近な人たち、メディカルスタッフの皆さん、いろんなサポートをしていただいたクラブにも1日も早くその姿を見せたいと思っています」

 一段の階段を何歩もかけて、1つのメニューを何日もかけて、辛抱強く、粘り強く、自分の体と向き合い続けた1年半。長いトンネルの先にようやく見出した「サッカーができる幸せ」という光は、この先きっと、塚元の強さに変わる。

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